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ガーディアンデビルズ〜学園治安維持の会〜  作者: トミロン
第2部 天才ゲーマー&プログラマー比企新斗(ひきにいと)編
74/243

第74話 ミルク、亜空間へ吸い込まれる

 ナレーション機能はストーリー進行に都合が良い。主人公が毒殺されそうになっても、「実は剛力強は、そんな事もあろうかと、あらかじめ解毒薬を服用していたのであった」とか言わせておけば、なんの伏線も張らずとも、ストーリーの都合の悪い点を誤魔化せるのだ!

「おいお前達、一旦武器はしまえ。ただし敵が現れたらいつでも装備できる様にしておけ」

 とくのいちの剣が言う。

「わかりました〜お父さん〜」

「今は俺様はソードプリンシパルだ。ダイブ中はそう呼んでくれ」

「分かりました校長先生」

 とくのいち。

「ダイブ中はセクハラトーク全開でもPTAは文句言えないので絶好のガス抜きですね」

「琢磨、あまり俺様の心を見透かす様な発言は慎め」


 くのいちはソードプリンシパルを天高く掲げクルクルと回す。するとそれは元の手裏剣に戻る。琢磨も剣をボールペンに戻す。ミルクの電気スタンドは金の鎖のペンライト、強の盾はバレエ着のカップに戻る。各々アイテムを首、懐、髪に収める。強はアイテムを股間に収める。


 強、琢磨、くのいち、ミルクは道具屋を出て森の中を進む。森の中の道には『順路→byヒッキー』と書かれた立て札。くのいちとミルクはピンク色のスーツケースを引いている。


「くのちゃんのスーツケース、オシャレだね〜」

「このスーツケースはストッパー付きなんだよ。電車に乗っていてもケースがどっかに動いていかない様になってるの。収納も何か所にも分かれているから荷物がばらけないんだ」


「冒険ファンタジー物のアニメだと〜、ヒロインが露出の多いファッションで手ぶらで『私、一人旅をしているんです』なんて言って山の中を歩いて行ったりするけど〜、あれは無いよね〜」

「確かにあれは無理があるわ。旅先で着替えや入浴セット一式、スキンケア用品もゲット出来そうもないのに、旅だなんて。最低限の水や食料も持ってなさそうだし。死亡フラグね」


「冒険者達のチーム(パーティー)が〜洞穴とかダンジョンを探索して何日もさまよう、なんていう設定もあるよね〜」

「洞穴で排泄して、何日も入浴も着替えもできず、ひたすらお宝やモンスターを探す、なんてさぞ臭いクエストになるわよね」


 四人の進む道は次第に傾斜が急になってくる。やはり『順路→』と書かれた立て札。ここでナレーションが入る。

「一行は険しい峠を超えていくのであった」


 峠を苦心して進む四人。再びナレーションが入る。

挿絵(By みてみん)

「そして一行は橋を渡り、即席のイカダを作り、川を下っていくのであった」


 四人はナレーションのままに吊り橋を渡り、イカダで急流を下る。またもやナレーション。

「更に一行はオアシスを目指してサハラ砂漠を横断するのであった」

挿絵(By みてみん)

 ラクダに乗って砂漠を横断していた四人がシュプレヒコールをあげる。

「ちょっと待って! なんでサハラ砂漠なのよ?」

「内戦にでも介入するつもりですか?」

「おいナレーター、お前おかしいだろ?」

「ナレーターに話かけても無駄なのであった」


「取り敢えず、砂漠は無しでしょ!」

「しゃーないのう……一行はやっぱり野原を進む事にしたのであった」

 四人は再び徒歩で野原を進む。


「ちゃんと野原を進んでる〜! ナレーターって凄〜い。『のであった』って言えば何でも言った事を実現できるんじゃな〜い?」

「そんな馬鹿な話あるわけないだろ」

「物は試しだよ〜。よ〜し!」

 ミルクは深く息を吸い込んでから天に向かって大きな声で叫ぶ。

「切磋琢磨と〜森野ミルクは〜濃厚な一夜を〜共にするのであった〜!」

挿絵(By みてみん)

 十秒くらい経っても何も起こらない。

「何変な事言ってるの、ミルク。訳のわからない願い事はしないで。話の収拾がつかなくなるわ」


 そこに『ピンポーン』とチャイムの音が鳴る。

「面白いから採用〜! なのであった!」

 ミルクの姿がシュンと消え去る。

「ミルクちゃん!」

 残された琢磨、強、くのいちは呆然と立ち尽くす。くのいちの髪飾りの手裏剣が喋り出す。ソードプリンシパルの声だ。

「クックック。どうやら冒険が始まったみたいだな。俺様から離れるなよ、お嬢」

「わかったわ割井校長」

「ソードプリンシパルと呼んでくれ」


 ミルクは『キャー』と声を上げながら亜空間のトンネルの中を滑っていく。その声だけが残された三人には聞こえる。

「ミルクちゃんの悲鳴だ。何とかして助けないと」


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― 新着の感想 ―
ミルクちゃんの絹を裂くかのような悲鳴が定番の幕切れで、続きがとても楽しみになり展開でした。ナレーションの破壊力も素晴らしかったです。今回もとても面白かったのであった。
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