第72話 男のコスチュームはあまりにもすんなりと決定
くのいちの防具選びは甲冑、女僧侶と二転三転し、刃傷沙汰まで引き起こすが、琢磨と強の衣装については描写すらされない。やはりくのいちがいないと、このお話はただのお通夜進行となってしまうのか? しかしお通夜進行の中にも伏線は張られてはいる。
「じゃあここは心機一転して、お前も女僧侶の装備にしたらどうだ?」
「あ、あたしは戦士として闘う必要があるから……」
「お前の女僧侶姿、ちょっと興味あるぞ」
「え、そうなの?」
「くのちゃ〜ん、女僧侶の装備ならもう一着あるよ〜。試着しよ〜」
ミルクはくのいちを引っ張って更衣室に姿を消す。
程なくして二人は戻って来る。くのいちは確かに女僧侶の格好だが、ワイルドな面が強調されるいでたちで、寺院の入り口で門番をしている怖い人の様である。何故かナギナタを持っていて背中に敵から奪った様な種々雑多な刀を多数装備している。強と琢磨、しばし絶句する。
「くのいち、お前のその格好……」
「何よ、文句ある?」
「文句は無いのですが存在そのものがモンク(男の僧侶)なんですけど……」
くのいちは琢磨の言ったモンクのダジャレを理解できず、激高する。
「あたしの存在が文句だって言うの! 琢磨、いくらあんたでも許さないわよ!」
くのいちはそう言うが早いか、ナギナタで琢磨の膝の辺りを斬りつける。琢磨はひょいと飛び跳ねてそれをかわす。くのいちは更に斬りつけるが、琢磨はバク転をしたり、テーブルからカウンターに飛び移ったりで攻撃を全てかわす。
「うきーっ!! おとなしくナギナタのサビとなりなさい!!」
「モンクの叫びですね。叫ぶ時は手のひらを立てて口の両側に添えるといいですよ。でも『うきーっ!』だとモンキーの叫びになっちゃいます」
琢磨は横笛を取り出して曲を演奏し始める。
〽︎京の五条の橋の上〜 大の男の弁慶が〜 長い薙刀振り上げて〜 牛若目掛けて斬り掛かる〜
「さあ、源氏のために力を合わせて闘いましょう」
曲に反応して、強の体が勝手に踊り始める。
「牛若丸かーっ! ネタがジジ臭くて読者がついていけないわよ!」
「いや、お前は弁慶だから」
踊りながらツッコむ強。
琢磨への攻撃は全く当たりそうにない。くのいちは諦めの表情。
「琢磨、もしかしてこの前あたしがあんたに納豆タイカレーパンくさやの干物風味を食べさせた事を根に持ってない? だとしたらごめんね。今度ちゅくばのリヨンドリヨンの美味しいランチご馳走するから」
と懐柔にかかるくのいち。
「くのいちさんはいつも強君と遊んでいるから、最近強君が僕と遊んでくれない気がして」
「あたしが強と琢磨のふれあいを邪魔していたのね……」
取り敢えずこの場はこれで収まる。
だが強はその刹那、くのいちのかすかなつぶやきを耳にする。
「(奴はクリア直前に始末すればいっか)」
「(やばい。くのいちは金が絡むと人格が変わる!)」
と強。
「くのちゃんには〜機能とファッション性を兼ね備えた装備を私が用意するから〜機嫌直して〜」
ミルクとくのいちが更衣室に姿を消す。
暫くして二人が戻ってくる。くのいちの防具はバストがDカップはあろうかというちょっとセクシーなデザイン。
「こんなサイズしか無かったから〜これで我慢してね〜」
「この前ヒッキーとあたしでダイブした時は、あたしにピッタリの防具があったじゃない!」
「あれはクリーニングに出しちゃったから〜今は無いのよ〜」
第20話のくのいち。これはクリーニング中だよ〜(多分嘘)
「防具ってクリーニングに出すものなの? どこのクリーニング屋? 何月何日の何時何分に出したの? クリーニングの預かり証は持っているの?」
「また〜。くのちゃんったら小学生みたいな事言って〜。でも強君は喜んでいるみたいだよ〜」
くのいちがふと強の方を見ると、彼はくのいちの胸の辺りを見ている。
くのいちは胸を両手で覆う。少し顔を赤らめる。
「何ジロジロ見てるのよ! そんなに珍しい?」
「いや、何か違う女の人かと思っちまって……」
「この防具の下には〜丈の短いタンクトップを着せてあるんだよ〜。その下には〜パッド入りのDカップのブラ〜。こうするとこの防具のフィット感抜群でしょ〜? 寄せて上げたから、ちゃんと谷間らしき物も作れたよ〜」
「あたしの舞台裏をさらさないで!」
ミルクはくのいちの耳元で囁く。
「偽物と分かっていても〜男の子は惹かれちゃうものなんだよ〜」
くのいちはうつむき加減に小さくうなづく。
琢磨と強は防具を選び装備する。男の装備は葛藤も無くさっさと済んでしまいなんか味気ない。
ふいにミルクが琢磨に耳打ちする。
「本当は、別の法衣もあったんだよ〜」
そう言って写メを琢磨にそっと見せる。
「ミ、ミルクちゃんちょっとそれは……」
思わず赤面する琢磨。
ミルクは写メをさっと隠す。
「あっ、もう一回見せて」
「ご褒美はまたその内ね〜」




