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フェイク

 ボクは足に魔力を込めて、疾風の如く街を走りギルクたちを探していく。ボクが走った後は炎が広がりちょっと道みたいになってて面白い。


 …‥ボクは割と呑気にしているけど、今ギルクたちは何をしているのだろうか。一般兵ぐらいなら死なないと思うけど……。気になるのはフェイクと接敵していた場合。仮にそうなっているのならばまずいことになるかもしれない。別に確証があるわけでもないけど、そんな予感がする。




〜数十分前 主戦力班〜


「みんな大丈夫か!」


 主戦力班のリーダーを務めていたギルクが班員に向かって呼びかける。


「負傷者はゼロで城壁を制圧。街の中へ侵入します」


「おう。みんな!この階段から街に降りるぞ」


 城壁に備え付けてある階段から主戦力班31名は街に降り立った。


 しかし、その行く手を阻むように立ち塞がる1人の大きな男。


 主戦力班で最も体格の良いギルクといい勝負をするほどの体つきだ。


「お前ら、陣形を作れ……」


 指示を出すギルクも流石に警戒をしている。


 目の前にいる男から発せられている異様な空気感。仮面をかぶっているが故に雰囲気は掴みづらいが、その空気すらも邪悪に感じる。


「間違いない……フェイクだ」


「……その名はあくまで仮のもの」


「そうか、生憎俺は戦闘中のおしゃべりが嫌いでな。そんなに会話する気にはなれねえんだ」


「無論。我も嫌いだ」


「ならいいんだがな」


 ギルクが手を少し動かすと、後ろに陣取っていた魔剣士数名と魔法使いが一斉に動き出す。


 魔剣士はフェイクに一直線に向かい、魔法使いは魔法を放っていく。


 それに対して、フェイクは仁王立ちで応戦する。腰にあった大剣と言っても差し支えないほどの剣を抜き、周りを一刀する。


 これにより、近くまで行っていた魔剣士数名が弾き飛ばされた。


「………魔剣士隊はフェイクの懐に入り込むように立ち回れ」


 ギルクはラミアやミーナほどではないが場を理解する能力には長けている。指示が早く、それは適した回答。主戦力班をまとめるにふさわしい指揮官だ。


 そんなギルクからの指示に従い魔剣士は渦巻きのような形をとる。この体型はラミアとの模擬戦で何回も試したいわば得意の陣形。この陣形の強みは時間差による人数での攻撃。さらに今回は魔法隊による援助もある。


 そして攻撃が始まる。1人が攻撃に向かうと、それに合わせてフェイクも大剣を振るう。しかし、そのタイミングにはもうすでに別のものが動いている。大剣が故の大きな隙を捕まえるいい作戦。


 だが、フェイクも負けてはいない。素早い動きは難しいと思われた大剣をまるで小枝のように自分の方に再度引き寄せ隊員めがけて振るう。


「想定外の俊敏さだな……」


 フェイクの剣により陣形は崩れ、最初に戻っていた。


 振り出しに戻ってしまったのを見てギルクは冷静にフェイクの分析を始める。


 フェイクの強さ、それはその剣にある。大剣というのは相手を怖気付かせるのに十分なもの。生き物だから、自分と同じぐらいの身長の物を体格のいい男が持っていたら誰だってこわがる。しかし、この場にいるのは魔王軍の中でも精鋭たち。さらに言うなら魔王軍のNo. 1とNo.2の元で動いている。そんな日常ではその剣は大した脅威ではなかった。


 しかし、そんな者たちが苦戦している理由。それはフェイクの場の支配力の高さにあった。一太刀で流れを変えれるほどの実力をもち、その流れで一気に場の空気がフェイクの方へ傾く。これは本当の強者にしかできない。これが王国十二騎士、しかもその最下位だという事実にギルクは驚かされていた。


「一旦引け。このまま戦ってもいいが、それでは被害が目を覆う結果になる」


 こくりと頷き、周りの者たちも同意する。倒すだけなら長期戦に持ち込んでもいい。なぜなら人数差があるから。しかし、それに相手が気づいた時には全力で抗戦するはずだ。フェイクという男が本気でケリをつけてきたら一瞬で持っていかれるというのは場の共通認識となっていた。


 それでは誰一人失わないという命令は達成されない。ではどうすればいいか。


 ギルクは自分の団長のことを思い浮かべる。


「そうか……これなら長期戦よりは……」


 フェイクの奥に見える、工業地帯を見据える。


「みんな、一発ずつ攻撃を入れよう。少しづつでもダメージを与えるんだ」


 この言葉を真に受け取ったものはおそらくフェイクだけ。この合図、実は別の意味を示す。あらかじめ決めておいた決まりごとの1つに、この表現があった。この文章の本当の意味は時間を稼ぐということ。なんのために?それはラミアを待つためだ。フェイクが討伐不可能とわかった時に使うという約束だったが致し方なかった。


 ギルクの指示の通り、全員が攻撃を与えにいく。時には単身で、時には3人でまとまってダメージを与えていく。予想通り、フェイクは防ぎ、追い返すということ以外はしない。


 その作戦を繰り返し、ある程度の時間が経った。だが、そこでフェイクの雰囲気が変わる。ダメージを与えに行った隊士を剣で思いっきり弾き飛ばし、壁に叩きつけたのだ。


 おそらくは……気づいた。時間を稼ぎ、強いやつが来るのを待っていることに。


 その後も、フェイクは攻撃をやめなかった。こちらが先手、フェイクが後手という構図だったのが、フェイクが先手に切り替わった。その瞬間、均衡が崩れる。1対1ではフェイクには敵わない隊士がほとんど。目の前で蹴散らされていく。数名は意識を失い、後ろで倒れている。


「くそっ」


 吐きすてるようにつぶやいた。隊士たちは先ほどの作戦で体力を使っていた。そのせいもあるがそれ以上にフェイクが強い。ギルクも打ち合ってわかった、その強さ。一度打ち合えば、一流の剣士でなくとも相手の筋力や技の完成度はわかる。おそらくフェイクの筋力はこの場にいる誰よりも高い。ラミアとは………いい勝負だろう。


「立てるものは立て。一斉に攻撃を仕掛ける」


 その指示に応えた20名ほどの隊士たちは、フェイクに向かって一斉に攻撃を仕掛ける。その時に出せる、全力を使って。地面を蹴り、剣を強く握り、覚悟を決める。


 しかし無慈悲にも目の前で振るわれる大きな剣。その瞬間だけ、世界がスローに見えた。


「はは、これはやべえや」


 目の前の剣を潜らなければフェイクに太刀を入れることはできない。だがどうすれば………。後ろに引き下がろうにも慣性が働き後ろには下がれない。横は……無理だ。かと言って前方にも進めない。………詰みだ。


 諦めかけたその瞬間、目の前にもう1つ剣が現れた。


「ちょっと、ボクの部下をいじめないでくれる?」



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