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戦の終わり

250ptありがとうございます!

「ありゃ、無駄足だったかな」


 つい数十分前までは接戦だった左の戦場に戻ってきたけど、さっきまでの接戦は嘘だったかのように魔王軍が押していた。やっぱり魔王軍幹部の力ってすごいね。


「もう終わってましたか」


 とぼとぼ歩きながらヴェラさんに声をかける。


「そうね。あなたの助けを借りるまでもなかったわ」


「ヴェラさんのおかげでこの戦場は助かりましたね」


「それよりも、情報は聞き出せた?」


 先ほどのザック君の方へ話題を転換する。


「いや、あんま有益な情報は得られませんでしたね。もう殺してしまいましたし」


「聞くけどどうやって?」


「足を切断して泣き叫ばせて、人間だと明かして首チョンパですけど」


「…あなたらしくむごたらしい殺し方ね」


「それが取り柄なもんで」


 ボクは特に有益じゃなかった人間には容赦ないんだ。それが雑兵であっても、十二騎士であっても。


「でー、この戦場はもう用済みだけど、これからどうすれば良いのかしら」


「とりあえずは戦いが終わったことを魔王様に伝えます。そこから指示を貰おうかなって思いますけど」


「分かったわ。…それにしてもあなたが指導しているなんてね」


「?何をですか?」


「あなたの隊よ。私が思っているよりも彼らは良い働きをしてくれた。彼らなら、十二騎士を討伐する日も遠くはないのかもね」


「だといいです。ボクの部下ですから」


「頼りになるわね。じゃあ私は先に陣に戻ってゆっくりしているから。あとはよろしく」


「ちょっと⁉︎一番面倒な後片付けを押し付けないでくださいよ!」


「聞こえないわー」


「ヴェラさんってば!……もう、しょうがない。ギルク、今の会話聴いてたね?」


「まあ…一応」


「じゃあ隊のみんなで戦いの終わりを伝えて回って。あ、でもミーナはボクのところにくるように指示をしといて」


「わかりました。団長、今回もかっこよかったですよ」


「ありがとね。ギルクもよくやってくれたね」


「ありがとうございます。じゃあ俺は吹聴してきますよ」


「うん」


 とりあえず戦いは終わったけど……刺激が欲しかったな。



※※※


その頃〜王都にて〜


「転移陣が光り始めたぞ!」


 転移陣。それは転移石の行き先として設定されている、特殊な魔力が込められた陣のことだ。転移石は高位の兵、具体的には王国十二騎士や十二騎士見習い、勇者に与えられる貴重なアイテムだ。


 転移石はがむしゃらな錬金術によって作れるものではなく、当然非常に精密な技術が求められる。100年に一度しか掘られないという特殊な魔岩石を使用し、一流と言われる錬金術師が1週間ずっと魔力を与えて錬成したものが転移石となる。ただもちろん一流の錬金術師は人間であるため、失敗ということもありえる。なので結局は100年に3個できればいい方なのだ(1つの魔岩石からは10個ほどの転移石が作れるほどの石が採れる)。


 つまり、私が今監視している転移陣が光出したということは、十二騎士様や勇者様が帰ってきたということ。高貴な御方の1分は、一般兵の1日に匹敵すると言われる。そんな方達はわざわざ王都に歩いて戻ってくる時間が惜しいので、転移石を使って王都へ戻ってくるのだ。


「この転移陣の色は…‥ナイロン様のか」


 転移石にはそれぞれ込められている魔力の色が絶妙に異なるので、その色が転移人にも現れる。これはシンプルに誰が転移してくるのか分かりやすくするためで、転移陣が紫色に光るのはナイロン様だ。


 その転移陣の色から私たちはナイロン様が転移してくることを想定して待っていたが、2分ほどまってもナイロン様は転移してこなかった。


「しかしさっき確かに陣は光りましたよね?」


 近くにいる同僚に声をかける。この仕事についている中で、イケメンと呼ばれる男の方だ。


「ああ。けれど転移してこられないということは…おそらく転移が中止されたのだろう」


「そうですか」


 まあ転移する前に何かやらなければならないことを思い出したのだろう。ナイロン様も人間であるため、忘れごとの1つや2つはあるだろう。


 そう思い待っていると、その3分後に再度陣が紫に光り始めた。


 今度は来るのか?と思いつつも、うっすらと陣に物影が映ったため転移が完了されたことを確信した。


「「ナイロン様!………」」


 出迎え役全員が声を合わせるも、その言葉の最後には少しの悲鳴が混ざっていた。


 と言うのも、転移されたナイロン様の体は頭部しかなく、首より下は完全に切り取られていた。


「な、なぜこのようなお姿に………」


 見ると、首は一太刀で断ち切られており、おそらくは魔王軍の剣士がやったものだろうと予測できた。


「そこの貴方。この件を今すぐにヴェロスト様にお伝えしてください」


「は、はい!」


 ヴェロスト様へ使いを出させた後、出迎え役の内4人はずっとナイロン様の死体を見ていた。残り2人は部屋の隅で吐いているが、それも無理はないだろう。なにしろ私たち出迎え役は人間の国から出たことすらない者たちだ。王都で育てられ、この王城で働くために知識のみを蓄えてきた者たち。死体どころか血すらもまともに見たことがなかった。それなのに、いきなり生首だけを見ると言うのはなかなかにショッキングなことだったのだ。


 呆然としていると、この転移陣がある部屋の入り口に人が立っている気配がした。


「そこを退きなさい」


 優しくも威圧感のある独特な声。


「ヴェロスト様……」


「貴方達出迎え役には少々辛い出来事でしたね。ですが、この仕事というのはそこまで軽いものではありません。今回の出来事は、再度この役の意味と大義を考え直すいい機会ではありませんか」


「で、ですが…‥ナイロン様が…」


「いいのです。ナイロン。貴方は大義を尽くしましたね」


 そう言ってヴェロスト様はナイロン様の遺体の方へとしゃがみ、慈愛の言葉をかける。


「20年。その長い間王国を守る1つの盾としてよく働いてくれました。これならば貴方の家族や友人は喜ぶでしょう。後日、改めて感謝をお伝えしますね。それでは、この首は別室で保護呪文をかけて保管してください」


 ヴェロスト様の後ろの着いてきていた魔法使い達に声をかけた。魔法使いたちは泣きそうになりながらもヴェロスト様の指示に従って、ナイロン様の遺体を別室へと運んでいった。


「それでは私はこれで。また何かあったら……」


 ヴェロスト様が去ろうとした瞬間、またしても転移陣が輝き出した。今度の色は灰色。確かザック様の転移石だ。


「今度はザック様の転移が…」


「貴方たちは下がっていなさい」


 ヴェロスト様は私たちを庇うように後ろに下がらせた。転移陣が輝くのをやめ、転移が完了したとき、ザック様の影が朧げに見えた。


「ああ、やはり貴方も……」


 ヴェロスト様は嘆くように呟いたが、私たちがその事態を理解するまでには時間がかかった。そもそもザック様がナイロン様と同じように首だけの状態で帰ってきたということも数秒置いて理解した上、それが理解できた後もまさか王国十二騎士がほんの30分足らずで2人も魔族にやられてしまうなんて認めたくなかった。


「…どうやら彼らが居た戦場には相当の強者がいるようですね。これは私の采配ミスと言わざるを得ないでしょう。勇者様をお守りすることに集中し過ぎたがあまりに、ナイロンとザックが居た戦場にあまり戦力を割かなかった」


「そんなことはありません!これも全て…そう。全て魔族が悪いんです!ヴェロスト様に非があったわけでは決して」


「いえ。私を庇わずとも良いのです。人類という一大種族をまとめている身であるならば、全員を守ることは出来ずともせめて自分に仕えてくれている彼らを守るほどの実力がなければならないのです」


 …何も申し上げることができなかった。ヴェロスト様を決して責める気などないが、またヴェロスト様の御意志に逆らおうとも思わない。ましてやかの御方が人類を守るという大義を守るために決意を固めたというならば、私たち下っ端も気を引き締めなければならない。


「すまないが、ザックの遺体も別室へと運んでやってくれ。ナイロンと同日に、また弔ってやらなければなりませんから」



 この日を境に、王国全土の雰囲気が変わった。皆戦場へ行くことを志願し、研究者であれば尚更研究に没頭するようになった。原因は明白。どれもこれも全て、脅威の火の粉がまさに人類へ降りかかってきているからだ。





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