表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

33.あいつらそろそろいい加減にくっつけちゃおうぜ会議とVSピエロ怪人 その3

 お化け屋敷の中だった。

 魔法少女キリと紐野繋は暗闇の中を進んでいる。キリが呟くように言う。

 「こーいう、テーマパークのお化け屋敷ってそんなに怖くないのよねぇ」

 「楽しくないか?」

 「楽しくないとは言ってないわ。怖くないだけ。面白いし綺麗よね」

 キリは機嫌が良さそうに見える。それを紐野も少なからず喜んでいるようだった。ただ、本人はそれをお化け屋敷が楽しいからだと思ってしまっているようだったが。

 そこは和風のお化け屋敷ではなく、西洋風の大きなホテルを模しており、ホラーと言うよりは映像アトラクションに近かった。確かにキリの言うように、怖くはないが面白くて綺麗だ。

 多数の白い骸骨のホログラムが踊り、呪いの絵は次第に朽ち果てた死体の姿に変わっていって、壁からは血が滲み出て来る。ホールには、たくさんのウィル・オー・ザ・ウィスプが舞って輝いていた。

 「……しかし、こんな場所にそのピエロがいるものなのか?」

 お化け屋敷の光景を楽しみつつも、紐野が疑問の声を上げると、

 「あら? 子供をさらうのだったら、こーいう暗い場所じゃない?」

 と、キリは返す。確かにそれはそうなのかもしれない。ただし、今は辺りに子供の姿はあまり見えなかった。

 ……と言うよりも、人間の姿自体が少なかった。しかも進めば進むほど減っているように思える。人気のアトラクションのはずなのだが。

 「ねぇ」

 キリが話しかける。

 「……なんか変じゃない? このお化け屋敷ってこんなに大きいの?」

 その彼女の指摘はもっともだった。いくら進んでも、一向に終わる気配がない。しかも、同じお化けを二回も三回も見ているような気がする。人だけじゃなく、お化けの数も減っていて、徐々に殺風景になって来ている。

 「ああ、なんか変だな」

 と紐野は返す。

 やがて紐野達は真っ暗な細長い通路に入った。緩やかにカーブしている。他の人間の姿は完全に消えてしまった。不意に見慣れないお化けの姿が彼の視界に入った。白と青のストライプの模様の服を着ていて、やたらとボリューム感のある身体。ピエロだった。そのピエロはまるで教室の廊下に立たされている生徒のような“気をつけ”の姿勢で横向きに立っていた。

 ピエロの肩には看板が下げられていて、そこには“カップル禁止・地獄行き”と書かれてあった。

 “なんだぁ?”

 と、紐野は思う。ブラックジョークか何かだろうか? ただ、テーマパークのアトラクションには相応しくない。

 「お客さん」

 そのピエロの前を通り過ぎる刹那、そう声をかけられた。

 威嚇するような笑顔でピエロは言う。

 「この看板が見えませんか? カップル禁止ですよ?」

 二人は足を止める。

 アトラクションの一環かと少し思ったが、そんな雰囲気ではない。紐野が返す。

 「僕らは別にカップルじゃないんで大丈夫です」

 怒りの表情でピエロは返した。

 「いいえ。ピエロ法第11条では、自己申告によるカップルの否定は認められていません。周囲にそう思われ、不快を振りまいた時点で罪は確定しています!」

 キリが言う。

 「紐野君。こいつ、おかしいわよ。もしかすると、もしかするんじゃない?」

 「だな」

 二人は距離を取ると構えを取った。ピエロはそれを無視してしゃべり続ける。

 「ええい! そもそも、この空間の中には、“上の世界”から特別な力を貰った者しか入らないようにフィルターをかけたはずだったのです! 何故、男が入っているのです?! 魔法少女しかいないと思っていたのにぃ!」

 「ああ?」と紐野は言う。何か変な事を言っている。爆弾を握りしめた。独り言の癖があるのか、ピエロは語り続ける。

 「さては、お前は魔法少年ですね? ええい、気持ちが悪い! もっと幼ければ男でも充分にストライクゾーン…… いいや、こいつのような陰険そうなタイプは幼くても願い下げだが、とにかく、どちらにしろ、お前は邪魔でしかありません! 早々に排除します!」

 言うなり、ピエロは地面にダイヴをした。潜っていってしまう。その意表を突いた動きに二人は混乱した。その隙を突かれた。紐野のいるすぐ傍の地面から、ピエロは顔と片方の腕を出したのだが、それに彼は反応ができず足首を掴まれてしまったのだ。ピエロは叫ぶ。

 「さっさと、死になさーい!」

 しかし、そこで紐野は小型の爆弾を素早く取り出すと、指で弾いて飛ばす。それはピエロの顔面にヒットして小さな爆発を起こした。威力は低いが、目くらましには最適だ。それでピエロは腕を放してしまったようだった。その隙に、紐野とキリは再びピエロから距離を取った。

 「さっきのは?」とキリが尋ねる。

 「新作の小型爆弾だよ。今までの爆弾じゃ、接近戦ができないからな。開発したんだ」

 「なるほど。研究熱心じゃない」

 ピエロは爆発で焼けた顔を洗うような仕草で瞬く間に治してしまうと、地面に浮かんだままで紐野を睨みつけた。

 「そうですか、あなたは爆弾を出す能力を持っているのですか。なかなか厄介ですが、地面に潜ってしまえばどうという事はありません!」

 勘違いをしている。紐野が与えられた能力とは、恐らくは認識阻害で警察から捕まり難いというものだろう。が、紐野は敢えて否定はしなかった。勘違いをさせておいた方が色々と有利になる。それからピエロは再び地面に潜った。地面の下からまた狙うつもりでいるに違いない。それを見ると、キリは「紐野君」と言って彼を素早く脇に抱えて宙に浮かんだ。地面の中からの攻撃を避ける為だろう。

 が、

 「なーっ!」

 そのキリの行動を見ていたらしく、ピエロは大声を上げて直ぐに顔を出して来た。

 「何をイチャイチャしているのですか! ベタベタくっつくのは止めなさーい」

 「何を言ってるんだお前は?」とそれに紐野は返す。

 「お前が地面に潜って攻撃して来るのが悪いんだろうが!」

 「ムキーッ! 何をいけしゃあしゃあと! 私の攻撃をイチャイチャの理由にするとは! 今すぐ、感想を述べなさい! 今後の参考にするから!」

 何故か、紐野は答える。

 「柔らかくて、暖かくて、良い匂い」

 キリが軽く紐野の頭を小突いた。コツンと。

 「ムキーッ! 羨ましい!」

 その返答にピエロは地面に出て来ると地団太を踏んだ。

 「許せません! 今すぐに地面に落としてやります!」

 それから腕を拡げると、こう叫んだ。

 「重力負荷増大を申請!」

 その途端、紐野はズシンっと身体が重くなったような衝撃を感じた。それはキリも同じだったらしく、地面に引き寄せられていく。恐らくはこの辺り一帯の重力が強くなっているのだ。キリと紐野は地面にへばりつかされてしまった。

 「アッハッハッハ! どうですか!? 地面に落としてやりましたよ!」

 ピエロの笑い声が聞こえる。ただ、見てみると、彼も地面にへばりついていた。

 「お前も食らうんかい!」と、紐野はツッコミを入れる。

 それから紐野はなんとか立ち上がろうとした。しかし、重力圧の所為でままならない。結果、キリと身体が重なった状態になってしまった。

 「ぎゃーっ!」

 と、それを見てピエロが悲鳴を上げた。

 「また私の力を利用してイチャイチャしているぅぅ!」

 彼は血の涙を流していた。想像以上のダメージになっているようだった。その様子にキリが言う。

 「……ねぇ、あいつ、精神攻撃の方が効くんじゃない? キスでもしたら、気絶するかもよ?」

 「じゃ、試してみるか?」とそれに紐野。

 やがてピエロがパチンッと指を鳴らすと、重力の圧が消えた。ゆっくりと三人は立ち上がる。

 「もう絶対に許せません。特に男の方はギッタギタにしてやります。そして、その後でそっちの女の子には、もう口では言えないような様々な事をしてやります! もちろん、その男の目の前で!」

 「悪趣味だな、こいつ~」とそれを受けて紐野は言う。頭を掻く。それから何かを思い付いたのか、彼はピエロとは反対方向に逃げ始めた。

 「何処に行くの?」

 キリは彼を追いかけつつ、そう尋ねる。

 「あいつが僕を狙っているって言うのなら、僕は囮になる。走り回るから、お前は空中を飛んで追いかけて、チャンスがあったら攻撃してくれ」

 「分かった」

 キリは頷くと言われた通りに宙に浮かんだ。

 「待ちなさ~い!」

 と、ピエロは二人を追って来る。

 体型から想像する以上にピエロは足が速く、瞬く間に追いかれてしまう。それに対抗して紐野は振り向くと同時に爆弾を投げた。爆弾は当たらなかったが、ピエロが躱したところにキリが風の刃を放ち、それは見事にヒットした。

 「ぬーん! こしゃくなぁ!」

 ピエロは頭に青筋を立てている。ただ、ほんとどダメージにはなっていないようだ。

 「効いていないみたい!」とそれを受けてキリ。紐野が頷く。

 「ああ。都市伝説では、あいつは何をされても平気な顔をしているらしいな。耐久力は凄いのかも。何か策を考えなきゃ」

 「やっぱり、キスでもする?」

 「馬鹿言うな」

 ちょっと彼は顔を赤くしていた。

 そこでスマートフォンの着信音が鳴った。キリの方だ。スマートフォンを取り出して画面を見る。

 「――あ、根津さんだ」

 と、彼女。それに紐野は嫌な顔をした。

 「根津さんだぁ? 番号交換していたのか、お前ら。こんな時だ。後回しにしろよ」

 しかし、彼女は何を思ったのか、それから通話ボタンを押した。

 『ああ、良かった。電話に出てくれましたか』

 と、根津の声が聞こえた。

 声は続ける。

 『お陰で、場所が特定できましたよ』

 それからノイズが揺れるような映像が彼らの前に発生した。それは急速に像を結び、根津がそこに現れる。二人はそれで足を止めた。根津はピエロを見やると言った。

 「そこまでです。変態ピエロさん。これ以上、彼女達に手出しはさせません」

 

 ………私は魔法少女です。

 ただ、一度も妖獣退治には行っていません。何故か、討伐数一体という事になっていますが、それだって事故みたいなもんです。そもそも私は騙されて契約をしてしまったのです。これ以上、魔法少女活動をするつもりはありません。

 私の能力は不死身と妖獣を魅了する誘い香しかないのです。妖獣退治に出かければ、どう転んでも、悲惨な目に遭うのは避けられそうにありません。だから行きたくないのですが、どうも私と契約したK吉君にはその理屈が理解できないようなのです。自分本位と言うか、自分自身の歪んだ性癖が当たり前で真っ当なものだと思い込んでいるようで、それを私にも押し付けて来るのです。

 いい加減にして欲しいです。

 なので、彼には一切心を許してはいないつもりだったのですが、それでも私は今回も彼に騙されてしまいました。

 『ワンダーランドのチケットが手に入ったから、友達を誘って行っておいでよ』

 そう言って、チケットをくれたのです。

 ワンダーランド。

 実に楽しげなテーマパークです。

 私は思わず迂闊にも彼に感謝をしてしまいました。ずっと行きたかったのです。チケットを見せると友達も大喜びで小躍りをしていました。

 ですが、それが罠だったのです。

 そのチケットは日にち指定の特殊なもので、次の日曜限定だったのでその日に行ったのですが、なんと、何故かそこには私達の地区の魔法少女達もいたのでした。妖獣退治なのかなんのか、何かしら目的があるのは確かでしょう。

 絶対に、K吉君は私をそれに巻き込もうとしているのです!!

 そして、案の定、回転空中ブランコで、魔法少女は闘いを始めました。相手は不気味で謎なよく分からないピエロです。私は関わってはならないとその場から逃げ出しました。そして、施設の中なら闘わないだろうと、友達をお化け屋敷に誘ったのです。

 ――がしかし、それが失敗でした。

 入ってしばらく歩き続けると、いつの間にかに友達とはぐれてしまい、しかもやたらと長い謎の道に迷い込んでしまっていたのです。そこは殺風景で、人の姿も見世物もありません。恐らくは、何らかの不思議空間なのでしょう。或いは魔法少女達がこのテーマパークに来ていたのと関係があるのかもしれません。

 “どうしよう?”

 いつまで歩いても出口が見当たらないので途方に暮れていると、遠くから誰かの声が聞こえて来ました。地獄に仏と思い、私はそこに向かいました。もちろん、地獄に鬼かもしれないのですが、このままでは永遠に出られないかもしれないので行ってみるしかないでしょう。念の為、不死身の能力を発動する為に、私は魔法少女に変身しておきました。

 ……これでもし私が妖獣と闘う事になったなら、完全にK吉君の掌の上ですが。

 緩やかにカーブしている通路を歩き続けると、数人の姿が見えてきました。

 こんな声が聞こえて来ます。

 「そこまでです。変態ピエロさん。これ以上、彼女達には手出しさせません」

 見ると、カッコイイ中年男性がそう言っていました。他にも魔法少女と魔法少女とよく一緒にいる爆弾を使う高校生男子の姿も。そして彼らはどうもピエロと対峙しているようなのでした。さっき回転空中ブランコで拳法を使う魔法少女と闘っていたあのピエロです。後ろ姿でしたが、特徴的なシルエットなので直ぐに分かりました。

 「おやおや。運営の方ですかね? わざわざご足労いただき申し訳ありませんが、魔法少女達は向こうからやって来たのです。咎められる言われはありません」

 ピエロはそう返しました。中年男性は肩を竦めます。

 「いやいや。他の魔法少女ならまだ認められますが、この子達に関してはその理屈は成り立たないのですよ、契約上。少なくとも私がここに来た以上はご遠慮願いたい」

 するとピエロは何かを察したのか、

 「ほほー、契約? なるほどなるほど。運営の方ではなかったのですかね? ユーザーかな? ならば、管理不行き届きです。受け入れる訳にはいきませんなぁ」

 などと返します。何の話でしょう? 運営というのは、このテーマパークの事ではなさそうです。

 そこで私は爆弾を使う高校生男子、爆弾男さんと目が合いました。彼は驚いた顔を見せるとほぼ反射的に爆弾をピエロに向かって投げていました。当たりはしませんでしたが、そもそも当てるつもりはなかったようです。それで隙をつくると、私の方に駆けて来たのです。

 そうです。

 私が魔法少女である事も、不死身である事も知らない彼は私を護りにやって来てしまったのでした。

 「おやあぁ?」

 私を護りにやって来た爆弾男さんを見て、私の存在に気が付いたピエロはそう言って笑いました。ニヤリ。

 「これはこれは驚いた。もう一匹、仔猫ちゃんが迷い込んでいたのですか」

 そう言うと、品定めをするようにまじまじと私の全身を眺めます。

 「あなた、まぁまぁですが、今は後回しですかね。待っていてください」

 そう言うと、ピエロは爆弾男さんに視線を向けました。

 「なかなか勇敢ですが、あなた、魔法少女と離れてしまって良かったのですかねぇ?」

 そうピエロが言うのを聞くと、爆弾男さんは爆弾を構えました。そして、同時に爆弾を一個、私に手渡します。

 「護身用だ。持っておけ」

 彼は私が魔法少女であることには気が付いていないようでした。私の衣装はセーラー服によく似ているし、ここは暗いからでしょう。きっと学校の制服だと勘違いをしている。

 ピエロのターゲットは、どうやら完全に相方の魔法少女と離れた爆弾男さんになってしまったようです。

 “どうしよう?”

 私は思いました。彼は爆弾を使う以外は生身の人間らしいのです。攻撃をくらえば下手すれば死んでしまいます。

 ピエロが醜い顔で爆弾男さんを睨みます。肉食獣のような構えを取る。「ちょっと待ちなさい!」と魔法少女が制止しようと杖を構えました。が、私達に当たる危険があるから魔法攻撃は放てないようです。彼女が何かする前にピエロは動きました。

 “仕方ない!”

 私は妖獣を魅了する効果のある“誘い香”を使いました。これでピエロのターゲットは私になったはずです。すると、案の定、ピエロは急激に方向変え、私に向かって突っ込んできました。気持ちが悪い常軌を逸した表情を浮かべて。

 が、そこで予想外の事が一つ。

 何故か、カッコイイ中年男性の方も私に向かって突っ込んで来たのです。しかも、ピエロと同じ様な常軌を逸した表情で。どうしてなのか彼も魅了されているみたい。彼はピエロよりも速いらしく、遠くにいたのにほぼ同時に私に襲いかかって来ました。

 そこで爆弾男さんは、爆弾を投げました。私に魅了されていたピエロ達には、それを避けられなかったようです。見事に爆弾は命中しました。吹き飛んでいきます……

 

 「なんで根津さんまで攻撃しちゃったのよ!」

 そうキリが紐野に怒っている。傍らにはピエロが倒れ、根津は立ててはいたが、ダメージを負ってしまっているようだった。

 「ハハハ。この程度なら、大丈夫ですよ」

 などと言って笑っている。

 「仕方ないだろう! 根津さん、なんか、危ない目でいきなり突っ込んで来たんだから。あの女の子を襲う気なのかと思ったんだよ!」

 紐野が反論すると、「そんな訳ないでしょうが!?」と彼女は返す。

 「助けに行ったのを、あんたが勘違いしたのよ!」

 「こっちも必死だったんだよ!」

 「とにかく謝りなさいよ!」

 「どうしてだよ?」

 「あんたねー。今回は流石に、あなたが悪いでしょう?!」

 そう言われて、彼は苛立ちを抑えられなくなったようだった。

 「あのな。そもそも、どうして根津さんはここに来たんだよ。来なけりゃ、こんな事にはなっていないだろうが! それに、お前はいつの間に根津さんと電話番号を交換したんだよ?」

 「今はそんなの関係ないでしょーが!」

 「あるよ。確かに根津さんは良い男だけどよ!」

 それを聞くと、彼女は頬を膨らませる。

 「ふーん。そういう事を言うんだ。だったら、紐野君だって、女の子を見つけたら真っ先に反応してたじゃない! いやらしい。スケベ!」

 「お前な! 仕方ないだろうが! 一般人の女の子なんだから! 護らなくちゃ」

 「それを言ったら、紐野君だって生身じゃない! 素直にわたしに任せていれば良かったのに。命を懸けてまで飛び込んじゃって」

 「必死だったんだよ! 考える暇がなかったんだ!」

 「つまり、そんなにその女の子が大事だったってことでしょう?」

 どうにもちょっとした事故から、紐野とキリの初めての大喧嘩にまで発展してしまっているようだった。

 

 ピエロが倒れている。もちろん、その程度ではやられてはいない。倒された振りをしているだけだ。

 ピエロはブツブツと何事かを言っていた。

 「まさか、この私が中学生よりも上の女の子にあそこまで欲情してしまうとは。恐らくは“上の世界”によって作られたボディをフラグにして欲望に働きかけるプログラミングが組まれているのですね……

 つまり、あの欲望は偽物……」

 そう言い終えると、彼はニヤリと笑う。

 「しかし~。そんな事はあまり関係がありません。欲望を満たせる快感を味わえるのであればそれで充分。あの儚げな女の子は是非とも欲しい!」

 キリと紐野の痴話喧嘩はまだ続いていた。ピエロには無関心だ。

 「これはチャーンス。チャンスですよ。今の内に……」

 そう呟くと、彼は地面に潜った。そして、二人の喧嘩に狼狽えた様子を見せている儚げな女の子に直ぐに襲いかかった。彼女は悲鳴を上げる事もできずに、ピエロの口の中に呑み込まれていってしまった。女の子は何かを持っていたが、ピエロは特に気にしていないようだった。そのまま、彼は虚空を掴んで別空間に移動する。

 「やったー! 逃げて来られた。ゲットですよぉぉ」

 安全な異空間に入ると、彼は小躍りして喜んだ。しかし、それから、

 「それにしても、あの女の子が持っていた物は何だったのでしょう? 何か見覚えがあるのですが……」

 冷静になってそう呟く

 そのしばらく後で、思い出したのか目を見開くとこう言った。

 「あ、分かった。あれは、あの爆弾小僧が持っていた爆弾じゃありませんか!」

 そして、そう言った瞬間だった。いきなり爆発し、彼の身体は爆散してしまったのだった。ボカーンと。

 流石の彼も、油断した状態で、身体の内側からの強烈な爆破を受ければ一溜りもなかったようだった。

 首が転がる。

 テン、テンと。

 傍には女の子も転がっていた。ただ、女の子は無事だった。

 「うー。酷い目に遭いました」

 と、ゆっくり立ち上がる。

 そこに突然、狐のような兎のような妙な獣が姿を現した。

 「K吉君?」

 と、女の子。

 K吉君はこう言う。

 「いやぁ。お手柄だったじゃないか、魔法少女タベラレルン。見事、ボクが提案した通りの戦闘方法でピエロを倒したね。魔法少女としての大きな戦果だよ」

 それを聞いて、彼女は、

 「そんなぁぁ! そんなつもりじゃなかったのよぉぉ」

 と、悲鳴に近い叫び声を上げた。

 

 ……お化け屋敷の中の異空間では、相変わらず、キリと紐野が大喧嘩をしていた。

 

 「第三回、あいつらそろそろいい加減にくっつけちゃおうぜ会議~」

 と、ライが会議の開催を宣言した。テーマパークの空の上。時刻は夕刻。空は橙色に染まっている。魔法少女達は円になって話し合っていた。

 「そんな訳で、あたし達がくっつけちゃおうぜ計画を実行した結果、あの子達はなんか喧嘩をしちゃった訳なんだけど」

 そう言うライにバリーが返す。

 「まあ、仕方ないわよ。いくらなんでも予想外の事態過ぎるもの。ピエロが本当にいた点も含めて」

 そこで、「それなんだけどぉ」とナースコールが声を上げた。

 「どれなんだけど?」とバリー。

 「なんか、ちょっとキリちゃんおかしくない?」

 「おかしいって?」と、それに青蓮。

 「いつものキリちゃんなら、もっと聞き分けが良いでしょう? 爆弾を持っていると分かっている戦闘中の紐野君の近くに飛び込んでいった根津さんにも非があるもの。紐野君が生身の女の子を放っておけなかったっていうのも、無理がない話だし。意外に優しいから、彼」

 「何が言いたいの?」とバリーが尋ねる。

 「つまりね、キリちゃん、紐野君に甘えているのじゃないかな?って話。他の女の子を身の危険を冒してまで助けに行ったから、妬いちゃったのじゃないかしら?」

 それを聞き終えるとライが言った。

 「なるほど。という事は、なにか切っ掛けさえあれば、今回のあの子達の大喧嘩は……」

 「そ。雨降って地固まる。反転して、急速に仲が良くなる切っ掛けになるかもしれないって話。そして、その切っ掛けは、妖獣が出てくればいくらでもできる」

 ライはその結論に喜んだ。

 「なんだ。余計な事をしちゃったと思ったけど、大成功じゃないの!」

 しかし、その後でポイズネスはこう続けるのだった。

 「そんなに上手くいきますかねぇ?」

 と。

本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ