大罪魔獣『暴食の影狼』マルコシアス
もう、動くしかなかった。
俺は闘気を解放し、マルコシアスに向かって走り出す。
背後で、レイが叫んだような気がしたが無視。
生きて帰るには、こいつを倒すしかない。
「剣技───『四閃刀』!!」
縦と横に二回ずつ斬る技。俺の得意技だ。
ミスリルソードに闘気を込めた斬撃、前の俺ならともかく、今の俺ならミスリルソードを闘気で守りながら斬撃力を上げることもできる。
この状態なら、岩石だってバターのように。
「えっ」
斬撃が当たった瞬間、ミスリルソードが砕け散った。
何が起きた。
マルコシアスの尻尾が、動いたような気がした。
背筋に冷たい汗が流れ、全力でありったけの闘気を解放し両腕を交差した。
次の瞬間、視界が歪んだ。
「───……~~? ───、……??」
意味がわからない。
世界がグニャグニャになっていた。俺の腕もグニャグニャだ。
タコのような世界。おかしい、なんだこれ?
誰だ? 眼の前にいる?
「き、リュウ……キ!!」
「~~……?? ───」
レイ、アピア?
なんで、この二人が? 何が、おきた?
「リュウキ!! リュウキってば!!」
「い、いやぁぁぁ!!」
「キュア!! キュア!! キュア!!……う、うぅぅ」
「ち、ちくしょうが!! はぁ、はぁ、はぁ……」
ああ、俺の腕……ない。
千切れ飛んだのか。
血がすごいな。はは、よく生きている。
レイ、俺を抱きしめてる。アピア、泣くな。
レノ、逃げろ。お前じゃ無理だ。サリオ、やめとけ。もう無理だ。
『ハルルル……』
マルコシアスは、餌を見るような眼で俺たちを見ていた。
こいつ、初めから戦う気なんてない。
餌。
餌なんだ。こいつにとって、俺たちは餌。
現れたから、食うだけ。
戦うとかじゃない。目の前に飛んでいる羽虫に、舌を伸ばすだけ。
「ど、どうしよう、どうしよう、どうしよう……に、兄さん、兄さん」
「はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ!! し、死ぬ。死ぬ。死ぬ」
「ごめん、ごめんリュウキくん……ぼ、ぼく、もうむり」
「リュウキくん、リュウキくん、死なないで、死なないで」
レイが動転し、レノは死を感じ、サリオは諦め、アピアは俺を抱きしめてくれた。
温かい。ああ、死なせたくない。
死なせたく、ない。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
───死なせたくない?
ああ、死なせたくない。
───やれやれ、手間のかかる。
え?
───まだ、この段階ではない。
誰?
───これは、きっかけだ。
……きっかけ?
───お前は、最初で最後。ドラゴンの力を受け継いだ人間。
この声、もしかして。
───ふふ、頑張れ、リュウキ。
お前は───。
───さぁ、あんな狼……丸呑みしろ
エンシェント、ドラゴン……?
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「……え?」
「……え」
「……え」
「え……?」
両腕を失ったリュウキが、ゆっくりと立ち上がった。
フラフラとした動きで、肘から消失した腕の断面から血を流しながら。
死にかけていたリュウキが立ち上がった。
このことで、四人はわずかに理性を取り戻す。
だが───リュウキは、逆だった。
「ウ……」
ビクン、ビクンと身体が痙攣した。
そして───リュウキの右目が、真紅と黄金が混じった色に変わる。
同時に、失った両腕がズルズルと生えてきた。が……普通の腕ではなかった。
左腕は、分厚い装甲版のような、黄金の表皮に赤いラインが入った腕。
右腕は、通常の三倍はある肥大した装甲のような腕だった。
さらに、髪が金色に染まり───絶叫した。
「ウ、オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ───ッ!!!!!!」
圧倒的な闘気があふれだす。
可視化できるほどに濃密となった闘気。レイたちにも、黄金のモヤがリュウキを包んでいるのが見えた。
リュウキの頭に、二本のツノが生える。
この事態、マルコシアスも無視できなかった。
『───!?』
「ハァァァァ~~~っ!!」
口を歪めたリュウキは、笑っていた。
リュウキであり、リュウキでない……完全に、暴走していた。
マルコシアスはようやく、リュウキを『餌』ではなく『異物』と認め、尾を逆立てる。
だが、『闘気解放』によってリュウキの身体は極限まで強化されている。
一瞬でマルコシアスの眼前まで現れ、巨大な右手でマルコシアスの顔面を掴み、そのまま部屋に壁に叩き付けた。
『ガッ……!?』
「ハァッハッハッハァ!! ハァァァァッ!! アハハハハッ!!」
リュウキはゲラゲラ笑い、再びマルコシアスに向かって走り出した。




