決勝前の雑談
あ。ティアが勝ったけど限界だったみたいだね。そのまま気絶しちゃった。まあ、ボクらの決勝はグラザームさんとカルタさんが戦った後に行われる。なんなら3位決定戦までが午前中。そしてお昼を挟んでの決勝。ティアはそのうち目を覚ますでしょ。……でも治療は必要か。とりあえず医務室に運んでベッドに横たわらせたけどさ。
さっき<回復>の魔法を自分にかけていたのをみたが効果はなかったっぽい。ティアと同じぐらいの腕をもつ魔法使い…。いや、待てよ。あの人はまだ試合の反動で疲れているかもしれないんだ。
「あー!もうどうすれば!」
「呼びましたか?」
「ッ!びっくりした…なんだサラさんか。呼んではないけど……いや、心の中では呼んだんだけど…もしかして、心読めたりします?」
「いいえ、ただ私を呼ぶ声が聞こえたので来ただけです。あなたのことだからどうせティアのことでしょう?」
「そうなんです…。さっきの試合で結構深い傷を負ってしまって、ティアも治そうとしていたんですけど…」
「このぐらいなら私も治せますよ。おそらく、彼女もこの程度の傷なら癒せるはずです。しかしそれができなかったということはかなり消耗してしまっていたんでしょうね」
「そうですか…」
「<超回復>(ハイヒール)。これで傷は塞がったはずです。ですが試合までは安静にしておくように伝えておいてください」
「わかりました」
「次はミア、あなたとの決勝ですよね?少しは面白い試合を期待していますよ?」
「一応、ボクとティアはあなたより強い筈なんですけどね……」
「強さと面白さはまた別です。戦闘の面白さは接戦にあります。お互いが本気で戦える、そんな試合を見れるよう願っております」
「善処します」
「そこは言い切ってほしいですけどね」
「いやー、だってティアはボクの敵ではないかも知れないじゃないですか」
「あまりティアを舐めない方がいいですよ。私が戦ったあの力は本物。いくらミアでも油断していたら足元をすくわれますよ」
「……。ですね。ボクとティアは友達であるとともにライバルですから」
「んんー………。あれ、ミアとサラさんだ。そしてここは……医務室か」
「起きたんだティア!大丈夫?もうお腹の怪我はない?」
「大丈夫だけど……。もしかして、サラさんが治してくれましたか?」
「そうね。弟子が大怪我を負ったと聞いたら師匠はすぐに動かざるを得ませんもの」
「治していただきありがとうございます。ミアと何話してたんですか?」
「特には。私はただあなたたちの健闘を祈りに来ただけですよ。では私は行きますね」
「はーい」
サラさんが医務室から出ていき、部屋にはボクとティアだけになる。
この医務室は闘技場の中に設置されているが、なぜか日の光が入ってくる。おそらくはこの部屋が隅にある上級士官用の部屋だからだ。通常、部屋には4つほどのベッドが置かれているがこの部屋には今ティアが使っているベッドひとつだけ。
部屋の内装も綺麗で一面白色の壁と絵画や花瓶など結構きらびやかだ。実際、あまり使われることはない部屋だが定期的に掃除が入っているのだろう。床には塵1つ落ちていなかった。
「えっと、お昼持ってきてるけどここで食べる?」
「うん。今日もサンドウィッチ?」
「そう、昨日とは違ってたまごサンドとカツサンドにしたよ」
「え、今日の朝にカツサンドを1から作ったの?」
「そうだけど……」
「よくそんな時間があったね。確かにいつも遅く起きてるミアが珍しく早起きだったけどさ」
「たまにとは失礼な。まあ、事実だけどさ」
「でもミアはレベル結構高いでしょ?なのにそんなに睡眠が必要なの?」
「いやー……本当はこんなにいらないんだけど寝れるときは寝ておきたいし。あと睡眠はしたほうが生きてる感じがする」
「だね。それは間違いない」
そんなたわいもない会話しているとあっという間に時間が過ぎ、3位決定戦が終わってしまった。
「ティア、動ける?」
「おかげさまでね。後で改めてサラさんにお礼を言わないと。ミアと本気で戦えるんだもん」
「だね。ところで未だ医務室にいるのは問題かな?」
「うん!大問題だと思う!」
「もしかしてボク達、急いだ方がいい?」
「怒られたくなければ」
「そうと決まれば全力疾走だね」
まさかの決勝戦で遅刻は大問題なので廊下を全力で走ってなんとか入場門まで辿り着く。ちなみにここに来るまででティアはもう別れ済み。なんでかはわからないけど疲れちゃったよ。
「ついに決勝か。この大会も終わり。正真正銘最後の試合だね。そして相手がティアとは。まさかの身内戦だ」
そして入場門が開き、歓声がボクを迎えてくれる。
「よしやろうか。『神剣』ラミア、全てを断ち切る時だ。……………とか言っちゃたり」




