存在意義
「うーん、また招集をかけることになるんだけど………」
ボクの隊はなんだかんだいって士気が高い。けど、そんなモチベーションも何か休暇を与えないと失せてしまう。
だからモンスーンに関して祝賀を行うでもいいけど……あえて訓練するというのもあり。飴と鞭、どちらを選ぶかだ。
「でもやっぱり次の戦いからは激しくなるんだよなー」
何回も話されている通りここから先は雰囲気が変わる。今までは種族間同士の小競り合いだったのが、一気に種族の存亡をかけた戦いへと変化する。それはボクら魔王軍の全体認識であり揺るぎない真実だ。
ボクはできたら一人も死んでほしくない。隊のみんなも、仲の良い人たちも。そのためにはまずは自分の身は自分で守れるようにならないといけない。だから訓練してあげたいんだけど……。
「あー、もうこのまま考えていても埒が開かない!みんなに聞くことにするか……」
結局、その日のうちに隊のみんなには訓練場に来てもらった。
「えっと、まずはモンスーン襲撃作戦はお疲れ様。で、ボクが今回みんなを呼んだのはこれからの話をしたいからなんだけど…」
本題を切り出す。
「今君たちには2つの道がある。ひとつは今まで通り訓練、もうひとつはちょっとした休暇を取ること。どっちが良い?」
「「「…………」」」
「………団長。俺ら、あの後みんなで集まって話したんだ。モンスーンでのこと」
皆が黙っている中、副団長であるギルクが一歩前に出て発言した。
へー、みんなで集まって。少しのけものにされた気分。
「あの場では……俺らの甘さを認識させられた。団長との特訓で少し調子に乗っていたんだ。今の俺らなら…十二騎士とも張り合えるって」
自分は実際に戦いを見ていたわけではないが、怪我人の状況を見るに相当苦戦を強いられたのだろう。
「けどそんなことはなかった。実際、フェイクと接敵した時には成す術がなかった。得意の陣形も突破されて、仲間も何人か戦闘不能になった」
「でもフェイクは本当はあの席にいる実力じゃないし……」
「それはわかっている。けど悔しいんだ、俺らは。十二騎士とまともに張り合えない実力なのが。結局最後は団長に頼っちまったしよ……」
「ふーん。で、それを踏まえてボクにどうして欲しいの?」
「だから……団長。俺らをもっと強くしてくれ。十二騎士と張り合えるような、団長と肩を並べて戦えるように」
「私もです」「俺もだ」「僕も」
「へー……」
やる気はあるみたい。そして何より驚きなのはミーナも賛同していること。彼女が何か思うようなことはあっただろうか。そこにあるのは悔しいという気持ちなのか、あるいは別の気持ちなのか。
「じゃあこれからも訓練ってことで良い?休暇は一旦お預けで」
「おう!そうじゃねえと生きてるって感じがしねえ」
「では明日から訓練を再開する。安心して、ボクが君たちを強くしてあげるから」
「本当ですか⁈」
「もちろん。嘘はつかないよ。けど……死ぬほどキツくするからその覚悟で。じゃあ今日は終わり。帰って良いよ」
これで、次の方針は定まったね。これからも自分の隊を育て上げるってことで。
「あ、あの……ラミア様」
「うん?どうしたミーナ?」
「お話があるのですが……」
「それはみんなに聞かれたくない話?それとも開示しちゃっていい話?それによって対応が変わるんだけど」
「……どちらかというと前者です」
「分かった。どこで話そうか?」
「私の家に……来ていただけますか?」
「いいよー。行こっか」
※※※
「で、話ってなぁに?」
ミーナの顔を覗き込みながら尋ねる。
「私、話そうと思っていたんです。私の過去について」
「へぇー……。過去ってどういう解釈でいいのかな?」
「私の、全てという認識で」
「………そっか。でも別に焦って話さなくてもいいんだよ?」
「いえ。私は信頼できる人には自分自身を曝け出したほうがいいと思うんです。自分のためにも、相手のためにも」
「うん」
「ではお話ししていきます。少し長くなると思うのでお茶でも飲みながら」
そう言って紅茶を取り出してくれた。
その後はミーナが持っている全てをボクに長い時間をかけて教えてくれた。吸血鬼はこの世に2人しかいないこと、グラザームさんと血縁関係であること、そして人類にされた全てのこと。
「………それはまた…壮絶な過去だね」
話を全て聞き終わった時、最初に出てきた言葉はそれだった。
「家族も殺されて友達も殺されて……辛い、ね」
「……他人目線では割と重い話ですよね。けど、私にとっては人生の1ページに過ぎないんです。過去に重さなんてない。グラザームさんに真っ先に教わったことです」
「かっこいいね。……ボクは、まだ過去を割り切れてないよ」
「……過去を切り捨てることに意味はないと思いますよ」
「おや、その心は?」
「ラミア様にとって過去は、今の自分を理性的に保つための抗生剤になっているわけですから」
「……その表現は適切かもね。前にも話した通り、ボクは過去を燃料にしないとボクが暴走してしまう。それは自明だ。けど……時々、過去を忘れ去りたいことがある」
「どういう時ですか?」
「そうだね……本当にムカついた相手が目の前にいる時かな」
「例えば……?」
「ミーナに言ったかは覚えてないけど、ボクは人間側にいた頃クルガという十二騎士に色々されていたんだ。本当に……色々と。だからそいつの話を聞くたびにはらわたが煮え繰り返る思いをしているよ」
持っていた紅茶のカップを置く。
「けどさ、よく考えたら矛盾してるよね」
「矛盾ですか?」
「うん。過去に引っ張られて復讐をしているのに、いざ目の前に復讐相手がいると過去を捨てないと復讐ができないなんて」
「……矛盾してないじゃないですか」
「あれ、本当?」
「ええ、だって、復讐を遂げたらプラマイゼロ。過去は清算されるんですよ?それなら戦いの最中に過去を忘れ去るのは当然のことです」
「言われてみればそうかもね。矛盾していないような気がする」
「ですね」
「………うーん、どうしようかな。ミーナが過去を話してくれたからボクも話すのが礼儀だと思うんだけど、それは復讐が終わってからにしたいんだよね」
「そうですか……」
「だから……えっとそうだな。ボクが隊のみんなに思っている正直な感想とかどうかな?」
「聞いてみたいです!」
「ほんと?じゃあこれにするか」
紅茶を一口飲み話題を変える。
「…まず最初に、ボクが魔剣士隊を作った時は見捨てようと思っていたんだ」
「見捨てる?」
「うん。ある程度特訓して、十二騎士に対して肉壁ぐらいにはなればなって。けどね、初めて顔を合わせて、そこから特訓していって。そんな気はとうに失せたよ」
「………」
「安心した顔だね。そんな見捨てるなんて今は冗談だから。昔は本気だったけど。でもよく考えれば普通にイカれてるよ。大切な仲間を見捨てるなんて。でも、今は隊のみんなはいい家族だと思ってるよ。切磋琢磨しあういい仲間だ。そんなみんなをまとめる立場にいることができて光栄だね」
「そうですか……」
「うん。本当に、みんなを招集できてよかった。人生は会うべき人と出会うようになっているって、本当だね」
「そうですね。私もラミア様に会えてよかった、って思ってます」
「そっか。ボクが思うに、この魔剣士隊は家族みたいなものだ。一緒に過ごす、いい家族だ。家族の中ではもちろん嬉しいことが起きたり、悲しいことが起きたり、揉め事が起きたりする。けどね、それはみんながみんなその家族という枠組みに入っているからなんだよ。友達同士、とか、そういうのとはまた違うレベルの話だ。その輪の中に、ミーナはちゃんと入れてる。安心して」
「みんなは…‥私をどう思ってるんでしょうか」
「さあ?それは本人たちに聞いてみればいいんじゃない?多分いい答えが返ってくると思うよ。……そろそろ時間もあれだし家に帰るとするかな。ミーナ君」
「!ちょっと、君って呼ばないでくださいよ」
「えー、だめかー。ミーナって女の子だと思ってたから新鮮だよ」
「隊の人には……言わないでください」
「……了解。自分が言いたいタイミングで言ってね。ボクは口出ししないからさ」
「ありがとうございます」
「うん。それじゃあ」
「それでは」
ガチャっという音と共に扉が閉められる。
「あーあ。ミーナにボクの意図を言っちゃたなぁ」
実は最初は…自分の隊といっても踏み台にするつもりだった。ぶっちゃけ、ボクは1人の方がのんびり戦える。だから隊は作りたくなかった。けど人材教育っていうのも上に立つ者の役目だってティアの言われたから仕方なく隊を結成した。これは本音であり真実。ここまではミーナにも言った。
「でも半分うそなんだよなー」
実は今も、踏み台という認識はある。踏み台……というほどひどくはないが正確に言えば抗生剤。ボクが暴走しないための。抗生剤の条件として、ボクが守りたいと思えるものっていうのがある。それに当てはまるほど愛着が湧いた今は、しっかりその条件を満たしている。だから利用しているっていうのは嘘じゃないけど、割と普通じゃない?
どこの隊も寄り合いどころみたいなイメージだし。ボクの認識は一般的……でいいはず。そう信じてる。
「とりあえず家に帰るか」
そういって、ミーナの家を去り自分の家に向かったのだった。
ラミアの闇というか、壊れてるんですよね。この子。




