第87話 ミルクとくのいち 美女二人の入浴
ミルクもう堪忍して。そんな事されたらあたし……。くのいちは変な妄想にとらわれていた。物は言いようである。
宿の大浴場、女湯。ミルクとくのいちはバスタオル一枚でミストサウナに入っている。湯気がもうもうと室内に立ち込めている。
「この宿、設備が充実してるわね」
「今日はラクダに乗って砂漠を横断したから〜お顔が乾いちゃったもんね〜。あ〜しっとりする〜」
「(あたしの顔は焼かれて皮も剥ぎ取られちゃったんだけど)」
とくのいちは心の中で呟く。
「ミルク、そろそろミストサウナから出る?」
「私はもう少し粘ってみるよ〜」
「じゃああたしはお先に」
くのいちは先にミストサウナから出る。
暫くしてミルクもミストサウナを出る。
体を流してから冷たい水風呂に近づくと水中からいきなりくのいちが『ザバッ!』と飛び出してくる。ミルクは水しぶきを浴びる。
「きゃ〜、冷た〜い!」
「忍法、水遁の術!」
「くのちゃんって冷たいのにも強いんだね〜。水中で息を止めるのも得意そうだし凄いよ〜」
「(火あぶりの次は氷水攻めにするつもりなの? ……いけない。なんか被害妄想になってる)」
二人は洗い場に腰掛ける。
「くのちゃん、これ使って〜。泥配合の洗顔フォーム〜」
「あ、今売れてるやつだよね。ありがとう」
「バイト先の魚池ドラッグズ&コスメで貰ったんだよ〜」
二人は洗顔して顔を流す。
「ねえミルク、背中流そうか?」
「えっ、そんな事してもらっちゃ悪いよ〜」
「ううん。この宿にタダで泊めてもらっているお礼を少しはさせてよ」
「じゃあお願いしちゃおうかな〜」
くのいち、ミルクの背中を洗う。
「(手はめり込まないわ。大丈夫、大丈夫)」
「くのちゃん、悪いんだけど〜、そこもう少し強く洗ってくれるかなあ〜?」
「お易い御用よ」
くのいちは少し力を入れてミルクの背中をぐいっと押す。くのいちの手がミルクの背中にめり込む。くのいちは慌てて手を引っ込める。
「(めり込んだ? また拷問? 気のせいよね、気のせい)」
二人、体と頭を洗い終える。
「次はジェットバスに行こ〜」
二人はジェットバスに浸かる。壁面の小さな穴から勢いよくお湯が吹き出し、底からは空気の泡がぶくぶくと立ち昇っている。
「このぶくぶく、閻魔様の釜茹での刑みたいだね〜」
「(考え過ぎ、あたしの考え過ぎ。話題をそらそう)」
「スーパー銭湯のジェットバスって湯船の温度が高めの施設が多くない?」
「ぬるくしちゃうと〜長居する人で混雑しちゃうからかな〜?」
水流がちょうど腰のツボに当たりくのいちの表情が緩む。
「あー、腰にジェットが当たると気持ちいい。あたしはもう少し長居するね」
「いいよ〜。私はここで待ってるから〜」
ミルクは ジェットバスから上がり、まだ湯に浸かっているくのいちの近くに腰掛ける。ゴボゴボと水流の音が響く。
「なんかあたし、ぼーっとしてきちゃった。温まりすぎたかなあ?」
「私のクッキー食べて〜もっと頑張っちゃう〜?」
(恫喝じゃなくてただの天然ボケという説も)
ミルクの何気ない一言だったが、くのいちは顔を引きつらせる。
「(この子、浄化モードの事を本当に忘れてるの? それともこれは脅しなの?)」
とくのいちは心の中で呟く。
「次は海水リラクゼーションね」
二人は内風呂を出て露天風呂の海水リラクゼーションのコーナーに行く。日は暮れているが屋外の照明が明るく照らしている。
ミルクは腰の下に敷いたビート板で仰向けに浮かぶ。彼女の豊かな胸が水面上に浮かんでいるのが目を惹く。
「(おっぱいって水に浮くんだ)」
くのいちも腰の下にビート板を敷く。
「じゃあ、あたしも……あれっ?」
くのいちは仰向けで浮かぶが、目や鼻の辺まで水位がくるので余り気持ちよくない。
「くのちゃんが浮かぶにはビート板二枚必要だよ〜」
「そっか。体重は関係無いのよね」
体脂肪率の低いくのいちはビート板二枚でようやくリラックス姿勢になる。
そこに塀の向こうから強と琢磨の声がする。
「ほーら、強君のもちゃーんとぷかぷか浮かんでますよー」
「お前、ムダ毛の処理、ちゃんとやってんだな」
「お望みなら強君のも処理してあげますよ」
二人の声に気づいてミルクが塀越しに呼びかける。
「強く〜ん、琢磨さ〜ん、そっちにいるの〜?」
「僕と強君は海水に浮かんでいまーす」
「ちょっとそっちに行ってもい〜い?」
「お望みならどうぞ」
「琢磨さんから許しが出た〜」
そう言ってミルクは塀を登ろうとする。くのいちが足をつかんで阻止する。
「くのちゃん、女同士の足の引っ張り合いなんて醜いよ〜」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
本当は女の人は、湯船に髪をつけてしまわない様に、シャワーキャップなり頭にタオルを巻いたりする……という、幼児期に女湯に入った記憶を必死に思い起こす作者。盗撮モノのビデオを観てもっと勉強せねば(嘘)。




