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ミーティアVSカルタ

 ラミアがグラザームと会話していた頃。闘技場では……。


「はぁ、はぁ」


「ぜぇー、ぜぇー」


 ミーティアとカルタが戦い、お互いに消耗していた。


(なんなのよこの獣人は。魔法が全然効かないし、動きが速すぎて捉えられない……)

(なんなんだこいつは。魔法を撃ってくるスピードが桁違いだ。そのせいで全然近づけねえ)


 何か考えないと。ここで堕天使化してもいいけどあれは体力消費が激しい。どうせやるなら確実に仕留められるところじゃないと。なら今するのは得策ではないわね。でもそれ以外に選択肢は……。


「<氷刃>(クリスタルソード)」


パリンッ


 やっぱり物理攻撃は効きにくいのよね。効く可能性があるのは雷魔法とかだけど……。もしくは、魔法を攻撃する手段というより相手を追い込む手段として使う?でもそれはカルタさんも対策してそうよね…。前の試合、ニーヒルさんの追い込み作戦を見事に躱していたもの。私のはあくまでニーヒルさんの下位互換。やられるに決まってる。……だけどこれ以外良い選択肢がないのもまた事実。うーん、対策されるのを前提としてとりあえずやってみる?


「地形操作<ロックウェーブ>。<地底の炎>」

 

 元の地面がうねり、原型などないほどに変化する。その地面はカルタを囲むように動くのではなくあくまで足場をぐらつかせ、相手の移動速度や移動自体を制限するために行われていた。


 それを察したからか、まだ足場が残っている内になるべくミーティアから距離を取ろうとカルタは動いた。


 しかし逃げることを読んでいたミーティアは、地面からいくつもの炎を出現させる。

 

 地形操作の魔法に分類される<地底の炎>。この魔法は地面の中に眠っているマグマを地上に引きずり出すもの。出てきたマグマは液体であるためだいたいはそのまま流れ出てくるが、一部のマグマは勢いよく噴出され柱のようになって地底から出てくる。

 そして、この魔法はこれだけではない。地底のものを無理やり地上へと昇らせているのだから、その二次被害で地盤自体が弱くなりさらに足場が悪くなる。

 

 もともと、地形操作系の魔法はそれぞれお互いの相性が良いが、その中でも<ロックウェーブ>と<地底の炎>は別格かもしれない。

 案の定、カルタはその地形に苦戦しバランスを崩す。転んでしまい地面に手をつくが、その地面はすでにマグマだらけ。熱さに気を取られてしまう。


 そんな大チャンス、ミーティアが逃すはずもなく魔法を放ち追い打ちをかけた。


 この一連の流れでカルタは大きく負傷、ミーティアに少し勝利が傾いた。


(ここまでやってようやく手応えのある攻撃ができた。そろそろ堕天使化の切り札を使ってもいいけど……)

 

「ウオッーーーーー!」


 観客全員の鼓膜を破壊するような咆哮がカルタからだされる。そしてその咆哮と共に近くにあった岩やマグマは周りに飛び散ってしまった。


「一体どこからこんな力が…?」


 見ると、カルタの目は赤く、完全に別人のようになっていた。もともと巨体だった体はさらに大きくなり覇気を纏うようになっていた。


 これが『狂士』カルタの本気。


「速いッ!」


 四つん這いでまるで狼のように走り、いつのまにか距離は詰められドンッという音と共に弾き飛ばされ、壁に激突する。驚くべきはそのスピードと威力。一流の魔法職者であるとともに一流の兵士でもあるミーティアの反射神経をもってしても防げないスピード。通常、魔法使いは物理攻撃用のシールドを展開し物理攻撃を防ぐ。それは、意識して行われるものではなく無意識にやっていることだ。それこそ呼吸みたいに。しかしそれすら間に合わない。


 そのような拳や蹴りがミーティアを襲う。何回も弾かれ、空中で残像が残るほどの速度でお手玉される。

 

 そして今度はカルタの方に勝利の天秤が傾いた。

 

 鳩尾を蹴られ、地面にうずくまってしまったミーティア。そしてそんな彼女にトドメを刺そうと戦いに狂った男が近づいていく。手には短剣、神武である『崩墜コラプス』を持っていた。


「……これで終わりだ」


 ブスッ。その剣は確かにミーティアの腹に刺さり、血が止まらなくなっていた。


 しかしここで違和感に気付く。剣が抜けないのだ。


「カルタさん、あなたは一つ、見落としていますよ」


 その時、ミーティアの姿はみるみる本来の堕天使へと変わっていく。


「この姿になるときはあなたを確実に仕留めれるときにしようと思っていましたが、それは今ですね」


 そしてカルタは気付いた、己の勘違いに。


 『崩墜コラプス』を持ち、トドメを刺すことが正解だとおもい実行したが、そこで慢心してしまっていた。もともと、コラプスをトドメに選んだのは万が一、ミーティアが魔法で壁などを召喚しても溶かして攻撃できると思ったからだ。だから拳にしなかった。

 しかしそれも彼女は読んでいた。おそらく、堕天使の本来の姿になるには予備動作が必要なはずだ。例えば全身に力を入れる、など。そんな時に腹という最も力を入れやすい部位に剣を刺したら抜けなくなるのは当たり前だ。


 剣が抜けないことに驚き、硬直しているときに隙ができてしまった。その間に変身したミーティアの一撃は計り知れないほど重い。


「<黒球>(ブラックホール)」


「グハッ」

 

 目の前で放たれた魔法を正面から受け取ってしまい、四肢が投げ出されて大の字になる。


「降参だ」


 無防備になったカルタは負けを宣言し、ミーティアが決勝に進むこととなった。

 

 大の字になり、疲れたように顔を歪めているカルタだったが、その表情には悔しさが滲んでいた。


 カルタは子供の頃から戦闘においては負けたことはなかった。もちろん、大人には負けたこともあったが、それでもいつか越えれると信じ、実際に超えてきた。そして今までの人生で一度も勝てないビジョンを持ったことはなかったが、今目の前にいる1人の少女に勝てる気はしなかった。

 ミーティア。初めてできた、越えるべき存在。いつか勝てるビジョンを持てるように努力しようと誓った瞬間だった。


 

 対して試合に勝ったミーティアだったが、1つ問題があった。それは大怪我を負ってしまったこと。戦いの前から負うとは思っていたが、剣が深く食い込み、出血が止まらないほどになるとまでは予想していなかった。試しに傷を癒そうと魔法をかけてみても効果はなかった。


 どうしよう……。まだ試合があるのに……。


 次の試合の心配をしたところで意識が落ち、足から崩れてしまった。



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