第71話 ビキニスタイルの女剣士など若者の妄想に過ぎぬのか?
曲線を多く取り入れた車や建物、フロントは豪華なのに客室は狭いホテル、雰囲気はオシャレだけど味は今一歩で料金の高いレストラン。ここで男が「コスパが悪い」とでも言おうものなら「夢が無い、ケチ臭い」と女性は思ってしまうのか? いや、それは作者の元嫁だけの話か?
ダイブ当日。学校の一室。入り口には、
『SF研出張所』
『関係者以外立入禁止』
の文字。室内にはカプセル状のベッドが並んでいる。
四つの白いカプセルにはそれぞれ強、くのいち、ミルク、琢磨が入っている。
黒いカプセルにはヒッキー。例によって全員、頭には脳波測定用の帽子の様な物が被せられ、そこから左右対称に多数のコードが伸びている。
くのいちとミルクはカプセル内でスーツケースを抱えている。ミルクの首にはゴールドの鎖にペンライトの着いたネックレス。
強、くのいち、ミルク、琢磨の四人の精神は仮想現実の世界に転送される。
今回のダイブでは黒いカプセルに入ったヒッキーの精神世界が構築され、そこをヒッキーと白いカプセルに入った四人が探検するのだ。ヒッキーが今回の仮想世界の『あるじ』なのだ。
ちなみに最初は全員制服を着ている。
「いらっしゃ〜い」
道具屋のカウンターでミルクが強、くのいち、琢磨を出迎える。強、琢磨はバックパックに水筒。くのいちとミルクはスーツケースを手にしている。
「女性陣はツーリストか」
「当たり前でしょ。今回のクエストは最長で七十二時間、つまり二泊三日の旅行になる可能性があるんだからね」
豊かな胸に十字架の金色のネックレスがかかっているミルクが琢磨の方を見る。
「琢磨さんと強君は〜着替えとか大丈夫〜?」
「俺は何とかするわ」
と強。
琢磨は左前腕にはいつも通りグルグル巻きの包帯。左指には指輪をはめている。ミルクはそれに気付き彼の手を取り、指輪に『V Alarm 』と刻まれているのを確認する。前回のダイブでは、琢磨と節陶子が激しくキスをした際、琢磨の指輪は赤く輝き『浄化モード』が発動され、二人が一線を超えてしまうのは阻止された。しかしその後陶子は悪夢にうなされる体質に苦しんでいる。
泥棒ネコの陶子の幻影を追い払う様にミルクは小声でささやく。
「琢磨さんの下着の替えは〜、一応持ってきましたから〜」
「それ、強君に着せちゃダメ?」
琢磨に軽く肘鉄を喰らわすミルク。ミルク。
「みんな〜まずは防具を選んでね〜」
四人は防具が陳列されている部屋に入る。
「私のはこれでいいかな〜?」
ミルクが選んだのはかなり露出度の高いビキニスタイルの防具。そのトップスを手に取って胸に当ててみせる。
「これだと動き易くていいよね〜。琢磨さん、どう思う〜?」
強が琢磨に『おい、止めろ』と耳打ちする。
「ミルクちゃん、素敵なコスチュームだけど君はヒーリング担当の女僧侶だ。それにふさわしい装備がいいんじゃないかな?」
「そうなの〜?」
強が琢磨に更に耳打ちする。琢磨はそれにうなづく。
「君のそんな格好を他の男たちに見られたくないんだ」
棒読みの琢磨。しかしミルクはにっこりと微笑む。
「そっか〜。じゃあ私は清楚な女僧侶にするね〜」
ミルクは違う防具を手に更衣室に姿を消す。
くのいちと強はしばし向き合う。
「ねぇ強、あたしはどんなファッションがいいかなぁ?」
「ファッションってなあ……そうだ、防具の隙間から敵の攻撃が刺さらないタイプがいい。顔面も保護できるやつもおすすめだ。俺が選んでやろう」
数分後、清楚な女僧侶のミルクが現れる。
一方でフルフェイスのマスクと甲冑を装備した戦士も姿を現す。くのいちだ。
「わぁ〜くのちゃん〜強そうだね〜」
「モガモガモボ……」
くのいちはマスクのせいで声が周りに伝わりにくい。
「今から百年くらい前、日本で『モガ(モダンガール)』『モボ(モダンボーイ)』って言われるファッションが流行ったよね〜」
と読者を置いてけぼりにするミルク。
くのいちはフルフェイスのマスクを脱ぎ捨てる。
「あたし、帰る」
「どうした、くのいち」
「この防具、あたしに合わない」
「くのいち、お前は戦闘担当の女剣士だ。ふさわしい装備じゃないか。おまけに他の男に肌をさらされる事もない。機能的には完璧だ」
「機能とファッションは得てして両立しないものなのよ!」




