第79話 電気スタンド使いアニメは助けが来るのが遅い
ミルクがゴブリンに捕らえられた。くのいちや琢磨の剣があればゴブリンなどたやすく倒せるはずだ! ダイブの仮想現実をプログラミングしたヒッキーはそう考えていた。
場面変わって女僧侶のいでたちのミルク。彼女は胴体を木に縛りつけられている。ゴブリン達が彼女を取り囲み脇の下、足の裏、脇腹など体じゅうをくすぐっている。ミルクは辛うじて自由の効く腕を使って携帯電話でくのいちにSOSを送っていたところである。
「あなたに武士の情けがあるのなら、とにかく急いで〜」
電話はここで切れる。それに続いて『今月の電話料金未払いの為、通話はここで終了となります』という音声メッセージが流れる。
「電池切れか〜。なんて不運なの〜! ……な〜んてボケてる場合じゃないよ〜あっははは、あっははは。よ〜し、私の必殺技『叫びの術』をだすわよ〜」
ミルクは息を大きく吸い込んで声を上げる。
「琢磨さ〜ん、助けて〜!」
しかしゴブリンは何事もなかったかの様にミルクをくすぐり続ける。琢磨も来ない。
「私の必殺技がゴブリンには通じない、しまったぁ〜」
じゃあ誰になら通じるんだよ、と思わずツッコミを入れる作者。節陶子とのダイブの時もミルクは必殺技『浮遊の術』を使おうとしていたが、空振りに終わった。現実世界でも呪術師気取りで目をはちまきで覆ったが、棚に頭をぶつけて倒れた。大丈夫かミルク、厨二病は早く治した方がダメージは軽くて済むぞ。
ゴブリンの大群と素手で闘っているくのいちに、髪飾りの手裏剣姿のソードプリンシパルが口を開く。
「お嬢、そろそろ急いだ方が良さそうだぞ」
「それじゃあ、あんたのお手並みを拝見」
彼女はソードプリンシパルを鞘から抜いてゴブリンの大群に斬りかかる。僅か二、三回剣を振るっただけで前方のゴブリン三十匹くらいが倒れ、姿を消す。
くのいちの前方の視界が開け、彼女はミルクを見つける。木に固定されているミルクはゴブリン達にくすぐられている。ミルクは笑い続けている。ここでゴブリン達は立ち位置を整え、くのいちの視界は再び、彼らにさえぎられる。
「ミルクが木に縛られてくすぐられているぞ。どうする、お嬢?」
「数年前に見たアニメにこんな話があったわ。ヒーリング能力のある清楚な女僧侶がゴブリン達に襲われて、恐怖のあまり彼女はお漏らしをしてしまうの。するとその匂いを嗅ぎつけたゴブリン(コ)ス(プ)レイヤーさんが駆けつけて助けてくれるのよ」
「各方面から苦情が来そうな話だな。ただでさえこの作品はパクリが多いのに」
「ストーリー的に、ミルクが失禁しちゃう方向でいいんじゃないかな」
「ヒロインのミルクが失禁か? そんなのギリギリアウトだぞ、お嬢」
「パクリと言われそうな時は『これはオマージュです』とか言えば大抵はなんとかなるわ」
「ミルクはもうヤバいだろう。あいつはさっきトンカツの『丼旧』でお茶のお代わり結構していたよな。パンケーキの『ドタン!ゴットン!』でもコーヒー結構飲んでいただろう? カフェインはオシッコを出やすくするんだぞ」
一方、強と琢磨。数百のゴブリンに囲まれている。二人とも防具とバックパックと水筒を装備している。
琢磨は懐からボールペンを取り出し、頭上に掲げて大きな剣を構える。
「よ、ようし。俺もアイテムを装備しなくちゃな」
強は股間をまさぐりカップを取り出し、頭上に掲げ、
「股間クリスタルマジック、ウェーイクアーップ!」
と叫ぶ。
『♫今は〜僕はまだ〜小さいけれど〜いつか大きくなって〜地球を守るよ〜』
とテーマソングが流れる。彼は光に包まれ盾の勇者となる。
「大事な所はこのカップが守る! 盾の戦士剛力強、只今見参!」
そう言い放ちキメポーズを取る強。
そうこうしている間にもゴブリン達は次から次へと剣を手に二人に襲いかかっている。琢磨は包帯を操り、ゴブリン達を縛りあげたり放り投げたりして闘っている。
「強君、キメポーズはそれぐらいにして、ゴブリンと闘って下さい!」
「変身して名乗りをあげている間は、敵は襲ってこないはずだろう?」
「現実をちゃんと見て下さい。蒙古襲来の時は名乗りをあげている間にやられてしまった武将も多いと聞きます!」
「琢磨ってインテリだなぁ」
「僕の剣を使って下さい!」
琢磨は二メートルはあろうかという剣を強に投げる。それを受け取り鞘を抜く強。
「『最優秀賞』って書いてあるぞ。なんだこれ?」
突然、琢磨の剣が喋り出す。
「あなた様はその剣の本来の所有者ではない様ですね。あなた様がその剣にふさわしい人物であるかどうかテストさせていただきます」
「テスト? 上等じゃねえか。この剣がケンカ十段の俺様にふさわしいかどうか、こっちがテストしてやらあ!」
「強君ってキメる時はキメるんですね。かっこいい!」
「では簡単な算数の問題です」
「何でも来い!」
琢磨の剣に『2+3x2=』という式が表示される。
「この答えはいくつですか?」
「俺の苦手な七の段が無いじゃねえか。楽勝だ。答えは十だ!」
ドヤ顔の強。しかし琢磨の『最優秀賞』と刻まれた剣の刻印は『使う価値無し』という文字に変わり剣はただの木刀になる。
「こ、これくらいのハンデが俺様には丁度いい。まとめて相手してやるぜ!」
「飽くまで前向きな強君を僕は見直しました! この剣は一旦変形すると当分は元には戻せないのですが頑張って下さい!」
と琢磨。
場面再びゴブリン達と闘うくのいちとソードプリンシパル。
「おいお嬢、俺様をもっと使え。そろそろミルクがやばそうだ」
「あと少しだから、素手で楽勝よ」
ゴブリンをボカスカと倒しながらくのいちはミルクが縛られている木の方に進んでいく。ゴブリンにくすぐられているミルクの前に遂にくのいちが姿を現す。
「お待たせ♡」
彼女がソードプリンシパルを鞘から抜き、剣を振るうと辺りに居たゴブリンは全員倒れ、姿を消す。
「今自由にしてあげるからね」
彼女がもう一振りするとミルクの縄がはらりと落ちる。ミルクはへなへなと座り込む。
「助かったでしょ?」
「……でも間に合わなかった……」




