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まさかこの方が私に話しかけてくるとは予想外ですわ……。

連載再開します。

毎週火曜日18時更新で進める予定です。

よろしくお願いします。



「ああ、エカテリーナさま」

「大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありませんわ」


 マンチェストル侯爵家との話し合いから会場に戻った私をお友達のみなさんが囲んで下さいます。背後には侍女たちもいるのですっかり周囲は三つ羽扇のドレスを着た仲間ばかりです。

 流石にこの人数で同じ形の襟のドレスを着ていると目立ちますわ。


 ……そういう意味では私だけが仲間外れですわね? マダム・シンクレアのドレスですもの。


 彼女たちのような存在を取り巻きと呼んで否定的な目で見る方もいらっしゃいますけれど、高位貴族の夫人や令嬢はそうして身を守るのが普通です。

 その代わり、彼女たちへの目配りも求められるのです。


 そこで、白い三つ羽扇のドレスを着た背の高い令嬢が私の前にやってきて、カーテシーをしました。図書館仲間のアリステラさまですわ。

 アリステラさまは今年がデビュタントですから、以前、一緒に考えた白いドレスを着ています。


「エカテリーナさま。アリステラ・ラザレスにございます。デビュタントを迎えましたので成人の挨拶をさせて下さいませ」

「もちろんですわ。どうか楽になさって」


 膝と背筋を伸ばしたアリステラさまはとても凛々しいですわ。


「はい。こうして無事にデビュタントを迎えられたのはエカテリーナさまのお陰でございます。心からの感謝をエカテリーナさまに」


「うふふ。私は何もしておりませんことよ? 両陛下へのご挨拶はいかがでした?」

「はい。無事に……というより、王妃陛下よりたくさんお声掛け頂き、恐縮しておりました」


「まあ? どのようなお話を頂いたのかしら?」

「このドレスの……三つ羽扇について、です。3つの羽の意味を説明させて頂き、王妃陛下にもご満足頂けたようでした」


 アリステラさまは男爵令嬢です。

 通常、爵位が低い場合、国王陛下が「大儀である」とおっしゃってデビュタントの挨拶は終了になるはずですわ。間違いなく、特別扱いです。


 ……これは、お義母さまのおっしゃる通り、王妃陛下は三つ羽扇のドレスを用意なさるかもしれませんわね。


 私は背筋が震えそうになるのをぐっとこらえました。


 王妃陛下が私を、どのような形であれ、何かに利用しようとしていることは間違いありません。

 単純に可愛がっているというだけではないということを心しておきましょう。


「……ダンスはいかがでした?」

「はい。父と、無事に踊り終えましたので今はほっとしております」


「うふふ。他の方からのお誘いはまだかしら?」

「はい。何人か、お声掛け頂いたのですけれど、足を痛めたのでお断わりさせて頂きました」


「まあ、大丈夫ですの?」

「はい。今は特に問題ありません」


 足が痛い、は口実ですわね。ダンスを断るための定番でもあります。

 私はちらりと侍女のアリーへと目を向けました。侍女の中でアリーだけはこの会場に残して、古着ドレス組のみなさまと一緒にいてもらっていたのです。


「アリー。アリステラさまのおモテになる様子は見ていて?」

「はい、奥様。ムーランロウジェ子爵令息をはじめ、数人の子爵令息、男爵令息からのお誘いがございました」


 ムーランロウジュ子爵はウェリントン侯爵家の寄子でも、派閥でもないですわね。他の説明がないのは同じだということです。


 アリステラさまはこの後、フォレスター子爵家で私の侍女見習いとして就職することが決まっています。しっかりと勉強していらっしゃるので、派閥を見極めてダンスを断ったのでしょう。


「奥様がいらっしゃると……殿方のみなさまはすばやくこの場を離れていきました」

「あら、申し訳ないわね」


 旦那様とのダンス絡みでいろいろとあったことは広く伝わっているはずです。私の近くでダンスの誘いをするのは難しいというのも理解できます。


 ……みなさんの婚活を邪魔するつもりはないのですけれど。


 私の侍女については、寄子や派閥の中からお相手を決めることになるので問題はありません。


 ですが、古着ドレス組のお友達であるオードリー・グラスキレット子爵令嬢やイスティアナ・ラザレス男爵令嬢、また新たにお友達となったフランシーヌ・ヨハネスバルク伯爵令嬢などの婚活に差支えがあると困ります。


 お友達と呼ぶにはまだ関係が浅い、三つ羽扇のドレスを着ているナルミネ・モザンビーク子爵令嬢については……複雑な事情もありますので、本人が私の近くで守られたければ問題ないのですけれど。


 大夜会は婚約者のいない令息や令嬢にとって婚活の場でもあるのです。

 去年までは……私たちは壁の花でしたけれど、今年の大夜会は違います。私がウェリントン侯爵家に嫁いだことによって、その友人であることの価値が暴騰しているはずです。


 特にオードリーさまやイスティアナさまにとってはご自身を高く売り込むチャンスでもあるのです。ここはやはり……。


「オードリーさま、イスティアナさま。私の近くにいなくとも、梨園での出会いを忘れることはありませんわ? どうぞ踊ってらして? もちろん、フランシーヌさまやモザンビーク子爵令嬢も」


 梨園での出会いというのは、昔々の英雄が共に戦うことを誓った物語にちなんだ話です。それを忘れることはない、というのは私たちの友情は永遠ですよ、という意味になります。


 ……もちろん、必要があれば友人であっても切り捨てなければならない立場でもあるので、そこが高位貴族の難しいところです。


「……私は、どうか、子爵夫人のおそばにいさせて下さいますよう」

「もちろん、それはかまいませんわ」


 予想通りですけれど、モザンビーク子爵令嬢は私の近くから離れたくないようです。


 モザンビーク子爵令嬢は寄親から愛人として狙われていますから、それを避けるには派閥の違う私の近くにいることがひとつの手立てなのでしょう。


 ……私の近くにいれば確実にダンスの誘いも減りますので、うまく利用して下さいませ。


「私も今は、踊るつもりはございませんの。エカテリーナさまの近くでゆっくりお話しさせて頂きたいわ」

「ええ、いいですとも、フランシーヌさま」


 ……フランシーヌさまは婚活しなくても大丈夫なのでしょうか?


 いえ。私と一緒にいることが婚活とも考えられます。ウェリントン侯爵家との繋がりを見せる意味はあるかもしれません。


「ではイスティアナさま。私たちは会場をひとまわりしてみましょうか。そこでお声掛け頂いたらダンスを踊ることにしませんこと?」

「いいですわね。そうしましょう。エカテリーナさま、どうか妹をよろしくお願いしますわ」

「アリステラさまのことはご心配なく。どうぞ、楽しんでいらして」


 私はオードリーさまとイスティアナさまを見送りました。


 今なら、婚活のチャンスがあるはずです。

 ただ、オードリーさまも、イスティアナさまも、私との関係……もちろんウェリントン侯爵家、という意味ですけれど、その関係でのお声掛けの可能性が高いでしょう。

 去年は私と同じく、ほとんどお声掛け頂けませんでしたから。


 ウェリントン侯爵家絡みでのお相手となると、結婚後に利益をもたらすことができなかった場合、嫁としての立場が悪くなる可能性もございます。


 ……おふたりはお友達ですから、可能な限り協力するつもりはあります。でも、お相手によっては難しい場合もあるのです。


 ウェリントン侯爵家との敵対関係が明確な方でないことは当然として、ウェリントン侯爵家から利益を得ようとするだけでウェリントン侯爵家に何も利益を与えない方も難しいというのが問題です。


 たいていの貴族家は自分たちだけの利益にばかり目を向けておりますから……。


「それにしても、王妃陛下が三つ羽扇のドレスに関心を持っていらっしゃるとは驚きです」

「ええ、そうですね。こうして私も着せて頂けたので、その恩恵を分けて頂けるのです。本当にありがたいと思っております」


 フランシーヌさまの言葉に答えつつ、私へのすり寄りを割と露骨にしてくるモザンビーク子爵令嬢は必死ですわね。それだけ愛人になりたくないということなのでしょう。


「アリステラさまのデビュタント・ドレスとして気になったのでしょうね」

「3つの羽の意味がまた、王妃陛下のお心をとらえたのではなくて?」

「ヨハネスバルク伯爵令嬢がおっしゃるように、王妃陛下はこの羽の意味に何度もうなずいてらっしゃいました。私、説明させて頂くだけでも緊張しておりましたけれど……」

「私のデビュタントでは、王妃陛下からは微笑みを頂いただけでしたわ。お言葉を頂けるなんて末代までの誉れでございましょう」


 ……モザンビーク子爵令嬢が男爵令嬢のアリステラさまにまですり寄っていますわ。なんだか、必死過ぎて同情してしまいそうです。


 寄親の侯爵家の愛人という立場はそこまで悪いものではないはずです。立場だけなら。

 モザンビーク子爵家は大変家族的な雰囲気がありますから、愛人というものに対しての考え方や感じ方がマイナス方向なのでしょう。

 貴族的な考えでは……正妻ではなくとも、侯爵家の跡継ぎの母にはなれるかもしれないのでかなり重要なポジションです。


 オードリーさまたちの動きを見守りながら話を聞いていたのですけれど、オードリーさまは私の元お友達であるノーザンミンスター子爵令嬢と壁際でお話ししているようです。

 会話をしてはいけないということはないので特に問題はありません。


 ……私との仲直りの仲介は断ってほしいところですわ。


「失礼。少し、よろしいかしら?」


 オードリーさまたちを目で追っていたため、油断していたのかもしれません。


 私に声をかけてきたのはレクルティアラ・リーゼンバーグス・オルディン公女殿下でした。

 リーゼンバーグス公爵令嬢にして、私の旦那様の……婚約破棄した元婚約者でございます。


 お友達のみなさんが一瞬で固まったのが分かりました。


 ……まさか、直接こちらに話しかけていらっしゃるとは。


 なかなか気持ちの強いお方なのでしょう。

 困りましたわ……。






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― 新着の感想 ―
たまたま読み返してて、四年越しの連載再開に驚愕。 そんな事有るんですねぇ、、、。
また楽しみにしています。 本人が幸せになってほしいなぁなんて勝手に考えながら読んでます。
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