第84話 琢磨と強の一騎打ち
前半戦のフィールドでのゴブリンとの戦いに勝利した四人。後半戦の館へと導かれる。三人の中ボスとラスボスのヒッキーがいるはずだ。しかしその前に館に泊めてもらわなければならない。ミルクの予言した通り、強は南京玉すだれ使いとなって琢磨に勝負を挑む!
余談だがゴブリン退治に命懸けで主人公に着いて行くヒロイン像を作者なりに考えてみた。
このイラストは忘れて話の続きを読んでいただきたい。
一行は宿の入り口を開ける。琢磨が受付の老婆に声をかける。
「こんばんは。四人なんですが今晩一泊、二部屋取れますか?」
「ああ、いらっしゃい。部屋はあるけどウチは前金制だよ。保証金も預かるけどそれでいいかい?」
「保証金?」
と強。くのいちがそれに答える。
「外国のホテルなんかだと、チェックインの際にクレジットカードで保証金を預ける形にして、誓約書にサインさせられて、後で何か問題があった時にその保証金から天引きされる、ってのがあるじゃない」
「外国のホテルってなんか怖えな」
くのいちは手慣れた様子で財布から金色のカードを取り出す。
「これでお願いできるかしら?」
受付の老婆はゴールドカードを一瞥した後でくのいちに突き返す。
「何だいそりゃあ? そんなプラスチックのカード、ここじゃあ何の役にも立ちゃしないよ」
「カードは使えないんですか。じゃ、いいですぅ〜」
強はその場を立ち去ろうとする。琢磨がそれを止める。
「強君、コマーシャルの見過ぎです。ちゃんとした大人になれないですよ」
「カードがダメならキャッシュで払うわ」
くのいちは財布から万札を何枚か見せる。
「そんな紙切れに何の価値があるんだい? ちゃんと払ってくれなきゃ、うちには泊められないよ」
「ここは近未来の異世界空間。決済は暗号資産かデジタル通貨のみなのか? よし、アプリをダウンロードして電子決済の手続きを……ってここは電波の圏外だ!」
と途方に暮れる琢磨。続いて強が爽やかな笑顔を作って老婆に言う。
「俺、面白い芸をやります。気に入ったらタダで泊めてくれますか?」
「ほう、芸かね。じゃあこれを使ってごらん」
老婆はそう言うと南京玉すだれを強に渡す。
「南京玉すだれ、遂にきたかーっ!」
「それを使ってつばめ返しをやってごらん」
「つばめ返しか、心得た」
一同はロビーの広い場所に移動する。周囲には何事かと観客が集まり始める。
「つばめ返しを見せるにはやっぱり標的がなくっちゃな。……そうだ琢磨、やってくれるか?」
「つばめ返しですね。人前で見せる物でも無いですが、強君のリクエストだ。受けましょう」
琢磨が珍しく好戦的な表情で答える。強と琢磨、五メートルくらいの距離で対峙する。
「あと一回強君を縛れるだけの包帯は残してあります」
と琢磨。強、心の中で独白。
「(つばめ返しと言えば、剣豪佐々木小次郎の技の名として有名だ。だがその内容は明らかにされていない。それをここで披露してみせろ、というのが俺へのクエストなんだな)」
強は試しに南京玉すだれを縦に伸ばしてみせる。竹の棒かと思ったが、しなりが利いてムチの様である。
強の独白は続く。
「(俺の推理だと……『返し』という名前が鍵だ。剣術で『返し』と言えば普段とは逆方向に剣を振るう事を意味するはずだ。つまり相手目掛けて剣を振るい、すぐさま逆方向に斬りつける。この時、最初の攻撃が相手の剣に受け止められてしまったら剣を逆方向には動かせない。まずはフェイクで相手に一振り浴びせて、相手がひるんだ瞬間に踏み込んで逆方向に斬る。これが恐らく正解だ)」
琢磨は左前腕の包帯をヘビ使いの様にくねくねと操っている。攻撃をタダで受けるつもりはないらしい。
「琢磨さ〜ん、勝ったら特別なご褒美あげちゃうよ〜♡」
「強、勝ったら納豆タイカレーパンくさやの干物風味おごるからねっ!」
くのいちのやる気を削ぐ声援にメゲずに集中する強。
「( 最初の一太刀は上段から真下へ剣を動かすのはまずい。返し技で真下から真上に剣を動かすのは動作に隙ができるし力も入れにくい。やはり最初は右上段から左下に振り下ろし、返す刀で左下から水平、あるいは右上に斬りつけるのがセオリーか? いや、琢磨も攻撃を仕掛けてくるはずだ。そこを考えねえと……)」
強は縦に伸ばしていた南京玉すだれを一旦縮める。そして琢磨との距離をじりじりと詰めていく。
「(今だ!)」
強は踏み込んで琢磨に足払いをする様に玉すだれで下段の水平斬りを左から右(琢磨にとって右膝から水平に左方向)に振るう。玉すだれは二メートルくらいの竿状の形に変化し琢磨に襲いかかる。
琢磨がジャンプしてそれを交わした瞬間に、左前腕の包帯が生き物の様に強に襲いかかる。と同時に強の竿状の玉すだれが右下(琢磨の左足元)から左斜め上方に斬り上がる。つばめ返しだ。
強の手元に『バシッ』と手応えがある。
「(やった!)」
と強が思った瞬間、琢磨の包帯が強の両足首に絡みつく。強は棒立ちになる。
琢磨は竿状の玉すだれを左脇腹に抱え込む。
「真剣の勝負だとしたら俺の勝ちだろう」
「じゃあこれから真剣な男と男の勝負といきますか」
琢磨が棒立ちの強目掛けて更に包帯を投げる。強の上半身はグルグル巻きにされる。
「卑怯だぞ、琢磨」
「これで君の手足の自由は完全に奪われた」
琢磨は強に近寄り背後から抱きしめる。
「忍法、愛の暴行♡」
琢磨の右手が強の上半身に、左手が下半身に伸びる。
琢磨の所業にくのいちがシュプレヒコールをあげる。
「琢磨、ダメ! それはあたしの専売特許!」
そう言われて琢磨は強に巻かれている包帯を解く。




