第86話 小学生男子が売ってるペットショップ
機械のメイドさんに案内され、部屋に着く四人。館内は敵からの攻撃を受けないリラックスモードに設定されているので危ない事は無いはずだ。しかし四人は危ないDVDを目にしてしまう。
そこに荷物運搬用のワゴンを引いた機械メイドが現れる。長袖のメイド服にメイドキャップ。手、足、胴が機械でできているのが分かる。顔は精巧な樹脂の様なもので人肌に似せている。頭は人工物と思われる黒髪。長めの前髪で目元を隠し、目は閉じている。視覚センサーが別の部位にあるのだろうか?
「お待たせいたしました。私、機械メイドがお客様のお荷物をお運びいたします」
「俺は手荷物だけだからいい」
と強。
「僕も大丈夫です」
と琢磨。
「私、新人なので慣れない面もあるかと思いますが、宜しくお願いします」
深々とお辞儀をする彼女。
「こちらこそよろしく。素敵なメイドさん」
と琢磨。機械とは言え彼女の整った顔立ちやすらりとしたスタイルに多少心を奪われたのか?
「素敵だなんて、ありがとうございます。でも私をおだてても何も出ませんよ」
「メイドさ〜ん、早くお荷物運んでくれるかしら〜?」
ミルクは虫が付きそうになったらどんな虫でも早めに駆除するタイプらしい。
「す、すみません。ただ今」
機械メイドはワゴンにミルクとくのいちのスーツケースを載せる。ワゴンにはもう一つ、小さめのスーツケースも載っている。ホテルの物品なのだろうか。
フロントから客室に向かう一行。廊下を歩いている。
「ここは段差があるのでお気をつけ下さい」
メイドがワゴン車の段差を越えた時、『ガタン』と音がしてくのいちとミルクのスーツケースが崩れ落ちる。ワゴンに最初から載っていた小さなスーツケースも崩れ落ちる。
スーツケースは三つとも開いてしまい、中身が廊下に散乱する。
「も、申し訳ありません。すぐに片付けます!」
と機械メイドは言う。廊下に散乱しているのはくのいちとミルクの私物と思われるコスメグッズや着替えなど。
それに混じって一本のDVDのパッケージが目を惹く。六歳くらいの男の子がハイレグの水着姿でネコミミとシッポを生やした写真。首輪を着けている。タイトルは『ペットショップ☆小学生男子が売ってます』。くのいちは凍りつく。
「ミルク、何て物を持って来たのよ!」
と、取り敢えず都合の悪い物は人のせいにしておくくのいち。
「お客様、この危ないDVDは当宿泊所の所有物です。お客様の物ではございません」
と機械メイド。
琢磨がそれにフォローを入れる。
「メイドさんの鏡みたいな人ですね。くのいちさんに恥をかかせない様に自分で泥を被ってくれているんですね」
「だからあたしじゃないってば!」
「本当に優しいメイドさんだね〜」
とミルクまでもがくのいちを見捨てて逃げ切るかの様な体制に入っている。
「何であたしがダイブのクエストでわざわざ危ないDVDを持ってくるのよ? つじつまが合わないでしょ!」
「冗談ですよ、くのいちさん。強君だって分かっていますから」
そう言われても強はぽかんとした表情。
「小学生の男の子が、健気にペットショップのお手伝いをしているビデオだよな。全然危なくないぞ、くのいち」
「だからあたしじゃないって!」
ともあれ強のボケた発言でその場は丸く収まる。
「こちらのお部屋になります」
機械メイドは部屋の鍵を開ける。四人は内風呂付きの和洋室に通される。ツインのベッドの洋室に六畳の和室。広々としている。
「この和洋室が二つ、隣合わせになっていますのでお二人ずつでお使い下さい。館内はリラックスモードに設定されているので安心してお休みになれます」
「リラックスモード〜?」
「入浴中や睡眠中、なんかに装備を解いている時、万が一敵に攻撃されても、リラックスモードではダメージを受けません」
「ふーん。それでリラックスモードのデメリットは?」
いかにもくのいちらしい質問である。
「そうですね……攻撃されてもダメージを受けません。その代わりにこちらからも攻撃はできません。そんなところでしょうか」
「リラックスモードはいつ解除されるの? チェックアウトするまで?」
「解除される時は先程フロントにいた女将から皆様に連絡が入る予定です……ってこれ言っちゃいけないやつでしたっけ……いえ、何でもありません。今の事は忘れて下さい。そ、それでは私はここで失礼させていただきます」
と少し謎めいた発言を残してそそくさと立ち去る機械メイド。それを聞いてくのいちが唇を動かさずに耳元で囁く。
「ねぇ強?」
強は視線をくのいちに向ける。
「もうあたし達、ヒッキーに会っているんじゃない?
「どういう意味だ?」
というジェスチャーの強。
「受付の婆さんが怪しいわ。仕切り方がゲームマスターっぽかったじゃない。この機械メイドの子は婆さんに操られているのよ。後でこっそりフロントに戻って婆さんを倒しちゃえばあたし達の勝ちじゃない?」
強はくのいちの耳元に口を近づけ囁く。
「いや、彼女はヒッキーじゃない」
「どうしてそう言えるの?」
「なぁに、簡単な推理だよワトソン君。語尾に『ござる』をつけていないじゃないか」
「簡単な推理というより、あまりに単純な推理ね」
「このクエストはヒッキーのゲーム構成力が試されている。だから俺達にリラックスモードなんてのを提供してくれるんだろう。同時に俺達がどう突破していくのかも試されているはずだ。勝つなら綺麗に勝ちてえんだよ」
「忍者には無い発想ね。あたしなら背後にそっと近づいてブスリ、なのに」
と囁くくのいち。




