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勇者討伐のために

「ふわぁー……よく寝た」


 時刻はおそらく9時ぐらい。今日はミーナと勇者戦について話し合うつもりだからちょっと遅めの起床かも?


 ボチボチ急ぎながら朝食を済ませて出かける準備をする。ティアはもう起きていたけど多分日課のトレーニングで外出中。


「鍵を閉めてっと。行ってきまーす」


 ミーナを呼び出しているのは午前10時。このまま走っていけば普通に間に合いそう。走れば。


「ふぅ……。なんとか間に合った……」


「もうラミア様、少し遅くないですか?」


「え、そんなことはないよ」


 どうやらミーナは一足先に来ていたようだ。


「ミーナこそ早くない?ボクは10時にここへ来てって言ったと思うんだけど」


「ですが上官より先に着き準備しておくのは当然のことです」


「うーん。そんな固くならなくてもいいのに。魔剣士隊は暖かい雰囲気作りを目指しているからね」


「……」


「どうしたの?いきなり黙っちゃって。もしかして、ボクの優しさに気づいちゃったとか?」


「いえ、ただこの人が魔王軍の第一人者と思うと少し不安が残るなと思いまして」


「そんなこと言わないでよ。一応ボクは責任とか権力を正しく理解しているつもりなんだから」


「はいはい。ならば早く本題に入りましょう。今日はどういった用事でお呼び出しを?この場には私以外いないようですし」


 周りをキョロキョロと見渡す。確かに朝10時だからか、まだ訓練場には人影は少なかった。


「えーっとそれがね。ミーナ。君を勇者討伐戦の一員とするっていうボクの考えに基づいて、君をスカウトする」


「つまり……?」


「つまり、ミーナはボクと一緒に勇者を討伐するってこと。オッケー?」


「え、勇者ってあの人類の最終兵器のことですよね?それを討伐って…そんな重要な任務に私を?」


「うん。ミーナは勇者にある程度縁があるし実力も見合ってるからいいかなって思ったんだけど」


「こ、光栄です。ですけど、仮に私たちが討伐に失敗した場合どうなるんですか?」


「んー、わかんないけど勇者は当分前線には出てこなくなるね。そして王都の方で力をつけてまた戦場に来て、多くの魔王軍の兵士が死ぬ。ざっと3万ぐらい?」


「ほんっとうに責任重大じゃないですか…」


「言ったでしょ?ボクは責任というものを理解してるって。だから君を選んだんだ。幹部の方では顔も割れていて対策されやすいし、准幹部の子はボクが知らない。けどミーナ。君は准幹部並みの実力を持っていてボクと仲のいい知り合いだ。これ以上の適任の人がいる?」


「……いないですね。仮にいたとしても私は断りませんけど。私以外のパーティーメンバーは?」


「ティア」


「だけ?」


「だけ」


「たった3人で勇者討伐を?」


「もっというなら十二騎士とかちょっとした強者とかも」


「……できるんですか?それ」


「んー、わかんないけどいけるんじゃない?魔王軍のナンバーワンとナンバーツーがいるし、さらにはボクには勇者特有のデバフが効かない。だからボクが勇者をボコボコにしてあげて、残りはミーナとティアに丸投げって形で。できる?」


「頑張り…ます。けど今のままではいささか不安が……」


「ああ。それは安心して。今日は君を鍛えてあげるんだ。そのために呼んだ。と、いうわけで、ここから訓練をしていきたいと思いまーす」


「ええー。ラミア様の訓練か…」


「なにブツブツ言ってんの。早くやるよ!じゃあまずはボクに一撃与えるとこから始めるから。ほら早く剣を握って!」



※※※



「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」


「結果は1日で0か」


「ラミア様、剣に当たんなすぎる………」


 今の0っていう数字はミーナが今日、ボクに剣を当てたことのできた回数。まあ0ってことはかすりもしてないってことだけど。


「んー、このままだとまずいね。ミーナのダメなところはやっぱり動きが不自然すぎること」


 ボクはフロレントを抜き構えのポーズをとる。


「剣ってさ、色々な流派があるじゃん。でも結局、全部の本質は自然に近づくことなんだよ。つまり自然な剣が一番強いってこと。ではここで質問。自然な剣ってなんだろう?」


「自然な剣……。やっぱり、動きが繋がっていることですか?出来るだけ動きと動きの間隔を滑らかにする、とか」


 ボクは剣の鞘でミーナの肩をポンポンと叩いた。


「半分正解で半分不正解」


「ではなにが正解なんですか?」


「それはね、自然な動きで剣を振るうこと。それは別に言葉で言うのは難しいことじゃない。例えば剣は振るう時には予備動作が必要になるでしょ?例えば剣を後ろに引く、みたいな。そして仮にその予備動作を極限まで減らしたとしても、戦いにおいて感覚が研ぎ澄まされた人は感覚で予備動作を見抜いてしまう。ミアは確かに前者はできている。予備動作はかなり少ない。けど、それは自然じゃないんだ。だからボクに剣を振るうタイミングがバレて全て防がれる」


「……じゃあどうやってその感覚から逃れるんですか?」


「いい質問だね。でも答えは単純で、感覚の外側に出ればいい。感覚で察知するよりも早く動き、早く振るう。言葉上では簡単でしょ?」


「感知できないほどに早く…。それは…難しいことですね」


「でしょ?でもそれができないと、やっぱり危険度がぐんと跳ね上がる。だってあらかじめ気づいている攻撃をカウンターするのと、わかっていない攻撃をカウンターするのでは難易度が全然違うからね」


「確かに…」


「で、最後。この攻撃方法を身につけるにはやっぱり練習するしかない。なんとか勇者討伐までに技を完成させないとね」


「はい!」


 ミアに話しておきたいことはある程度話した。あ、でも。そういえば……。


「ねえミーナ」


「なんでしょう?」


 2人で使い終わった剣の手入れをしている時に話しかけた。


「ミーナの種族は吸血鬼なわけでしょ?でもボク、ミーナがグラザームさんみたいな血操術を使っているところを見たことないんだけど」


「まあ使えないことはないですけど……。実際、本気で戦う時は時々使ったりします。けど、ラミア様がおそらく思っているであろうグラザームさんほどの血操術は私にはできません。ああ見えてもグラザームさんの技は多彩で、とても難易度が高いんです。吸血鬼全員ができることではありません」


「まあグラザームさんは特別って感じがするからね。天は二物を与えずって、あの人に関しては嘘だから」


「そうかもしれませんね。グラザームさんは長い時を生きている方です。なので血に対する理解や、その応用力は圧倒的です」


「いいよねー、あれ。ペンタグラムで戦ってた時は初見殺しが多すぎて気をつけることがいっぱいあったし。正直、決勝戦のティア戦以上に疲れた」


「それを言うならラミア様もですよ。まさか火魔法に水魔法、それに加えて雷魔法も使えるなんて初見では絶対に対処できませんよ。グラザームさんがボソッとぼやいてましたもん。使える魔法多すぎだって」


「あはは。まあこれも才能かなー」


「む。そう言われるとうざいですね」


「そんなこと言わないでよ。この世にはボクみたいな化け物がたくさんいるから。ティアだってそうだし、十二騎士もそう。他にもこの地上界にはいないだけで未知のやばい生物はたくさんいるでしょ」


「それもそうですね。しかし、今は目の前の目標に向かって進んでいくのみです」


「魔族の平和。それがボクらの掲げる未来だもんね」



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