第82話 正直者はバカをみない
第45話で、メガネっ子の携帯アーミーに不良達が因縁をつけていた。くのいちは連絡を受け、不良を退治したが、あまりにもあっさりと片付けてしまった為に強の援護は無く、電話での連絡だけだった。小さな事ではあるがくのいちはそれを気にかけていた。
ここまで追い詰められて、くのいちはようやく懺悔を始める。
「……あなたを助けに行かなかったのは私の罪です!」
ミルクの手が止まる。
「なぜそんな事をしたの?」
「あなたに仕返しがしたかった! あなたが憎かった! 琢磨や強の前であなたに恥をかかせたかった!」
「私が憎い?」
「あなたと強がマッタの店の前で親しげに歩いているのがくやしかった。あなたは強に肩を抱かれていた。キスをしようとしているみたいだった。強があなたに取られるんじゃないかと怖かった」
「そんな馬鹿な事って。私はいつだってあなた達二人の事を……」
「あなたにそんなつもりが無くてもダメなんだよ! あなた美人だもの! 日本人離れしているし、うらやましいくらいスタイルもいい。あなたがちょっとその気になれば大抵の男はなびいちゃうんだよ!」
くのいちは涙をボロボロと流しながら顔をくしゃくしゃにして訴える。
「私はそんなあなたが憎くて、失禁でも脱糞でもさせてやろうと思った。それについてはあなたが望むがままの罰を私は受けます。でも例え何度顔の皮を剥がれても、何度この体が燃え尽きても、強だけは絶対に渡さないんだからぁ!!」
くのいちに固定されていた十字架が穏やかに光を放つ。そしてそれは柔らかい綿状の物体へと徐々に変化して消えてゆく。くのいちは拘束から解放され、へなへなと地面に座り込む。多数の光の綿が二人の周囲にゆっくりと降り注ぐ。
ミルクの爪は元に戻り、いつもの穏やかな表情に戻る。コスチュームも元の僧侶のいでたちになる。くのいちの全身の火傷や顔面の傷も元に戻る。ミルクの下半身は何事も無かったかの様に乾いているが、くのいちは濡れたまま。
「浄化モード完了、という訳か」
とようやくソードプリンシパルが喋る。
「あれ、くのちゃ〜ん。私達何していたんだっけ〜?」
とミルクが無邪気に問いかける。
「お、おーいみんな、大丈夫か? 探したぞ。はぁはぁ……」
琢磨とゴブリンのマスクをかぶった強がくのいちとミルクの前に現れる。
強は喘ぎつつふらふらと歩を進め、マスクを外す。
「ゴブリン(コ)ス(プ)レイヤー……只今参上……」
強の盾は半分以上が砕けて殆ど使い物にならなくなっている。鎧もぼろぼろ。片手には琢磨から貰った木刀。それはもう杖の役にしか立たない。
「強く〜ん、だいじょ……」
とミルクが言いかけた時、くのいちが強に駆け寄る。
「強、無事だったんだ!」
くのいちが目を潤ませて強に抱きつこうとする。が、強は両手を前に伸ばして遮る。
「言いにくい話なんだけど、俺はお前達を探して森の中を進んでいる時、急に液体を放出したくなっちまって。そんでその最中にゴブリン共に襲われて……何とか退治したんだが、大量にお漏らししてしまったんだ」
強の防具の太もも周辺がぐっしょりと濡れている。くのいちは半泣き顔であったが、それを見て笑い出す。
「あは、あははは。あんた、おマヌケさんね。カッコ悪い。みんなに言いふらしちゃおうかな……でもちゃんと助けに来てくれたんだ?」
「お前がピンチになったら速攻で助けに行くに決まってんだろ。でも今回は携帯も圏外だったし、ゴブリン達は鋭い剣で武装していたし、琢磨から渡された剣には『お前には使う価値無し』と判定されて木刀になっちまって……。そんなかんなでお前達を見つけるのが遅くなっちまった。ごめんな。危ない思いしてなかったか?」
強のセリフはまるでさっきまでのくのいちの出来事を全部琢磨から説明された様な感じさえも匂わせるが、くのいちはそれには気付かない。
「あれ、あたしの事心配してくれてたんだ。オシッコチビらせているくせに。ははは」
くのいちは笑いながら瞳から涙が溢れる。
「おい、お前、泣いてないか?……」
強がくのいちに手を差し伸べようとすると、くのいちはそのまま強に抱きつく。強も当惑気味にそれを受け止める。
「ありがとね、強、ありがとう」
「お、おう。気にする事じゃないさ」
二人はしばし抱擁するが下半身が濡れたままで抱き合っているところを琢磨とミルクに見られて恥ずかしくなってくる。
「あれ、強、なんか匂うよ」
とおどけた感じで言うくのいち。
「水筒のお茶の匂いって事で。お前、人の事言えないだろ」
「あんた、付き合い良すぎじゃない?」
「分かってんなら何も言うな」




