第77話 黄色は注意、赤は止まれ。白は?
ダイブの仮想現実のプログラムをしたヒッキーによると、「前半はフィールドでのザコキャラとの戦い。後半は館内で中ボス三人とラスボスのヒッキーが相手」との事だった。いよいよ前半戦のメインイベントが幕を開けるのか?
琢磨が再び彼方を指差す。
「あ、くのいちさん、見て下さい。向こうに突然道の駅、常陸大宮が見えてきました!」
「最初から造っておくべきよね。高級ホテルとデニーズランドもセットで」
「お前、贅沢だよな。茨城県北部出身の俺には、この道の駅常陸大宮が最高のアミューズメントだったぞ」
「道の駅だけじゃなくて、たまには滝とか水族館とかかみね公園とかバンジージャンプにも行ってください。ビーチもきれいですよ、強君」
となぜか北茨城の良いところをアピールする琢磨。
一同、道の駅常陸大宮の建物の前。入口ではスーツを着たダンディーな門番が二人、ドアの前に立っている。
「いらっしゃいませだっぺ。道の駅にようこそだっぺ」
強はウィンクして横ピースサインをしながら可愛らしく『だっぺなぁ〜』と言う。
「どうぞ入るっぺ」
彼らはドアを開け脇に退く。
「なにそれ、原住民のあいさつ?」
「茨城土着民の秘密の合言葉なんだ」
くのいちの髪飾りの手裏剣に潜んでいるソードプリンシパルが口を開く。
「お嬢、ここでいいのか?」
「お腹空いた。喉も渇いたし他にないでしょ。」
一同、ドアを通り中に入る。トイレを見つけるとくのいちが言う。
「今度はダッシュしちゃダメ。ゆっくり入るのよ」
「ここでまたダッシュしてトイレが崩壊、とかなったら話の収拾がつかなくなりそうだな」
数分後、トイレから出てくる一行。
「一行はトイレで思う存分液体を放出したのであった」
とナレーションが流れる。
「このナレーション、邪魔よね。いつか闇に葬らないと」
「そうかな〜? 私は面白いから割と好きだよ〜。よ〜しっ!」
ミルクが声をあげる。
「切磋琢磨は色のついた液体も密かに放出したのであった〜っ!」
「ミルクちゃん、やめて。ここでまた『面白いから採用! なのであった』なんて事になると僕の社会生活が崩壊する。『濃厚な一夜』だって良い子の視聴者を誤魔化す為に苦労したんだからね」
「そっか〜ごめんなさ〜い。でも琢磨さんなら〜また上手く切り抜けるんじゃな〜い?」
と無責任な事を言うミルク。
「血尿が出てしまい泌尿器科に受診する、という事にします」
「そうしたらクエストはここで中断だね〜。黄色は注意、赤は止まれ、白は行け、だね〜」
「ミルク、交通ルールを勝手に変えるな。お巡りさんに『めっ』されるぞ」
四人は道の駅のショッピングモールの様な建物内を歩く。くのいちはレストラン街に目が行く。
「あ、やまと豚ヒレカツ定食のお店『丼旧』発見! 食べよ食べよ!」
「異議なーし」
四人は丼旧でやまと豚ヒレカツ定食を食べる。
「このお店はキャベツとご飯、お新香もお代わり自由なんだな。すげえな」
「このお店の〜カキフライ定食も〜美味しいんだよ〜」
「御新香とお茶のお代わりをお願いします」
「琢磨、なんかジジくさいな」
「私もご飯とお茶をもらおうかな〜」
「労働の後の食事は美味しいね」
四人は店を出て再びレストラン街を歩く。
「あ、ふわふわパンケーキのお店『ドタン!ゴットン!』発見! 食べよ食べよ!」
「異議なーし」
四人はふわふわパンケーキを食べる。コーヒーも運ばれてくる。
「どうしてこんなにふわふわで厚みのあるパンケーキが作れるんでしょう?」
「細かいレシピは企業秘密だと思うけど〜牛乳と卵を室温に戻してから作るのがコツなんだよ〜。あと、粉を混ぜる時こねすぎないのも大事なの〜。フライパンの温度にもコツがあるよ〜。全体を熱してから一旦濡れふきんで……」
「人間、何かしら特技はあるのね」
「パンケーキにコーヒーって〜合うよね〜。お代わりしちゃお〜」
一同、レストランを出て土産物屋に通りかかる。キャラクターのお面グッズが多数売られている。ドナルドトランプ氏の仮面に目が行き、強は試着して演説を始める。
「皆さん、再びこの国を素晴らしいものにしましょう! 私は大茨城帝国と栃木の間に壁を建設する。費用はメキシコ東日本に負担させる!」
「強君のクラスメートにも熱心な信者がいましたよね。確か金髪ポニテの女の子」
「俺と同じバレエ同好会のアリス・ワンダだろ。『トランプさんは労働者の味方♡』とか言っていたな」
「お、トランプさんの顔がデザインされているトランプもある。話のネタに買っていこう」
くのいちはそれには興味が無さそう。
「あたし達は他のお店を見て来るから。また後でLINEちょうだい。ねえミルク、コスメコーナーチェックしようよ」
「女の子同士でウインドウショッピングなんて〜初めてかもね〜」
「分かりました。女性陣だけでごゆっくり」
琢磨と強はキャラクター仮面グッズショップに残り、くのいち、ミルクと別れる。
強は今度はゴブリンの仮面に目が行く。
「これ、面白くねえか?」
強は試着して鏡を覗きこむ。
「お似合いですよ、強君」
「いいんだけど、このゴブリン、ちょっと老けて見えるなあ?」
「そんな事はありません。強君にぴったりです。年齢相応ですし」
「そうかなぁ?」
「ゴブリンは日本語では『小鬼』、強君も高二じゃないですか」
「そういうインテリ感溢れるダジャレはよしてくれ。小学生の俺にも分かる冗談限定な」
「僕もゴブリンの仮面買います。強君とお揃いですね」
強と琢磨はゴブリンの仮面を手にしてレジに向かう。レジの係員もゴブリンの仮面を被っている。二人は品物を受け取る。
「ありがとうございました」
「さてと、女性陣を探すとしましょうか」
琢磨と強は店の前の通路を進む。様々な年齢の客が歩いている。中にはゴブリンの仮面を被った人もチラホラ見られる。
「あの仮面、結構売れてんだな」
「店員さんも被っていましたもんね」
二人が更に通路を進むに連れて徐々にゴブリンの仮面の通行人の割合が増えてくる。
「あれ、おかしいなぁ。さっきまではこんなにゴブリンいなかったのに」
「女性陣も見当たりませんね。LINEで連絡してみましょう」
強と琢磨はコスメコーナーに向かう。強が琢磨の携帯を覗きこむと、画面には『圏外』と表示される。
「やべえ!」
「県外ってことは茨城県を離れて栃木県内に侵入してしまった訳ですか?」
「バカ言ってないで周りを見ろ!」
辺りを見回すと施設内の客は全てゴブリンになっている。それを掻き分け、強は出口のドアを蹴倒す。
施設の外は数百匹はいると思われるゴブリンで埋め尽くされている。さっきまであった道の駅の建物は蹴倒したドア一枚を残して消え失せ、周囲の景色も変わっている。
「俺たちは空間転位を喰らったみたいだ。くそッ! ミルク、くのいち、何処だ!」
返事はない。強と琢磨はゴブリンに取り囲まれている。彼らは『ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン』と呪文のように言葉を発しながら剣を構えている。




