第69話 チョコの裸は三百万円(自称)
強、くのいち、ミルク、琢磨、の四人とダイブの仮想現実の世界で対戦する事になったヒッキー。1ヶ月間で彼は仮想現実のプログラミングを組み上げる。ヒッキーのユーキューブビデオで協力したチョコはヒッキーからプログラミングの片鱗を聞いていた。
先日の強とミルクの抱擁&キス(とくのいちは思っている)を目撃した件で、もしまだミルクを恨んでいるのならば、くのいちはそれを忘れた方がいい。だけど強が何か弁解をしたとして、それで彼女は納得するのだろうか?
強は『なんか変な事にならなきゃいいが』と思いながら口を挟む。
「校長先生はどうして俺がその訳の分からない任務を快く引き受けると思うんですか?」
「今回のダイブで比企君には仮想現実世界のプログラミングやゲーム構成も協力してもらっている。格ゲーマニアの彼が生み出すキャラクターと戦ってみたくはないかね? 彼は君を倒す気満々らしいぞ」
「ダイブして異世界でバトルか。悪くないかもな。お手当は期待していいんですね」
「その辺はメドがついておる。どうかね、久野君の方は? やってくれるかね?」
「報酬の額は能力の証。強には負けないわよ」
「今日はこれで以上だ。ダイブは一ヶ月後に行う。リアルでは二時間だが、ダイブの世界では最長七十二時間のクエストに感じるのでそれなりの準備をお願いしたい」
「だけど、ヒッキーの奴最近変わったよな。前はただの引きこもりで学校にもなかなか来られなかったのに」
「あははは〜不思議だね〜どうしたんだろ〜?」
とぎこちなく笑うミルク。
強の頭の中にミルクのクッキーの血の匂いが漂っていた。
一同、ガーディアンデビルズの部室から退場する。残ったのは校長と琢磨のみ。
「琢磨君、ちょっと」
「なんでしょう、校長?」
「申し訳無いが、君もダイブしてくれ。何か収拾がつかない事態になったら全員ふん縛って戻ってきて欲しい」
「保護者役ですね。了解しました」
今回のヒッキーの世界でのダイブをプログラムするにあたり、割井校長とヒッキーの間ではこんな会話が交わされていた。
「比企君。剛力強と久野一恵を倒せ。それがeスポーツ部設立の条件だ」
面食らうヒッキー。
「校長。それはいくらなんでも無理ゲーでござる」
「無理ゲーかどうかは君次第だ。ダイブの仮想現実で戦って勝てばいいのだよ」
「それが学校側に何のメリットがあるのでござるか?」
「いい質問だ。ズバリ、君のプログラム能力、ゲームバランスなどの構成力、攻略のテクニックなどを見たいのだよ」
「拙者にもダイブの仮想現実のプログラムに協力しろと」
「その通り。君が凄腕プログラマーなのはこちらでも調べがついている」
「拙者の家の仕事もご存知なのでござるな、校長先生」
「君の家の会社がスマホゲームでヒットを飛ばしているのは知っているよ。次はキャラクター重視の大きなプロジェクトになるそうじゃないか」
「強やくのいちに普通に勝つだけではダメなのでござるな。内容が大切だと」
「そうだな。彼らの友情が深まる演出は欲しいところだ。君は自分のステータスが不利な状況でも、強やくのいちを倒せる腕前を見せて欲しい」
「めちゃくちゃやりがいのある仕事でござる。承知つかまつった」
その後一か月は何事もなく過ぎていたが、ヒッキーとミルクがSF研出張所に出入りするのが何度か見られた。
ダイブの前日、強がいつもの様に自転車を校舎の入り口に停め、下駄箱を開けるとピンク色の封筒が入っている。宛名欄には、
『つよしくんへ』
の文字。それをポケットに突っ込み、IDをかざして男子トイレの個室に入る強。
封筒を開けると、
『大切な話があるの。今日の放課後、必ず部室に来て。チョコより』
と書かれている。トイレに腰掛けチョコにコールする強。
「またお電話くれたのね。嬉しいわダーリン」
とチョコの声。
「大切な話って何だ? お前の裸でも拝めるとか?」
と軽口を叩く強。
「あたしの裸は三百万円以上の価値はあるから、そこまで大切な話じゃないかも」
と謎めいた事を言うチョコ。
「明日のダイブの件なんだな」
「ビンゴだよ、強。明日のダイブに関して、ヒッキーがあんたと琢磨とくのいちとミルクの四人に説明したい事があるんだって」
「お前は来てくれないのか?」
「あたしもあんたのそばにいたい。でもムリ」
「何故だ?」
「あたしは明日のあんた達のクエストについて、ヒッキーからかなり情報をゲットしちゃったの。余り詳しい情報をあんたに流すのはルール違反になるわ」
「やけに厳しいんだな、お前」
「ヒッキーのユーキューブビデオの収益にはあたしも一枚かんでいる。今後のeスポーツ部の設立も場合によっては金が動く。その辺を理解して、強」
「エグいクエストになるのか?」
「さあ……でもあんた達四人が協力すれば普通にクリアできると思うよ。ただ一つだけ……これはインサイダー情報ギリギリかもしれないんだけど……」
「何だよ?」
固唾を呑んで聞き入る強。
「……くのいちには気をつけてね」
ここで通話は切れる。チョコがくのいちを評する口ぶりは、まるで、
『やっぱくのいちは問題がある。いつかあたしが倒さねば』
とでも思っているかの様でもある。それが現実世界の事なのかダイブでのイベントなのかはわからないが。それについては今回(第二部)の長いエピソードが終了した後、第三部で語られる事になる。




