自分の過去
「何回も言うけどあれはやりすぎだからね?今度から自重するように」
「はーい……」
家に帰ってきてずっと言われてる…。
「ところで、さっき言ってた用事って?」
「うーん、前から言おうと思ってたんだけどね。流石にボクの過去をティアに話しておこうってね」
「ミアの…過去?またなんで今?」
「だってこれからボクが生きられるって保証はないから。ボクがシタデルでニーアに出会ってしまった以上、これから少しはボクについて情報が収集されるはず。幸いまだ顔は割れてないはずだけど、ボクが人間だってバレるのは時間の問題でしょ」
「……確かにね」
「だから今のうちに話そうって思って。だってティア、なんだかんだボクの過去について知らないでしょ?」
「そうねー…」
「じゃあ早速、話していこうかな。あ、道中出来るだけ会話してくれると助かる。1人独走するような形で話したくないし」
「分かった」
「えっと、まずボクは小さな村に生まれたんだ。村……正確には街だったかもしれないけど、まあ小さい頃だからそこら辺は曖昧。ボクは一応長女で妹がいた。年は…‥2歳差かな。でも、人間の中では長女は厄災の元って言われてるからボクの扱いはそう良いものではなかった。基本的に服は布切れだし寝る場所も普通の地面。今思えば、あの地面は硬かったなぁ」
「人間は長女に対してどの家庭でもそのような行為を行ってるの?」
「わからない。けど多分ボクの家は割と人間の中でもそういう迷信とかを信じていた。だからかな。ボクの扱いが酷かったのは。でもそのおかげで、体の使い方は上手くなったよ。食べ物は全部ボクが自分で用意しなきゃいけなかったからね。熊とか猪とか、そう言う獣を狩るのは上手になっていった。もちろん、怪我もしたけどね」
「で、そこから幾分か月が流れた時、ボクはいつもみたいに狩りをしていたんだ。けどそこに妹が現れた。ボクはその時、妹のことが嫌いだった。だってボクとは違っていい生活してるんだもん。ボクだって同じ人間なのに…。でも、なんやかんやあって妹には優しくなっていった。なんて言うんだろう、姉としての性かなぁ。あの頃は楽しかったよ。いかにも子供っぽい感じで、この世の醜い部分には触れなかった期間だ」
「そしてある日、ボクは唐突に家の中に入れって言われた。信じられる?今まで侵入を固く禁じられてきた場所にいきなり入れって、それはそれは不安になったよ。そして案の定、その日がボクの絶望の入り口だった。ボクが勇者にふさわしい人材だと見抜かれて王都に連行された。そして何より、王都に行くための馬車に乗ったときの妹の顔が忘れられない。あいつは清々しい顔でボクを見送った。今思い返しても腹が立つよ。その後ボクがどんな目に遭わされるか知らなかっただろうけど、ボクにはそれが恣意的なものに見えた」
「そう……」
「妹は、ボクを裏切ったんだ。ボクがあの世界で唯一信頼してたのに!頭が狂いそうになったよ。……そして王都に行ってからはもう苦痛の記憶しかない。勇者勇者って一日に何百回と聞いて、ほぼ裸の状態で鞭で打たれて拷問に等しい行為をされた。鞭で打たれる衝撃がわかる?骨の中心にジーンと来るような痛みがきてそのまま息を吸うのも苦しくなる。極め付けはボクが何人かの十二騎士に取り押さえられてそのままナイフで刺されて殺されたこと。口実は……なんだったかな。痛みに慣れろとかほざいてたけど死んだら元も子もないじゃないか。……他にも酷いものはあったよ。でもやっぱり死っていう体験は忘れられないよね」
「酷い、ね………」
「うん。まあそんなことされたら憎めずにはいられなかった。別に個人に恨みがあるわけじゃなかった。だってボクに酷いことをした奴は沢山いる。じゃあそいつらの共通点は?そんなの決まってる、人間だって言うこと。だからボクは人間が嫌いだ。見た瞬間に殺したくなる。でもそいつらとは違って、君ら魔族はとても優しかった。素晴らしいほどにね。人間とは違って異種族であるボクを広い心で拾ってくれた。人間なら、そんなことしなかっただろうに」
「ミアの過去…詳しく聞いたのは初めてね」
「でしょ?話しておいてよかったよ。あと付け足したいことといえばボクは今でも勇者だ。知ってる?勇者っていうのは、人間に不利益なものを排除するためにいるんだ。だからこの世界で一定の力を持っている。そしてボクの思うこの世界最大の汚点は人間自身だ。つまり、ボクは人間を完全に排除する。ティアと一緒にね」
「うん。頑張ろう。人間を滅ぼそうよ」
「もちろん。………実はさ、今日このタイミングでこの話をしようっていうのはちょっと前から決まっていたんだ」
「なんで?」
「それがね、ボクが生まれた村が判明したから」
「え?」
「正確には結構前からわかってたみたいだけど、ボクの方にその情報が来たのは最近だったからなんだよね」
「なるほど………。で、私に何をして欲しいの?」
「それはもう簡単な仕事を。ボクはあの村を焼き尽くして復讐する。それを手伝って欲しいんだ」
「分かったわ。私の一番の親友の大一番。見事サポートしてみせるわ」
「ありがとう」
「判明した街の場所と日時は?」
「場所はリチャッカ村、日時は7日後の日没直後から」
「リチャッカ村って結構いい場所じゃん⁈あれでしょ、あのウーロンで食べた猪肉を取り扱ってた村」
「そうそう。だから村の周辺に獣がいたのかーって今更。普通村の周りに獣なんていたら大問題だから」
「そうね……。でも日時が決まってるならよかった。私もできる限り準備しておくわ」
わざわざリチャッカ村とかいう固有名詞を考えた意味がここにつまってます。気づいていた人はいるかもしれませんね。




