第98話 ラッキースケベの為なら労力は惜しまない
挙式をなんとか引き延ばして、仲間の助けを待つミルク。琢磨は一体どこにいるのだ? 一方、強とくのいちは二度目の空間転位をくらい、とんでもない場所に閉じ込められていた。
その時、なぜか機械メイドとシェフが同時に軽くジャンプする。二人が着地した瞬間、ヒッキー、ミルク、機械メイド、シェフが立っている祈りを捧げる台が『ガタッ』という音と共に斜めに崩れる。
「キャッ!」
「うわっ!」
ミルクとヒッキーは体を重ねる様に倒れる。ミルクが下。その上に彼女の胸の谷間を埋める様に顔を伏せたヒッキーが上。
「ご、ごめんなさい、ミルクさん」
「台が壊れたんだね〜」
ミルクの脇に立っていた機械メイドとシェフはバランスを崩しながらも、転ぶ事無く、すぐに体勢を立て直す。ヒッキーとミルクは重なったままの体勢。
「この台は危ないから片付けましょう」
そう言って台を持ち上げたメイドは『あらっ』と声をあげる。
「台の脚に一つ切れ込みが入れてあります。人が四人くらい乗ったら折れて傾く様になっていたみたいです」
思わずヒッキーを見つめるミルク。ヒッキーはミルクの上に乗っかったまま、恥ずかしそうにそっぽを向いて口笛を吹く。
「(比企新斗〜! 偶然のラッキースケベを装って、台そのものを傾けてきた〜!)」
チャペルの室内の背景がミルクの心の中でぐにゃりと歪む。『ざわ、ざわっ』という効果音付き。
「(私の胸に顔をうずめる為にそこまでするの〜? 男の人ってこういう目的のためならどんな馬鹿らしい事も必死にやる、って聞いたけど本当だったのね〜。ごめんヒッキー、私には琢磨さんという男性がいるから。ああ、人気者なのも罪なのね〜)」
ところでミルク、自力で戦えないのか? しかし彼女の浄化モードは発動しない。ヒッキーの思いが余りに真っ直ぐ過ぎて『曲がった心を真っ直ぐにする』という浄化モードが作動しないのだ! おまけに彼女は中ボスであるシェフと機械メイドに脇を固められている。二人とも腕力ならミルクよりは遥かに上か。
その時、横に置いてあるウェディングケーキがガタゴトと揺れる。
台の件をスルーしてシスターが式を進める。
「これより新郎新婦による最初の共同作業、ウェディングケーキの入刀を行います」
ヒッキーはミルクにうずめていたバストから名残惜しそうに離れ立ち上がる。二人はナイフを共に握り、二メートルのケーキに近づく。……が背の低い二人はケーキのてっぺんにナイフが届かない。
「もうちょっと、あと少しだ!」
「あのイチゴとメロンが乗っかっているところは私がいただく〜! ついでにチョコでできたプレートも私がいただく〜!」
「共同作業は大変に盛り上がっています。どうか皆さま暖かい声援を!」
と機械メイドが二人に声援を送る。
「さあもうちょっとです。背を伸ばして」
などと無責任な事を言う機械メイド。
「つま先を伸ばしてでしょう? 背を伸ばすのを待っていたらこの連載終わっちゃいます、と」
とシェフ。
「私、ロンドンブーツを持って参りましょうか?」
と機械メイド。
「マジックハンドをAmazonで注文したらどうだい? 昭和四十年代に流行ったろう?」
とババ知識満開のシスター。
「新郎が新婦を肩車するのはどうでしょうか、と」
とシェフ。
「このドレスだと肩車で新郎は前が見えなくなってしまいます。やっぱ脚立ですよ脚立」
と機械メイド。
「こないだの東京オリンピックで使った表彰台、倉庫に無かったっけ?」
とシスター。一体いつの東京オリンピックの事を言っているのやら。まさか大戦で中止になった時の東京五輪の事ではないだろうが。
悪戦苦闘している二人を見かねた機械メイド。
「あのてっぺんの部分が邪魔なんだわ。チョコとかが載っているやつ。あれが無ければ二人はケーキのてっぺんにナイフが届くわ。ようし!」
機械メイドはウェディングケーキに向けてダッシュする。ケーキの手前で高くジャンプ。体操種目の跳馬の様にケーキの上の方に手をついて、ケーキのてっぺん三十センチの部分を掴み取ってそのまま宙返りして着地する。
「完璧だわ。それにしてもこのてっぺんの部分美味しそう」
機械メイドはチョコとイチゴとメロンの載ったケーキの上部を、勝手に自分用の皿に載せ、フォークで食べる。
「てっぺんの部分は私が排除しました。高さもちょうど良くなったので、ケーキカットを存分にお楽しみ下さい」
と機械メイドはヒッキーとミルクに言う。
二人はあっけにとられているが機械メイドは、
『私すごいでしょ、ほめて、ほめて』
というオーラを全身から発する。
「私のウェディングケーキが〜!」
改めて機械メイドのポンコツぶりに呆れるミルク。
シスターが機械メイドを叱りつける。
「こら、お客様の食べ物に手をつけるなんてなんて子だい!」
機械メイドはゲットしたケーキをフォークでむしゃむしゃとたべている。
「すみません、シスター。もぐもぐ。このケーキ、イケます」
シスターは機械メイドの胴を小脇に抱えお尻をぺしぺしと叩く。
「この役立たずが! 折檻、折檻!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
泣き顔の機械メイドを尻目にシェフがミルクに言う。
「取り敢えずケーキは私がお取り分け致します。お二人にはまた明日にでも新しいケーキをご用意させていただきますので、と」
「ありがとうシェフ〜」
「あなたは私を『コックさん』とは呼ばないのですね、と」
蛇口は欧米人には何か違う物に見えるらしい、と自慢の大砲を装備している作者は言った。(嘘)
「一応私バイリンガルですから〜。『コックさん』じゃ『おち○ちんさん』って意味になっちゃうからね〜。そんな事恥ずかしくてJKの私には言えないよ〜」
「言っちゃっているじゃないですか。とにかくこれからも当施設を、ごひいきに、と」
シェフはそう言うと、肉切り包丁でケーキを真上からスパッと切る。……と中から出てきたのは包丁をまともにヘルメットで受けている強と横にいるくのいち。どうやら真剣白刃取りを試みて失敗したらしい。ヘルメットに『安全第一』の文字が光る。
「いてっ、しくじった」
「何やってるのよ強!」
「ケーキの中は真っ暗だった。その状態での真剣白刃取りはムリだったか」
「言い訳はしないの! 追試決定! もう一度やるわよ!」
くのいちはそう言って割れたケーキを閉じる。二人は再びケーキの中に隠れる。




