第78話 ミルクからの謎の電話
数百匹のゴブリンと戦う事となった琢磨と強。一方、彼らと離れてしまったくのいちとミルクも別の数百匹のゴブリンに囲まれていた。素手でのバトルを始めたくのいちにミルクから不可思議な電話が入る。
「そんで、これどうするのよ?」
くのいちとミルクは数百匹のゴブリンに囲まれている。彼らはやはり口々に『ゴブリン、ゴブリン』と言葉を発して、全員剣を手にしている。
「琢磨さんと強君は〜?」
「見当たらない。取り敢えずあたし達でやるしか無いか」
くのいちは髪飾りの手裏剣を外し頭上でクルクルと回す。手裏剣は剣に変化する。くのいちは鞘から剣を抜いて構える。
ミルクもゴールドの鎖のペンライトのペンダントを頭上で回して、電気スタンドに変化させ構える。
「どうする、お嬢。敵は五百前後だ。全員叩き斬っちまうか」
「あんたがその気ならあたしはやるけど、浄化モードは使えないの?」
「奴らが根性の曲がった邪悪な存在ならば作動できるはずだが……」
と、次の瞬間ゴブリン達は全員手にしていた剣を彼方に投げ捨て、ファイティングポーズを取る。
「なるほど、面白いわね」
そう言ってくのいちはソードプリンシパルを鞘に戻し、頭上でクルクルと回す。校長の剣は元の手裏剣に戻り、彼女はそれを髪に装着する。
「お嬢、どうする気だ?」
「丸腰の敵と剣で戦う訳にはいかないわ。ここはヒッキーの精神世界。彼は素手での勝負を挑んでいるのよ。格ゲーの全国大会優勝者が考えつきそうな設定ね。
そう言ってくのいちは金属製の鎧も脱ぎ捨てる。ニセ乳は本来のサイズとなる。
ミルク、シールドの準備はいい?」
ミルクは電気スタンドを地面に立てて持ち、瞳を閉じて呪文を唱える。
「私は知っている。この世界には邪悪な者と正しき者を隔てる壁がある事を。私は知っている。壁の建設費用はメキシコ東日本の人が払ってくれるだろうという事を……シールド!!」
ゴブリンの内1人がミルクに向かって突進する。が、その瞬間ミルクを守るように半球状の透明な壁が現れ、ゴブリンはそこに叩きつけられる。
「じゃあこっちも始めるわよ!」
くのいちはゴブリンの群れに突進する。
ゴブリン達は脚をコマのように回して蹴ってきたり、掌から波動を出して攻撃してきたり、パンチやキックが二倍くらいの長さに伸びる技を使ったりしている。くのいちはジャンプや防御でかわし、的確に拳や蹴りを入れて倒していく。身長百五十センチに満たないゴブリン達からは、くのいちは頭ひとつ分以上抜き出ている。
「もっとあたしと遊んで欲しいの? 坊やたち?」
くのいちが少しサディスティックに笑顔を作る。
ミルクはくのいちがボカスカとゴブリン達を倒していくのをシールドの中から見守っている。落ち着いたせいか、ミルクはいつものおっとりした口調に戻る。
「琢磨さんと強君に連絡しなくちゃ〜」
ミルクは携帯を操作するが『通話先が圏外ですわ』と表示される。
「繋がらないか〜。でもこの調子だと〜あと二、三十分で倒し終わっちゃうね〜。くのちゃんが戻ってきたら肩でも揉んであげよ〜」
ミルクがすっかりリラックスしていると、シールド内のミルクの背後の地面に穴が広がり始める。ミルクはそれには気づかない。穴は直径六十センチくらいになるとそこからゴブリンの腕が伸びる。腕はミルクの背後に伸び胴を掴む。
「えっ?」
ミルクはゴブリンの腕と共に穴の中に引きずり込まれ、姿を消す。
それから約十分後。くのいちは相変わらずゴブリン達と素手での格闘を続けている。そこにくのいちの携帯が鳴る。
「ちょっと待ってよ〜」
ゴブリンを倒しながら携帯の応答ボタンを押すくのいち。すると、
「あっははははは、あは、あは、くーっくっくっく!」
と声がして電話は『圏外』と表示され切れる。
くのいちはちょっと薄気味悪い感情に囚われる。
「こんな時にイタ電?」
くのいちはゴブリン達のパンチやキックをかわしながらしばし考える。
「今の笑い声は……ミルク? あの子とうとう頭がイカれちゃったの? 胸のデカい女はバカが多いって世間では言うけど……」
なおもゴブリンとの戦闘を続けるくのいち。そこに再び携帯が鳴る。発信元を確認すると、やはりミルクである。くのいちは応答ボタンを押す。
「ミルク、大丈夫なの? メンタルとか?」
「あーっはっはっはー。緊急事態〜早く来て〜」
「緊急事態っていう割には緊迫感がないんだけど。ミルク、もしかして毒キノコでも食べたの?」
「ひーっひっひっひっ……ピンチなの……女の子的に〜」
くのいちは少し意地悪そうにニヤリとする。
「女の子的に? もしかしてゴブリン達の慰み物になっているとか? ……だったらあたし今、たてこんでいるから、もう少し経ってから行くね」
くのいちは幾分やる気が無さそうな口調である。
「あなたに武士の情けがあるのなら、とにかく急いで〜」
ミルクからの電話はここで再び切れる。




