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41.魔法少女の世界はまだまだ続く

 私は魔法少女でした。

 K吉君という不思議な動物(?)と契約して魔法少女になったのですが、ある日、警告音が世界中に鳴り響くという謎の現象が起こった後に、その力を失ってしまったのです。

 正直、ホッとしていますが。

 恐らく魔法少女の力を失ったのは私だけじゃないのでしょう。それ以来、一度も一人の魔法少女もこの世界に姿を見せてはいませんから。きっと魔法少女達は残らず消えてしまったのです。

 ただし、消えたのは魔法少女だけじゃありませんでした。妖獣も姿を見せなくなっていたのです。

 世界中で、様々な憶測や仮説が飛び交いましたが、きっと何が本当の答えなのか分かっている人など誰もいないでしょう。

 魔法少女がいなくなった所為で、治安が少しだけ悪化しているという話も聞きますが、代わりに妖獣も出なくなったので社会全体の損失は変わらないのじゃないかと思います。そして、少なくとも私にとってそれは、とても大きなメリットが一つあったのでした。

 ――その日、放課後に私は紐野さんの所に向かっていました。彼の学校は分かっていますから、通学路で待ち伏せすればきっと会えると思って。

 ……スライムの妖獣と闘った時、私は魔法少女のキリさんに敗けたと思い、大人しく身を引きました。私を庇って人魚の妖獣に襲われてしまった彼女の勇敢さと優しさに胸を打たれたばかりではなく、その後に紐野さんが、彼女を助ける為にビルから飛び降りたのを見て、二人の絆の強さを思い知らされたからです。

 ですが、それは魔法少女とそのサポート役という立場があればこその関係……、であるのかもしれないのです。魔法少女の力が世界から消えてしまった今なら、私にだってチャンスはあるはずでしょう。今、彼らは見知らぬ赤の他人同士になっているのかもしれないのですから。

 私は彼に会う為に、帰宅する生徒達の流れに逆らって通学路を進みました。すると、なんという事でしょう。彼がこちらに向かって歩いてい来るのが見えるではありませんか。これは運命かもしれません。私は喜んで彼に話しかけようとしました。ピエロから助けてもらいましたし、スライムの時にだって助けてもらいましたから、お礼をしたいと言えば、いくらでも口実はあります。

 が、私は彼に話しかけられませんでした。何故なら、私が話しかけるよりも先に、別の女の子が彼に話しかけたからです。彼女も私と同じ様に彼を待ち伏せしていたようでした。しかも、彼女の顔には覚えがあります。大きな編目で編み込んだ髪型に眼鏡。外見を意図的に大人しい印象に変えているようですが、恐らく彼女は魔法少女キリでしょう……

 

 「――おい」

 と、電柱の陰から誰かが紐野繋に話しかけて来た。ふくれっ面。地味そうな文学少女という風貌だから表情とのギャップがある。

 「二見……」

 と、彼は返す。ややたじろいでいる。

 「どうして連絡を寄越さないのよ!?」

 彼は申し訳なさそうな顔を見せるが、それとは裏腹に「そっちだってそうじゃないか」と言い返した。

 彼女は怒りの表情のまま言う。

 「しばらく待ってみたのよ。あんたがどんなアクションを起こすのか」

 一歩近づいて、ジロリと睨みながら続ける。

 「あんな良いムードになって、キスまでしたのよ? 男だったらなんかあるでしょうが!」

 「そう言うのを性差別って言うんじゃないのか? 男だからとかなんとか。人それぞれだろうが」

 「しゃらくさい!」

 と、彼を叱るように言うと彼女は腕を組んで続けた。

 「どうせ理由なんて分かっているのよ。

 1.単に照れている。

 2.拒絶されるのが怖い。

 ――でしょう?」

 それに彼は何も返さなかったが、表情で正解だと返事をしていた。

 ……もちろん、彼は彼女に好意を持っている。好意があるからこそ、拒絶されるのが怖い。仮にもし本当に何か用事があって彼女が断ったのだとしても、あれこれと色々と考えて勝手に傷ついてしまう。

 つまり、彼は面倒くさい性格をしているのである。

 彼女は大きく溜息を漏らした。

 「あのねぇ、繋君。1はしょうがないわよ。1は。あんただしね。直らないでしょうよ。逆にいきなり照れなくなったら怖いくらいよ。

 でも、2は駄目。そろそろ克服して。絶対にわたしはあなたを拒絶したりしないから」

 口を一文字に結ぶと、彼女は更に彼に一歩近づいて来た。そして、彼の両頬に両手で触れる。

 「いい加減、愛され慣れなさい」

 そして、頬を赤くすると彼女はそう言ったのだった。

 「できる限り…… 努力してみる」

 と、返した彼は、まるで叱られた子供のようだった。

 

 やがて二人は自然と歩き出していた。向かっている先はいつもの読書喫茶だった。ほぼ習慣になってしまっているようだ。歩きながら紐野が言う。

 「……しかし、終わる気配がないな、この世界」

 「なに? あんた、本気で終わるかもしれないって思っていたの?」

 「いや、だって、違法コピーの仮想空間だぜ、この世界は。普通に考えたら、警察にバレたのなら、維持費がないから電源を落とされるって考えるのじゃないか?」

 「呆れた。そー思っているのに、よくもあっさりと決断できたもんね」

 「だって、電源が落とされるのなら、誰も苦しまないで終わるって事だろう? 眠るのと似た様なもんだ」

 「そう割り切れるのが凄いわ」

 「ま、昔は世界全てが爆発すれば良いとか思っていたからな。それに比べればマシだ」

 そう言った彼を二見はまじまじと眺める。

 「……あんた、まさかまだ爆弾を爆発させたいとか思っているのじゃないでしょーね?

 絶対にダメだからね? もうK太郎達はいないんだから。一発で捕まるわよ」

 彼女の問いかけに、紐野は目を大きくする。

 「なによ、その顔は?」

 「いや、そういや、そーいうの忘れていたって思って」

 「忘れていたの?」

 「ああ、妖獣退治とか、お前らをどーやったら助けられるかとかばかり考えていたから。そっちに意識が集中していて忘れていたな」

 それに彼女は嬉しそうな顔を見せる。

 「凄いじゃん! 治ってる! 爆弾依存症!」

 「なんだよ、爆弾依存症って?」

 それから少し考えると、彼はこう続けた。

 「でも、正直、いつまで忘れていられるか。自信ないな。妖獣ももう出ないし」

 「あんたねー」と、二見は呆れた声を上げる。

 「それなら尚更、わたしを頼らないとダメでしょーが! また衝動が再発しないように協力するから、もっと連絡を寄越しなさい」

 「いや、それはそうかもしれないけど」

 「なによ?」

 と、問いかけていながら、彼女は彼の表情で彼の言いたいことを察したようだった。こう続ける。

 「……わたしに迷惑をかけるかもしれないから、気が引けているの?」

 「それもある」

 「他にもなんかあるの?」

 「それだと、お前に頼らないと生きていけないみたいで、なんか悔しい」

 その説明に彼女はまた呆れた声を上げた。

 「もー めんどーくーさーいー!」

 「そんなの今更だろう? 僕は面倒くさい奴なんだよ」

 溜息を漏らすと彼女は言う。

 「あのね、繋君。そーいうのってお互い様でしょう? わたしだってあなたに依存している部分もあるのだし、別に悔しくなることでも恥ずかしいことでもないと思うわよ? 人間は相互依存して生きる生き物なんだから、それで良いのよ」

 「まー、理屈では分かるんだけどな。こればっかりは性格だから」

 「本当に面倒くさい」

 また、溜息をつく。

 「これならまた妖獣が出て来てくれた方が助かるわね。妖獣退治に熱中できれば、爆弾依存症にならずに済むのでしょう?」

 そう彼女が言ったタイミングだった。

 

 『――そりゃ、助かるな』

 

 そんな声が聞こえたのだ。聞き覚えのある声。二人の間、背後からその声は聞こえた。同時に振り返る。

 猫か兎か狐か分からないような風貌の白い獣。

 「K太郎!」

 二人は異口同音にそう言った。紐野は瞬時に考える。今は爆弾は持っていない。二見は魔法少女になれないから戦闘ではほぼ無力。――ならば、逃げるしかない。

 彼は彼女の手を握ると、駆け出そうとした。が、その瞬間、K太郎は彼らの目の前にワープをして来たのだった。

 「くそう!」

 無駄だと分かっていながら彼は身構える。しかし、そんな彼を、

 『いや、そう怖がらないでくれ』

 と、K太郎は宥めるのだった。

 『安心して欲しい。ボクはK太郎であってK太郎じゃない。具体的に言うと、中身が違う』

 警戒した様子で二見が尋ねる。

 「中身って?」

 『これはただのアバターだからね。以前に君らと会っていたK太郎は既に警察に捕まっているよ。もう二度と、君らと会う事もないだろうね』

 今度は紐野が尋ねる。

 「そう言うあんたは何者なんだ?」

 警戒している。

 『だから、そう怖がらないでくれ。

 実はこの違法コピーの仮想空間が発見されてから議論があってね。しばらくサーバーの電源は落とされていたんだ』

 「本当? まったく気が付かなかったわ」とそれに二見。

 『そりゃね。君らにとっては時間が停まっているのと同じだ。

 とにかく、その間でボクらの世界じゃ、この違法コピーの世界をどうするか激しい議論が交わされていたんだ。結果、維持存続が決定された。このまま消滅をさせてしまったら、それは大量虐殺と同じだって主張する人達がいてね。そうせざるを得なかったんだ』

 「なんか、消滅させた方が良かったみたいな口調だな」と紐野が言う。K太郎は慌てて答えた。

 『いやいや、他意はないよ。そう聞こえたのなら謝ろう。

 ――ただ、それで新たな問題が生じてしまった事だけは確かだ』

 「と言うと?」

 『ぶっちゃけ、この世界を維持管理するだけの予算が足らない。そこで一般ユーザーにこの世界を解放しようという事になった。もちろん、倫理的に許される範囲の利用方法しか認められていないけどね。

 だが、しかし、ユーザーの中に邪な連中が混ざっていないかと訊かれるとちょっと答え難い』

 それに二人は嘆息した。

 はあ~ っと。

 二見が尋ねる。

 「つまり、あの根津みたいな奴が混ざっているかもしれないって話ね?」

 『その通り。

 でもって、それが予算不足の話にも繋がって来るのだけどさ。そういった邪な連中を取り締まる手段がないんだ。何しろ、オリジナルの仮想空間の方だって維持管理にヒーヒー言っているくらいなんだから』

 そこまでを聞くと紐野が言った。

 「なるほど。予算不足で新たなアバターなんか作っていられなかったから、K太郎のアバターを使い回しているのか」

 『そうそう。理解が早くて助かるよ。

 そして、この世界に入って来ている邪なユーザーを取り締まる手段も、その使い回しをやってしまおうという話になった。幸い、この世界には魔法少女という正義の味方がたくさんいたからね』

 少し考えると紐野は口を開いた。

 「待て。つまり、それって……」

 『その通り。君ら魔法少女に再び活躍してもらおうという話になったんだよ』

 それを聞いて、二人は同時に「えー!」と声を上げた。

 宥めるような口調でK太郎は続ける。

 『もちろん、経済的な支援もさせてもらうよ。この世界の経済なら、ある程度は自由になるからね。それに安全面もサポートするから命の危険もそんなにはない。

 つまり、君らの将来も収入も安定するという事になる。悪い話ではないと思うけど?』

 その提案に二人は顔を見合わせた。

 「テーマパークで遭遇したピエロ怪人みたいなのをやっつける仕事って訳か?」

 紐野がそう言うと、

 「ま、今まで無給でやっていた仕事がお金が貰えるようになると考えるのなら、別に抵抗を感じる話じゃないわね」

 そう二見は返す。

 K太郎はにやりと笑った。

 『二人ともオッケーみたいだね。それなら契約続行だ。魔法少女と違法少年として、これからも活躍してくれ』

 それを聞くと、紐野が尋ねた。

 「ちょっと待ってくれ。“違法少年”? 僕もキリみたいに魔法の力を手にいられるのじゃないのか?」

 K太郎は首を横に振る。

 『ああ、それはダメだね』

 「どうして?」

 『言ったろう? 予算がないのさ。プログラミングを更新しないといけない。それに君の場合、ちょっとばかり素行が悪い。直って来ているとはいえ、爆弾魔予備軍の少年に力を与えすぎる訳にはいかないよ』

 「それくらい大目に見てくれよ!」

 と、紐野は訴えたがどうにも無理そうだった。K太郎は首を横に振っている。

 「今までの行いの所為ねー」

 そう言った二見はなんだか嬉しそうだった。

 「つまり、これからも、わたしがあんたを護らないといけないって話よね? ま、わたしはわたしで、あんたのサポートを期待しているから、よろしく頼むわ」

 それから彼女は彼の手を握る。

 「そうと決まれば、早速ミーティングしましょう。これまでの妖獣とは違っているだろうし、色々と闘い方を考えないと」

 「ああ、そうだな」

 そう紐野が応えると二人を歩き始めた。彼も、嬉しそうだった。

 『よろしくねー』

 と、そんな二人をK太郎は見送り、そして最後にこう呟いた。

 『……この二人なら、上手くやってくれそうだな』

 

 私は魔法少女です。

 また魔法少女になってしまいました。

 なんだか分かりませんが、紐野さん達を尾行していて、兎か狐のような獣を見たと思ったら再びその力を取り戻していたのです。

 『やぁ、よろしく頼むよ』

 力を実感したタイミングでそう声がしたので振り返ると、そこにはなんとあのK吉君の姿がありました。

 「あなた! もうどっかに行ったと思っていたのに!」

 私は彼から解放されたと思っていたのです。大ショックです。ところが、彼はこう言うのでした。

 『安心してくれ。ボクは君の知っているK吉君ではないよ。外見は同じだけど、中身が違っている』

 私はそれを聞いてちょっと安心しました。このK吉君は、前のような異常性癖を持ってはいないのかもしれません。

 「良かった。それなら、私を真っ当な魔法少女に……」

 が、私がそう言いかけると彼はこう返すのでした。

 『君の魔法少女としての能力は非常に魅力的だ。君自身を生餌にして敵を誘い、他の魔法少女が倒すという作戦が有効そうだね。きっと人気も出ると思うよ』

 「結局、あんまり変わってないー」

 と、私は悲鳴を上げました。

 

 ……数日後。

 

 「キーンでございまーす! うんならかしていこー!」

 魔法少女スピーダーの元気が良い声が響いている。

 街中を大きな肥った狒々のような獣が駆けていて、どうやらスピーダーはそれを追いかけているようだ。

 「そっちに行ったわよー!」というライの声が聞こえる。その先にはキリの姿があった。そして、狒々が彼女の手前、数十メートルというところまで迫った時、突然爆弾が爆発する。もちろん、紐野の爆弾だ。それに合わせて、キリは声を上げて杖を振る。

 「竜巻の刃!」

 竜巻が狒々を襲う。しかし、それにワンテンポ遅れて、こんな声が。

 「メラメラ・スペシャル! トルネード!」

 そこには魔法少女ファイヤビーの姿があった。

 その二人の攻撃で狒々は倒されたようだ。動かない。

 ファイヤビーが嬉しそうに宣言した。

 「あたしの魔法で止めを刺したわ!」

 キリがそれに抗議をする。

 「その前に、わたしと繋君の攻撃でやっつけていたでしょーが!」

 「いいえ、あれじゃ足りなかったわ」

 「どっちでも良くねーかー?」と、それに紐野。

 喧嘩しているが、楽しそうだ。

 

 ……どうやら、魔法少女の世界はまだまだ続くようだった。

本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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