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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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美味しい

 

 離れで少し休むように言われ、半刻経過してから、雪華は主屋おもやに行った。

 朱翠影が優しく迎えてくれる。


「ちょうど準備が整ったところです。食事を運んで来ますので、縁側えんがわでお待ちください。庭の景色を眺めながら、いただきましょう」


 庭の景色を眺めながら、とはずいぶん風流ね……まずそのことに気を取られたのだが、それよりも彼、今、変なことを言わなかった?


「食事を運んで来ますとおっしゃいましたか? 朱殿の身分だと、そういうことはご自身でやらないのかと思っていました」


 皇帝の弟君だから、使用人が何人もいるのかと……。


「掃除や洗濯は通いでしてくれる者がおります。ただ食事は付きっきりで世話をされるとわずらわしいので、自分でやるようにしていまして」


「そうでしたか……ん? もしかして今夜の食事、朱殿が作られたのですか?」


「はい、お口に合うかどうか分かりませんが」


 雪華は目を瞠った。もっと前に「食事は私が作ります」と言ってくださいよ! と叫び出したい気持ちだ。


「言ってくだされば、私も手伝ったのに」


「手伝いなどされては困ります」


「なぜ?」


「雪華殿は私のあるじですので」


 違う。


「あの……もしかしてこれから毎日、ずっと、私の食事を作るつもりですか?」


「頑張ります」


 頑張らなくていい。


「じゃあ交代で作るのはどうです?」


「却下」


 いつもはなんでも言うことを聞いてくれるのに、たまに強めの「却下」が飛び出す。手強てごわいぞ、朱翠影……。

 私は腕組みをして一計を案じた。


「……先ほど朱殿は『食事は付きっきりで世話をされるとわずらわしい』とおっしゃいましたね。つまり私に世話をされると、あなたは煩わしいのね?」


「違います」


「じゃあ交代で作る、これで決まりです」


「………………」


 あら、頷かない。


「交代制が不満なら、一緒に作りますか? 台所にふたりでいるのは、あなたにとっては煩わしいかもしれないけれど」


 一緒に作りますか? という代案を提示したのは、先に出した交代制の案を通すためだ。二択にすることで、朱翠影はどちらか選ばないといけなくなる。

 ……どう? 二択でどちらが良いかといえば、交代制のほうでしょう?


「煩わしいわけがない。それでは一緒に作りましょう」


 朱翠影がそう答え、これからは食事を一緒に作ることになった。


 * * *


 台所から協力してぜんを運び、縁側に持って行く。

 縁側の前には長方卓が置いてあり、そこに膳を置いた。

 庭園は見事な眺めだった。すでに周囲は薄暗くなりかけていて、灯籠が淡い光を放っている。


「すごく美味しそうだわ」


 雪華は料理を眺め、笑顔になった。

 たけのこのあつもの、家鴨あひる肉の揚げ物、点心、香の物、季節の野菜、季節の果物……故郷烏解にいた時は祭事でも、こんなに美味しそうな食事はお目にかかれなかった。


「味つけは薄めにしてみました」


「ありがとうございます。濃い味よりも、食材の味が分かるほうが好みです」


 それから食事が始まり、雪華が微笑みながら「美味しい」と何度も言うと、そのたびに朱翠影は「良かったです」と嬉しそうに瞳を和らげる。

 お世辞抜きに美味しいので、雪華は興味津々で作り方を訊いたり、景色を眺めて「あの木は故郷にはなかったわ」と感想を述べたりした。

 朱翠影は怜悧な顔立ちをしているが、ふたり一緒にいる時は、不思議と物柔らかになる。雑談に応じる声音もやはり柔らかい。

 食事もだいぶ進んだ頃、雪華は後宮で体験した出来事を話し始めた。



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