第88話 機械メイドさんの身を挺したご奉仕
クエスト前半のゴブリンとのバトルやなんやらの疲れをいたわる機械メイド。果たして敵か味方か? それとも場つなぎのモブキャラなのか?
盛り上がる女性陣に対し、夜の照明に照らされて粛々と入浴する強と琢磨。
琢磨は風呂場ではトレードマークの包帯は外している。これなら全裸の強が縛られる心配はなさそうだ。残念。
「それにしても男同士の入浴シーンって深夜アニメだと少ねえな」
「それはDVD特典のオマケ映像に、って事で。よーし、ムダ毛処理のお手伝い、頑張るぞー」
「おいおい、視聴者が本気にすんだろ」
「ムダ毛の処理がないなら、僕はそろそろ上がりますね」
と琢磨。
「おう、俺はもう少しゆっくりしていくから」
風呂場から出て行く琢磨とすれ違いに、先程の機械メイドが入ってくる。
相変わらず長めの前髪と閉じた目で、表情は良く見えないが、微笑んでいる様子が伺える。メイド服は着ておらず機械のビキニ姿。カワイイAカップのバスト。すらりと伸びた手足が美しい。
彼女は洗い場に腰掛けている強に声をかける。
「お客様、お背中をお流し致します」
強はちょっと驚く。
「俺は自分で洗えるから、大丈夫だけど」
「お代は今なら出血大サービス中です。三十分まででたったの三十マジックポイントですよ。そこから延長の場合でも最大六十マジックポイントまでしかいただきませんので」
機械メイドの優しい口調に強の気も緩む。
「俺はまだ千ポイントはあるから、お願いしていいか?」
「かしこまりました」
彼女は洗い場に腰掛けている強の後ろに腰掛ける。
「では失礼します」
彼女は両手にボディソープをつけ、強の背中を手で洗い始める。次第に背中が『ベタッ』と板の様な物でこすられている感触を覚え強は振り向いて驚く。機械メイドは泡だらけの上半身を強の背中にこすりつけている。
「メイドさん、ちょっとこれって……」
「申し訳ありません、お客様。私、タオルを忘れてしまいまして、お詫びにこうやってお体を洗わせていただきます。私、新人なもので慣れなくてすみません」
彼女は腰掛けている強の横に立ち上がる。
「この胸のカバー、お体を洗うのには邪魔ですかね?」
そう言うと機械メイドは黒いカバーを外そうとする。中から肌色の膨らみらしきものがチラリと見える。
強は慌ててお湯を被り駆け出す。
「俺、サウナ入ってくるんで!」
逃げる様にサウナ室に駆け込む強。
頭を冷やすつもりが何故かカーッとして冷静になれない。そうか、サウナだからか。自分で納得する強。
それにしてもあの機械メイド。機械なんだからいくらでもグラマーにデザインしてもらっても良さそうだが、控え目だった。それでもいきなり胸のカバーを外そうとするものだから、体の一部分が反応しそうになってしまった。カバーの下は、顔のつくり同様、樹脂製の人肌そっくりに見えた。肌色だけじゃなくてピンク色の部分も……
もし強の体の一部分が反応しちゃったら、あの機械メイドは『私、新人ですから宿中の皆さんに報告してしまいました』なんて事を言いかねない。頑張れ、俺。ちゃんと掛け算の九九は覚えろ。清い心を持て……などと悶々としていると、サウナマットを一枚胸に抱えてあの機械メイドが入って来る。
「お客様、マッサージをいたします」
彼女は胸の辺りをサウナマットで隠している。強の視線がそこに行くと彼女はそれをパッと払いのける。
「大丈夫です。着けていますよ」
胸カバーは無事な様である。一発ギャグみたいなシチュエーションだな、と強は思う。
機械メイドはサウナで腰掛けている強の一段上に座り、タオルを横に広げて強の両肩を覆う。そして肩を揉み始める。なんだ、タオル持っているじゃないか。
「力加減は如何ですか?」
「もっと強くても構わねえけど」
「申し訳ありませんお客様。余り強く揉むと攻撃判定が出て、私の手が貫通してしまいます」
「えっ、なんだそれは?」
「今、全館リラックスモードになっていますので」
「それじゃあ今は攻撃される事もないけど、こちらからも攻撃はできないんだったな」
十分程のマッサージを終えて二人はサウナ室を出る。機械メイドが強の前を歩く。
「気持ち良かった。ありがとな」
と強が言った瞬間、
「キャッ!」
と言う機械メイドの声。彼女は足元の石鹸につるんと滑り後方にすってんころりんとなる。サウナで熱せられた機械の体の背中が強の体にのしかかる。
「うわ、熱い!」
と強が思った瞬間、機械メイドの体は強の体をすうっと貫通する。
「これがリラックスモードか。お陰で命拾いしたぜ」
「申し訳ございません、お客様! 私、新人なものですから!」
「いや、俺は何ともないから。それよりメイドさんはケガは?」
「私の事を心配していただきありがとうございます。頑丈だけが取り柄ですから」
そう言うと彼女は右手の拳で自分の右側頭部を勢いよく『ゴン』と叩く。彼女の首が九十度曲がる。
「おい、大丈夫か!」
「ダイ…ジョウブ…デスウ」
機械メイドは大丈夫そうでない声を発して、曲がった首を両手で直す。
「時間になってしまいました。延長はどうなさいますか? ここまででマジックポイントは三十ポイントいただきます。あと三十分延長なさる場合は更に三十ポイントいただきます」
「お陰で十分にリラックスできた。延長はしなくても大丈夫だ」
「了解しました。マジックポイントは大切ですからね。今後のバトルの為にも」
そう言って手のひらを上にして広げる機械メイド。強は自分の手のひらをそこに合わせると『ピッ』と音がする。
「俺はまだバトルでのマジックポイントの使い方は知らねえんだけど」
「特殊な能力、特殊な武器を使う時は必要です。あの緑の髪のグラマーなお客様はここにいらっしゃるまでに半分近くマジックポイントを使われた様子。お客様は有意義に使って下さいね」
「親切なアドバイス、感謝するぜ」
「それではこれで一旦失礼させていただきます。また夕食後に御用の際はご指名下さい」
機械メイドは風呂場を出て行く。
「楽しかった。サンキュ」
と強は声をかける。
「(あんなポンコツな従業員、初めて見たぞ)」




