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幕開け

 ボクは村の正面から入ると、まずは村民たちがどのような様子なのかを確認した。真夜中であろうが、起きている人間は起きているからね。


 一軒一軒昔の記憶を探りながら回っていき、全ての人間が床についていることを目視で確認した。ならば邪魔は入らなさそうだ。もう少しこの村を堪能してからショーを始めようか。


 

 ボクは村のメインとも言える、小さな銅像がある石畳の広場へとやってきた。この銅像はボクが小さい頃からずっとあり、その姿は当然ながら変わっていない。ボクには全くもって良さがわからないモニュメントではあるが、まあある程度の金を費やして維持しているのだろう。手入れはある程度行き渡っていて、錆や欠けが見られる点は特になかった。


 そしてこの広場の奥には、確か広い牧場があるはずだ。入ったことはないけれど聞いたことはある。一度はその目で確かめてみたかった。


「へぇ…‥これがイノシシ牧場。……まあ、実際は放し飼いされているだけだから牧場というには怪しいけど」


 ただただ広い森と草原の間に広がるのは、柵で囲まれただけの簡素な牧場。けど放し飼いされているだけだ。なにが飼育なのか。それに、イノシシはかなり獰猛で簡単に柵は壊せてしまうだろう。全くもって馬鹿なんだな。


「でも軽蔑するだけの存在もそれはそれで可哀想か」


 うんうん、彼らも頑張って生きているのだから馬鹿にするのは可哀想だ。主にイノシシが。


「ま、十分に堪能したしそろそろショーを始めようかな」


 村の中央に戻り、ボクは楽しみを胸に魔法を唱えた。


 まずはショーの舞台から。


「<炎壁>(ファイヤーウォール)」


 ボクが放った炎は、この村をちょうど囲うように壁を作り、完全に外界と遮断した。高さは15メートルほどで、本物の炎で作られているから外へ出ることは叶わない。これが『箱庭』。ショーの舞台だ。



 炎が放たれてから数分後、初めて事態に気付いた村人が出てきた。そしてその後も続々と村人は事態に気づき、全員が家屋が倒壊する前に屋外へ出てくることができた。ボクはしれっとその集まっている村人たちの円の中に混ざり、周りを観察する。


 まずは癖というか、軍人の性というか、相手の強さを確認する。……まあ大体は平均ステータスが1600ぐらい。ま、普通だね。強いていうなら牧場の経営というのはそれなりに体力を使うから、筋力や速力といったステータスがほんの少しだけ平均より高いぐらい。でも誤差よ誤差。

 あとは4人組の冒険者らしき手練れがいるぐらい。人間っていいよねー。冒険者なんてのんびりしたシステムがあって。魔族は戦える人ほぼ全員が戦場に出ているっていうのに。


 ステータスの観察が終了したところで、今度は顔を確認する。メインとなるのはやはり、ボクの父と母。ボクからみて左前の方にいるね。けれど、どちらかというとヒリアさんやサラさんの方が親に近い。より親しいし、生活の術を教えてくれたから。でも血縁上は家族という枠組みに入るし、ボクは仮にも人間だ。全くもって、ボクにはいらない枠組みだけどね。

 他にも色々と覚えている顔はあるけど、名前はともかく風貌がまるで一致しない。顔を覚えるのは得意だったんだけどねぇ…。


 まあ、逆に言えばそんなことにも脳のリソースを割いていないボクの頭を褒めるべきかな。


「じゃ、そろそろ第一部のスタートだ……」


 ボクはだんだんと抑えていたステータスを解放していき、歩いて村人たちの作る円の中心に向かった。


 村人たちはボクを見てざわつき始めた。辺境の村にあるには異質な純白の鎧に身を包み、兜を被った者など警戒しないわけがない。当然と言えば当然の反応。


「皆!武器を取れ!あの鎧の男が今回の火事の犯人だ!」


 ボクが歩き始めると、とある男がボクのことを指差して叫んだ。


 そしてそれに鼓舞されたように、村人たちは武器を手に取り始めた。


「かかれ!」


 その号令と共にボクを殺そうと向かってくるも、村人たちの目にはまだ躊躇いがあった。まあ怪しい者とはいえ、この火災の犯人と決まったわけじゃないからね。


 でも残念。ボクはこの火災の犯人だけど、武器を持って向かってくるものに容赦はない。


 ボクは剣を抜いて一薙ぎすると、碌な戦闘訓練も受けていない奴らは一瞬で肉塊へと変わった。死ぬ直前の驚いた顔のまま固まり、なんとも滑稽な死に体を晒している。ボクはその肉塊を見ていると、だんだんと笑いが込み上げてきた。


「あは………あはははは!!!君ら人間ってほんっとうに馬鹿だよねー、全く」


 惨めで、憐れで、貧弱な存在だ。この世は弱肉強食なんだから、君らみたいなゴミはいらないんだよ。


「今日、君らはここで死ぬ。炎に囲まれ、成す術なくボクに蹂躙されるのさ。この魔王軍幹部『神剣』のラミアにね」


「ま、魔王軍幹部だと……?」


 村人たちに動揺が広がる。そして村人たちの動揺を鎮めるように、この村の長が静かに口を開いた。


「仮に、あなたがあの魔王軍幹部だとしよう。けれどあなたは、何用でこの村に来たのだ?」


「言ったでしょ。君たちを殺すためさ。まあ安心して。大人しくしてれば酷い殺し方はしないから。…ね?」


 含みをたっぷり乗せた言葉を放つ。相手からすれば、言葉を信じたくなるものだ。けれどその言葉の言い方一つで、与える印象は大きく変えることができる。更には、村人から見ればボクは魔族で悪い奴。信頼するどころか否定から思考が入るのは当然のこと。


「そんな言葉、誰が信じるものか!」


 ならばそんなダウトをかけるような言葉が飛んでくるのは自然な流れだ。そして村長という強い力を持った人物のこの発言に村人は踊らされて、ボクに歯向かってくる。


「死ぬのなら…せめて一矢報いてから…!」


 そんな声が村人全員にこだまし、戦いを焚き付ける。目に闘志がみなぎっている。


 馬鹿だなー。そして同時にとても清々しい。ボクが思っていた通りに村人は思考を巡らせ、舞台の上で踊る。滑稽で滑稽で笑いが止まらない。


「あはははは!…ああ〜笑った笑った。いいよいいよ。ボクに傷を負わせることができると思うならかかってきなよ。でも…‥残ってるのはもう女子供に老人だけ。それと少しの冒険者かな?いいよいいよ。来なよ。せいぜいボクを楽しませてみてよ」


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