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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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あなたが私のせいでだめ人間になったなら、責任を持って一生面倒見ます

 

 正殿の西に後宮があるとのことで、雪華と朱翠影はそちらに向かった。

 後宮はひときわ高い版築はんちく壁に囲まれており、出入口は一カ所だけ。

 部外者を中に入れないため、そして妃や女官を外に出さないため、出入口の『通桂つうけい門』は警備が厳重である。

 朱翠影がひとりで門衛と話し、いくつか指示を出すあいだ、雪華は離れた場所で待っていた。やがて彼が戻って来て、隣に並ぶ。


「少し時間がかかります」


「手続きありがとうございます」


 すると朱翠影が門扉の前でこちらに向き直った。


「この先、私は御供できません――くれぐれもお気をつけて」


「大丈夫ですよ」


 姉妹で団子屋を営んできたのだ、危険な目に遭ったことは何度もある。村の治安は良かったけれど、烏解は大都市への抜け道になっているので、物騒な旅人が立ち寄ることもあった。

 有事ゆうじそなえて、身を護る術は習得している。姐姐ジェジェのしごきはかなり厳しかったので、都の武官もあれを体験したら驚くのではないだろうか。

 それが今、大きな財産となっている。

 何かあっても武力で対抗できるという自信があれば、ちょっとやそっとのことでは慌てる必要もない。

 雪華がゆったりと構えているのに対し、朱翠影は浮かない顔だ。


「……私が宦官かんがんだったら、一緒に『中』に入れるのに」


「朱殿、そうなると私たちは二度と『外』では会えませんよ」


 雪華は後宮に永住するつもりはないから、朱翠影が宦官になって中に住み着いてしまうと、そのほうが困る。


「身を裂かれるような思いです」


 朱翠影が低い声で呟きを漏らした。

 ――宦官は実際に身の一部を裂かれているわけだから、それにかけた発言だろうか、上手いことを言うものだと雪華は感心した。

 面白がり笑みを浮かべる雪華と、苦悩に満ちた朱翠影の視線が交差する。

 やがて諦めがついたのか、朱翠影がため息交じりに告げた。


「案内役として、下働きの女官を手配してあります。名は甜甜テンテン――中に染まっていない者のほうが良いかと思い、半年前に後宮に入った娘を選びました」


「助かります」


「性格が合わないようなら次から代えますので、おっしゃってください」


 おっとまたもや過保護発動だ……雪華は笑みを浮かべたまま瞳を細めた。若干顔が引き攣ってしまう。

 ……私は平民だから、「案内役を付けてやるだけありがたいと思え、甜甜テンテンと上手くやるのもお前の仕事のうちだ」と言われて当然なのだけれど……。


「……朱殿と一緒にいるとぬるま湯すぎて、皆、だめ人間になる気がします」


「失敬な――私は見境なく誰でも甘やかすわけではありませんよ」


「甘やかしているではありませんか」


「甘やかしてだめになる相手なら、私は甘やかしたりしません」


「そうかしら……」


 私はだめになる自信があるのだけれど。こんな生活を続けていれば、一年後には朱翠影がそばにいないとつらくなるという、困った生態に変わってしまうと思う。


「万が一あなたが私のせいでだめ人間になったなら、責任を持って一生面倒見ます」


「………………」


 雪華はぱちりと目を瞬いた。

 なんとまあ、驚いた。彼の責任感の強さは、都で一番に違いない。

 端正な武官が悲痛な覚悟を語ったので、雪華は『この人は怜悧に見えて意外とお人好しだから、放っておくと悪人に騙されて不幸になるかもしれない。心配だから私が行く末を見守ろう』と心に決めた。



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