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王妃陛下であるシシュさまとのお茶会での不意打ち



「あらあら、そうなの。あの子から手紙が届いているのね? それは意外なこと」

「……こちらとしましてはなかなかお返事も難しいので困っているのですけれど……」

「何を書いてもかまわないわ。カティの好きにすればいいのよ」


 王妃陛下であるシシュさまが笑っているけれど、私としては笑顔で返せないくらい困っていますわ。

 公女殿下からのお手紙など、悩みの種でしかありませんもの……。


 本日は王妃陛下からお誘い頂いたお茶会です。

 大夜会での挨拶の時に言われていたことですから避けられないとは思っていましたわ。


 同時に面倒だとも思ってはいましたけれど。


 既にウェリントン侯爵家主催の夜会は終了しております。

 あれが終わるまではいくら王妃陛下のお誘いでも無理ですので。


 もちろん旦那様とのダンスは踊っておりません。

 来年は……踊らなければならなくなるかもしれませんけれど……完全に例の件が片付いていたのならば。


 お義母さまの予想が当たってしまい、目の前の王妃陛下は三つ羽扇の襟のドレスを着ています。後ろに控えている侍女さんたちも一緒に。

 私と私の侍女も同じなのでこの場には三つ羽扇のドレスの人ばかり。


 公女殿下の話題になる前はドレスのお話でした。

 ずっとドレスのお話で良かったですのに……。


 いずれこのドレスの話は王妃陛下の侍女さんたちや王宮のメイドさんたちから広まるでしょうし、私もウチの侍女たちに広めさせるつもりですわ。

 だって、商機ですもの……積極的に宣伝しませんと……。


 切り替わってしまった今の話題はレクルティアラ・リーゼンバーグス・オルディン公女殿下のこと。

 もちろん、口に出したのは王妃陛下の方からですわ。私から公女殿下のお話を口に出すことはあり得ませんし。


「カティ? 貴女は私の妹であり、また、娘でもあるのです。あの子は私の姪ですもの、母として仲良くさせたいと思うのは当然ではなくて?」

「お気持ちは……理解しましたわ、シシュさま……」


 仲良くします、とは答えられないのが難しいのです。

 公女殿下との関係性がよろしくありませんから。家としての。


 大夜会が終わってから……すでに公女殿下からはお手紙を頂きました。

 いわく、お茶会をしませんかって内容でしたわ~。無理ですわ~。


 大夜会では遠国の故事でショック国のクンミンに私のことを例えていらっしゃると都合良く受け止めましたので……クンミンがロウビン帝の誘いを断ったことに合わせて、私も公女殿下のお誘いを断りましたけれど。


 ……この断り方だと、2回目までは断れますわ。でも、3回目は断れませんの。クンミンは3回訪ねてきたロウビン帝に応えて出仕しましたもの。


 そもそも、公女殿下の誘いを断ること自体が難しいのです。それが身分差による上下関係というものですから。

 今のところは、公女殿下が遠国の故事を使って嫌がらせをしてきたことに対する意趣返しとして断っているにすぎません。


「あの子も……行き先が今のところ不透明でしょう?」

「まあ、そのような話はちょっと……」


 王妃陛下が言いにくいことをはっきりと口にします。

 私は言葉を濁すしかありません。

 できればもうこの話題はやめてほしいけれど、それを口にはできないのが身分制社会ですわ!


 ひょっとすると私が返答に困ることを王妃陛下は楽しんでらっしゃるのかもしれません。

 お忙しいから私をお茶会に誘う機会も余りないとはいえ、話す内容がこれでは誘われる度にため息が出そうですわ……。


 ウチのドクズな旦那様との婚約を破棄した公女殿下にはまだ新たな婚約者が決まっていません。

 そもそも王位継承権持ちの公女殿下の嫁ぎ先を決めることがそもそも難しいはずです。


 婿取りで公爵家に留まることも不可能ではありませんけれど……王家としては公爵位を早めに回収したいのでしょう。


 ……王妃陛下には3人の息子、つまり王子殿下が3人いらっしゃいます。


 できれば王位を継がない2人の王子にその公爵位を回したいのでしょう。

 新たな公爵位を与えるのは大変ですから。


 かといって王位継承権を持つ公女殿下の嫁ぎ先はなかなか見つかりません。

 王位継承権がなければ国外のどこかの王族と、という考え方もあるのでしょうけれど……国外の王族の場合は余程信頼できる相手でなければ無理でしょう。

 王位継承権を理由に内政干渉を受ける可能性もありますから。


 ウチのドクズな旦那様が浮気男でなければ……公女殿下のお相手として最適だったのは間違いありません。

 ウェリントン侯爵家の家格と財力なら公女殿下を侯爵夫人として降嫁させるにふさわしいところでしたもの。


 ……おそらく、公女殿下が自ら潰した縁談でもあるから、現状はさらに難しいのでしょう。


「……まあ、ミンスクに行って一人で生きるなんて言い出しているから、元気は有り余っているのよ、あの子」

「……そうなのですね……」


 ……お転婆すぎますわ! 一人で生きるってどういうことですの!


 そもそもミンスクは30年間という期間限定での引き渡しですのに! 返還しなければならない港ですのよ!

 この先、30年以上長生きなさったらどうするおつもりなのかしらね……?


「年齢的にはどうにかハルディンとの婚約もできなくはないのだけれど……」


 ハルディンというのは第二王子殿下のお名前ですわね。

 第二王子殿下の方がいくつ下になるでしょう? 5つか6つは下でしたわよね?


 政略ならばそのくらいの年齢差もそこまで問題視されないはずですけれど、公女殿下との婚姻は王家にとって大した旨味がありませんし……。


 そもそもウチのドクズな旦那様のせいで公女殿下との婚約など問題外という話になるでしょうから。


 年齢だけなら問題ないという、だけ、のお話ですわ。


「……きっと、あの子……カティとは話が合うと思うのよ」

「まあ、それは私を誉めすぎですわ、シシュさま」

「そうかしら? まあ、その気になったら仲良くしてあげてね?」


 その気にならないと思いますわ……。


 その時、こんこんこん、とノックの音がしました。


 ……あら? もう時間なのかしら?


 私はお茶会の終わりなのかと思い、こくりと紅茶の残りを口にした。


 メイドさんが王妃陛下の許可もなくドアを開いたので、王妃陛下からは事前に話があったのだと気づきました。私たち以外の者には。


「母上。我が姉上たるお方を紹介して頂けると聞いてこちらに参りましたが?」

「待っていたわ、ローレンス」


 心の中では「?」がいっぱいになりながら、私は心の中で慌てつつ席を立ち、カーテシーで迎える。


 ……どうして王太子殿下がここに!


 いえ、王宮にいらっしゃることは存じ上げていますけれど、私と王妃陛下のお茶会にどうしてやってくるのかがよく分かりませんわ?


 王妃陛下のサプライズ的な何かとでも?

 そうだとしても……これで動揺せずにいられるはずがないですわ!


「頭を上げてほしい、姉上。私は母上に、あなたのことは姉と思えと言われているのだ」

「……畏れ多いことにございます……」


 頭を上げろって言われてもこんなに上げにくいことってないのではないでしょうかね?


 こうして私は……王妃陛下に王太子殿下を紹介されてしまったのでした。






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