第90話 僕、オトナの事情に精通しちゃいました
精通おめでとう! しらすご飯でお祝いしなくちゃね!(^_^)/
ミルクが何者かに拉致された! 犯人は? 強の推理が光る。
小一時間後。強と琢磨の部屋。二人はビデオに少し飽きてきた様子。
「そろそろ女子部屋に挨拶に行くか」
「僕が連絡しますね」
女子部屋。目をらんらんと輝かせてビデオを見ているくのいちの脇でミルクは室内電話で話をしている。
「あ、うん。くのちゃんもいるから〜待ってるよ〜」
ミルク、電話を切る。
「誰から?」
「これから男性陣が表敬訪問に来るって〜」
「えっ、今すぐ? まずいよ!」
女子部屋はお菓子や飲み物が散乱している。開けっ放しのスーツケースの周りには衣類が無造作に置かれている。枕と布団もぐちゃぐちゃになっている。
窓際のカーテンレールには風呂場で洗った下着類がハンガーに掛けてある。ミルクから借りたパッド入りのDカップの黒のブラ、お気に入りの水色と白のストライプのパンツ。
「(上下バラバラだ。ミルクはちゃんとそろっているのに……)」
と余計なライバル心を燃やすくのいち。
テレビの周りには『男の子の秘密シリーズ』などのDVDが散乱している。
くのいちは慌てて部屋の片付けを始める。そこにピンポーンと呼び鈴が鳴る。琢磨と強が隣の部屋から来たのだ。
「は〜い」
「ミルクちょっと待って!」
「今開けるよ〜。……ムガッ、ムゴッ……」
開きかけたドアがすぐに閉じられる。
暫くしてくのいちが小さくドアを開ける。琢磨と強が立っている。
「ちょっと待ってね。散らかっちゃってるから」
そう言ってドアを閉じるくのいち。
それからまたしばらく時間が経過する。
「遅えな、まだかよ。」
「一旦出直しますかね」
その時女子部屋のドアが開いてくのいちが出てくる。
「いいよ、入って」
「お邪魔しまーす」
琢磨と強が女子部屋に入ると、室内は綺麗に片付いている。テーブルにはルームサービスで二人が頼んだと思われるドリンクや、鳥かごの形をした容器に飾られている三段のお皿のアフタヌーンティーセットなどが並んでいる。
「女子会ってこういうものなんだな」
と、いつもはカウンターで牛丼を食べている強がまるで別世界でも眺めている様に言う。
「あれ、ミルクちゃんは?」
「さっきまでいたんだけど、トイレかなぁ?」
「じゃあトランプでもやって待つか」
強はドナルドトランプ氏の顔がデザインされたトランプを見せる。強、琢磨、くのいちはドボン、七並べ、うすのろまぬけ、などの定番のトランプゲームに興じる。
ふと、押し入れの方からうめき声が聞こえ、押し入れの戸がゴトゴトと鳴る。
「えっ、どうしたんだ?」
そこに『バタン』と音がして押し入れの戸が倒れてくる。それと同時に、手足を浴衣の帯で縛られて口にさるぐつわをはめられたミルクが押し入れから落ちてくる。干してあった生乾きの下着や『十二歳の男の子のヒミツ』というタイトルのDVDなども一緒に落ちてくる。くのいちはさりげなく下着とDVDを奥に隠す。
「ミルク、大丈夫か!」
「ミルクちゃん、何があったんですか!」
「あれ、ミルクこんなとこにいたんだ」
と堂々としらばっくれるくのいち。ミルクはもうろうとしている。
琢磨はミルクの縛られていた帯とさるぐつわを解く。そしてふと倒れてきた押し入れの戸に目をやる。
「あれ、ここに何か書いてあります」
戸には口紅で
『ちちなしおんなにやられた』
と書かれている。
強はそれをゆっくりと読み上げてから言う。
「これは犯人を示す重要なメッセージだ。俺の推理によると……」
「よると?」
強が滅多に使わない知恵を絞っているので興味を惹かれる琢磨。
「犯人は……」
「犯人は?」
「お父さんが単身赴任している娘さんだな」
琢磨はズッコケて、誤って自分自身を変な風に縛ってしまう。
強のボケをよそに、くのいちはハンドソープとティッシュペーパーでメッセージをゴシゴシと拭き落としている。
「ダイイングメッセージなんて犯人が消しちゃえばいいのよね。カラダはオ・ト・ナ♡。あたまはようちえん」
「青山先生に叱られるぞ」
「著作権的に、この推理ドラマの映画化はムリですね」
「自分で犯人って言っちゃってるしな」
ミルクが意識を取り戻す。
(攻撃判定スレスレの芸術的なお片づけ)
「私、生きてる〜。はぁ〜。始末されたのかと思っちゃった〜。頭の中を色んな物が走馬灯の様に駆け巡っちゃったよ〜。朝マッタのソーセージマフィン、丸仮面の釜揚げうどん、古野家の牛丼、デカストップのコンビニ弁当、にしんのカップ麺……」
「一人暮らしの男の人みたいな走馬灯ですね」
「野菜もちゃんと摂る様に走馬灯に言っておけ」
「ごめんねミルク。部屋を片付けた時、間違ってあんたも片付けちゃったの」
「両手両足を縛って、さるぐつわをした上で押し入れに入れるなんて、闇組織の片付けみたいだな」
「あれ、お片付けだったんだ〜。てっきりかくれんぼかと〜」
「(これはリラックスモードの攻撃判定にはならないのか)」
とバトルに関しては常に真面目な強。
くのいちが恐る恐る尋ねる。
「ねぇミルク、怒って……ないよね?」
「ぜ〜んぜん。くのちゃんはえっちな下着とイケナイDVDを隠すために〜心を鬼にしたんだよね〜」
くのいちは両手で耳を塞いで大声を出す。
「あー、聞こえない、聞こえなーい!」
「『十二歳の男の子のヒミツ』燃えたね〜。『僕、大人の事情に精通しちゃいました』は、くのちゃんは瞬き一つしないで観てたよね〜。目、痛くなかった〜?」
「やっぱり全然聞こえなーい。何の事だか分かんなーい!」
「お前には聞こえなかったかもしれないが、俺と琢磨にははっきりと聞こえたぞ」
「だけどさぁ……」
とくのいちは反論する。
「『ペットショップ☆小学生男子が売ってます』は観てないんだからねっ! 信じて、強!」
今更何のフォローにもならない事にも気付かないのだろうか。
「あのビデオは頼んだけど〜レンタル中で借りられなかったね〜。明日観ようよ〜」
と死者にムチを打つ様なミルク。
この場は何となく丸く収まり、四人はトランプを再開する。
トランプの『大貧民』では暫くくのいちの一位、強の四位が続く。
「ほらそこの大貧民、大人しくあたしに極上のカード三枚を差し出せ」
「今月は支払いが苦しいので来月まで待っていただけないでしょうか?」
「ダイブの仮想現実に来ても現実世界と同じだね〜」
四人はその後も牛タンゲーム、タケノコニョッキなどに興じる。




