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お話


 本陣から出て向かったのは近くにあった人気のない森。なんだかんだボクは森と縁があるからね。気が向いてきてしまった。


「はあぁ………」


 大きくため息をつく。上を見上げれば木々の間から光が見えて、空気が澄んでいるのがわかる。地面に横たわって土の匂いを感じる。けど、この森のすぐそばでは種族間での殺し合いが行われていたんだよね……。やっぱ、ボクらが生きているこの世界はちっちゃいのかな。


「ボクの周りで人が死ぬのは……耐え難いな…」


 ボクはこの世界でも強い方に属すると思っている。けど、強いと自認することには責任が伴う。強ければ弱い者を守らなければいけないという決まりはどこにもない。でも、同じ集団に属して同じ夢を持っている者を見殺しにするのはいかがなものかと思う。


 今回だってそうだ。ボクの指示によって多数の魔族が危険に晒されて、内2名は死んでしまった。ついさっき、数時間前まで一緒に話して笑顔も見た仲間が。それはどれだけ残酷なことなんだろうか。


 でもやっぱりこの感覚を捨てようとか、持つことを拒否するとか、そういうことはできそうにない。ボクはそこまで非道にはなれないのだ。それが自分で憎い。人間に復讐するんだって誓って、同族を殺すことも厭わないようになったのに。どうしても捨てられないなかったのだ。


 ……感情を捨てたら、少しは楽になるのかな。


「もう、そんなこと考えたらダメだ!」


 感情を持たないとボクは殺戮マシーンになる。それは過去の自分と何も変わっていない。だから絶対にやってはいけないのだ。人間とは違うということを証明しないといけない。勇者という立場のものに殺人の術を教え、感情を捨てることを強制した奴らと一緒はごめんだ。


 また上を見上げる。サタンさんと会った森はまた違った雰囲気だったけど、あれも好きだったなぁ。 


「…あ、ミーナ」


 ガサゴソと枝を踏む音が聞こえたからそっちの方を見たらミーナが立っていた。


「すいません、1人の時間…邪魔しちゃいましたか?」


「いや、大丈夫。ミーナも一緒にどう?」


「じゃ、じゃあ…」


 そう言ってミーナもボクの隣に寝そべってきた。


「ラミア様は………いつもこのようにされているのですか?」


「んー、戦場に来たらいっつも1人で過ごす時間をとっている気がするな。ボク、そんなに集団で過ごすのが好きじゃないから」


「同感です。私も1人の方が好きなんですよね。静かに自分に集中できるから」


「わかるよ。なんだかんだ言って、ボクとミーナは似たもの同士だね。好みとか一緒だ」


「ですね。ラミア様と似たもの同士なのは薄々思っていましたけどね」


「やっぱり?ところでさ、シタデルでボクが言ったことやってくれた?」


「魔法の回収と捕虜の確保。どちらも達成しましたよ」


 ボクがミーナに与えていた任務の1つはシタデル特有、正確には人間側のみが持っている魔法があるんじゃないかなと思ってその魔法に関して情報を回収してきてもらった。


 で、もう1つは捕虜。これは言わずもがなだ。


「捕虜はどんな感じ?」


「シタデルの領主を捕らえることに成功しました。けれど、おそらくは何も情報を持っていないんじゃないですかね?」


「なんで?」


「領主とは言ってもほかにもっと強い権力を持った人がいたはずです。例えば魔法開発の第一人者とか。見た感じその領主は少ししか魔法開発に携わっていなかったようです」


「そうなんだ……」


 と、なるとニーアが情報を持っている可能性が高いかな。領主からも情報は引き出すけどミーナのいう通りあんま情報は持ってなさそう。


「ありがとうね、ボクが言ったことをやってくれて」


「いえ、とんでもないです。私はあくまでラミア様の部下ですから。上官のいうことは遂行します」


「頼もしいよ。……ミーナはさ、何か特定の相手に復讐したいとかはあるの?」


「いるにはいますけど……」


「誰?言いたくないなら言わなくてもいいけど………」


「勇者って言ったら、怒りますか?」


「いや。そんなことはない。けど……それにしても勇者か。ボクの肩身が狭いね」


 ミーナが苦笑いをする。


「ボクの予想では、君が住んでいたっていう吸血鬼の村が勇者に滅ぼされたってとこかな。それなら勇者を殺したいと思っても納得だ」


「……正解です。けれどその勇者は既に死んでしまっています。だって、ラミア様が勇者として覚醒したということは、ね」


「勇者は世界に一人しか存在しないっていうルールに則るとそうなるよね。大体ボクの5代とか6代とか前の勇者なんじゃないかな?勇者って基本すぐ交代しちゃうから」


「……なので、私が復讐したい相手は居た、と表現するのが正解ですね」


「なるほど」


 勇者はその性質上すぐに交代してしまう。長年戦っていても老いていき戦いの才も鈍る。どうやらメシア王国の国王は勇者の寿命変更まではできないそう。だから5年とかで交代してしまう。でも、引退した勇者はすぐ一般市民に戻るのではなく十二騎士としてその生を過ごすことになる。


「ラミア様は復讐したい相手はいるんですか?」


「うん。でも、名前は言わないかな。ボクのは秘密ってことで」


「なんですかそれ、ずるい」


「ごめんね、けど言いたくないんだ。第一、ボクはミーナに拒否権を与えたでしょ?だからボクはその拒否権を行使しただけ」


「何も言い返せない……」


「あはは。そろそろ戻ろうか。ボクらは帰還命令が出ているからね、帰り道にミーナに小さな村を破壊しながら魔都に帰ろう」


「わかりました。隊のみんなにも伝えてきますね」


「ありがとうね」

 

 そう言ってボクらはシタデルを離れて魔都へと帰還した。道すがら破壊した村は大体5つ。正確な数は覚えてないや。けど、シタデル攻略に関わった兵全員を率いて魔都に向かったせいか帰還には1ヶ月ほどかかってしまった。人間側の領地から遠すぎるんだよ……。



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