4.彼女を守れるか
「なっ、どうしてなの?」
「どうして、などと……確かに、リーセ様の実力は本物かと存じます。先ほどの刺客を圧倒する強さは、疑いようのないものだと」
「それでも、僕を護衛にするには信頼が足りない、と」
「失礼ながら、その通りです」
シエナははっきりと口にした。――彼女の言うことは、なにも間違っていないことだ。
たまたま出会って、お金で契約したから助けただけで、確かに僕はお金が払われなければ彼女達を助けることはしなかっただろう。
だから、僕はシエナの意見を否定はしない。
「見る限り、君とシエナはいつも一緒にいるんだろう? それなのに、僕を雇うのが反対だと言うのなら、僕としても契約するのは少し躊躇われるかなぁ」
「! シエナ、リーセさんはわたし達のこと、助けてくれたのよ?」
「ですから……それは金銭の授受があったために成立したこと。それなのに――」
「そう、その通りだよ。僕はお金さえ払ってもらえば、さっきみたいに君達を助ける。これは嘘じゃないよ」
「シエナ、お願いだから、了承してほしいの。確かに、たった今出会ったばかりの人をお金で護衛を雇うなんて、おかしいかもしれない。でも、リーセさんの実力は確かよ。あの刺客達だって、わたし達じゃどうしようもなかったんだから」
「それは……そう、ですが……」
まだ迷っているのか、シエナはちらりと僕の方に視線を送った。
彼女が葛藤しているのは、『僕が刺客を倒した』という事実と、『出会ったばかりの僕を信頼できない』という彼女の考えがあるからだ。
こればかりは、僕がなにを言ったところで納得するとは思っていない。ただ、僕に言えることは一つだけだ。
「決めるのは君だよ。僕は彼女を守れる。君は、彼女を守れるのかな?」
「……っ」
僕の言葉を受けて、シエナの表情が一層険しくなる。
だが、シエナは反論することはなく、それを飲み込んで大きく深呼吸をした。しばらくシエナは悩んだあと、
「……分かりました。エリスティア様が望まれるのであれば、私もこれ以上は申し上げません」
――シエナの方が、エリスティアの説得に応じたのだ。
「シエナ……! ありがとうっ」
「エ、エリスティア様……」
エリスティアがシエナに抱き着くと、シエナは顔を赤くして焦った様子を見せた。
だが、すぐにシエナが僕の方を見て、睨むような表情を見せる。
言葉では『納得した』と言っているが、態度では納得していないのは明白だった。……とはいえ、表面上でも納得してくれたというなら、それでもいいか。
「それじゃあ改めて――契約成立ってことでいいかな」
「あ、はいっ。よろしくお願いしますね、リーセさん」
エリスティアが立ち上がり、僕に握手を求めてきた。
僕はそれに応じて、お互いに握手を交わす。
次に、僕はシエナに握手を求めた。
「よろしくね」
「……リーセ・デイグレン――どこかで、聞いたことがある名前です」
エリスティアに聞こえないくらい小さな声で、僕に向かってシエナが言い放った。
僕は笑顔で、彼女の言葉に答える。
「そうなの? 結構そこらへんにいる名前だと思うけれど。それより、形だけでも仲良くしないと……エリスティアがまた変に思うよ」
「……っ、分かっていますっ。ただ、一つだけ。『契約』をする以上、必ずエリスティア様を守ってください。それでなければ、ここで契約した意味がありません」
「もちろん、報酬に見合う働きはするつもりだから、心配しないでよ」
シエナが僕に応じて、お互いに握手を交わす。
それを見て、エリスティアもまた嬉しそうな表情を浮かべていた。
――こうして、僕は無職になったその日、この国の第三王女に拾われることになった。
冒険者の活動をしているだけなら、絶対に関わり合いのなかったような相手だ。
――なかなか、運がよかったと言えるだろう。




