第68話 格ゲー大学附属高校は東横線の急行が停車する
ダイブの世界でヒッキーを倒すにはくのいちと強がいれば十分な筈。しかしくのいちはミルクにも参加を促す。「いや〜ん。私、そういうの苦手だから〜」とか言ってバックれるのか、ミルク?
この一連の出来事を無かったかの様に校長が話を続ける。ミルクは床に散らかった紙吹雪や紙テープをほうきで掃除している。
「この前、比企君が男子生徒達に襲われた時、強君が助けてあげただろう。その後どうなったか知っているかね?」
「俺はあいつらからIDカードを読み取り、誰か(くのいち)にピンハネされること無く学校側から報酬をいただいてチョコと山分けした。あいつらも停学かなんかの罰を食らったはずですよね?」
「あの後比企君は彼らを罰しない様に学校側に嘆願してきたのだよ。必要なら罰金も自分が肩代わりする、とまで言ってきた」
「なんでそこまでする必要があるんだ?」
「格闘ゲーム好きは仲間だからたとえ自分を攻撃しても許して欲しい、との事だ」
「あいつケンカはまるでダメなくせに男気はあるんだな」
「その噂が学校に広まって、eスポーツ部の入部希望者が急増している。学校側が昨日ネットで全校生徒に行ったアンケートによると、入部希望者は何と全体の二割。入部に興味を示していると答えた者は三割、との結果が出た。ユーキューブの彼の人気が後押ししているせいとは思うが」
更にチョコが付け加える。
「もっと凄いニュースもあるよ。ヒッキーはこの前出場したeスポーツ大会で、見事北関東ブロックを勝ち抜いて、そのまま全国大会で優勝したらしいの。携帯アーミーのみんなもその噂で持ちきりなんだよ」
「eスポーツ部設立に対する理事会の反対はまだ強い。しかし比企君は部を束ねられそうな不思議な魅力を持っている。取り敢えず久野君、剛力君には彼を倒してもらい、部の設立を諦めてもらうつもりだが、ダイブでの彼の能力、精神状態を観察して、期待以上の結果が得られれば、部の設立許可を検討したい。私は将来的には学園にeスポーツの専門校の設立も視野に入れているのだ」
くのいち、心の中で独白。
「(このおっさん、元は禿げ頭のくせに随分大胆なことを考えるのね。意外と入学希望の生徒は集まるかも)」
琢磨が口を開く。
「校長先生、その専門校の名称は何になるのですか?」
「格ゲー大学附属高校だ」
「ああ、あの国語や社会の入試問題ばかり難しくて、偏差値の割に理系大学への進学がイマイチな」
「弊社としてはそのようなコメントは差し控える。受験オタクなネタはやめてくれ。読者離れを起こす」
「申し訳ありません」
と琢磨。
「という訳でガーディアンデビルズの二枚看板には、比企君の深層心理世界で存分に戦ってもらいたい」
それを聞いてくのいちはニヤリと笑う。
「手加減はしちゃダメなんだよね、校長? ……あ、そうだ。ミルクも付いてきてくれない? 回復要員がいた方が助かるから」
くのいちが少しきつめの表情でミルクを睨む。ミルクはそれに敏感に反応する。
「お父さん、いえ、校長先生がお望みならお供します」
くのいちの物言いには何らかの悪意の様な物を感じるが、ミルクはそれに動じる気配は全く見せない。しかも、ミルクは強がりを見せるタイプではないのだ。




