第66話 校長からの司令「ヒッキーを倒せ」
比企新斗のポテンシャルには何かを感じている校長。ヒッキーを強とくのいちに戦わせる気だ。
兼尾は台本を広げてセリフを棒読みする。
「天体観測の何が問題なんだ?」
得意満面の表情で答えるヒッキー。
「天体のマニアックな知識だけではマウントを取りにくいでござる。天体観測で収入を得ていく事はほぼ不可能。天体観測で彼女ができるやつは、最初から天体観測なんかしなくても彼女ができる。つまり将来性の乏しい趣味なのでござるよ」
くう子も兼尾に負けじと台本を広げて棒読み。もう顔や頭の包帯は外している。腕、胸、腰に残った包帯が妙にセクシーである。
「じゃあ私達は何をすればいいの?」
「よくぞ訊いてくれた。ズバリ、eスポーツでござる」
「eスポーツ? Hなスポーツじゃなくてか?」
兼尾はくう子の袖無しの上着をぴろりんとはだけようとする。くう子、兼尾に肘鉄。
「eスポーツはチームを組んで戦う事が多いから自然と異性との出会いも多くなるでござる。大会で優勝して年収一億円を超えるプレーヤーもいる。ネット対戦で相手をボコボコにやっつけてマウントを取っても実際に会ったりする相手でもなければ人間関係がギクシャクする事も無いのでござるよ」
「そっかー。私、天文部を辞めてeスポーツ研究会に入るわ!」
「俺もeスポーツに専念するか」
「スタープレーヤーになればスポンサーがつく事もあるでござるよ」
「ようし、みんなでeスポーツ研究会を盛り上げていこうぜ!」
「おーう!」
三人は拳を天に挙げる。そして手を繋いで輪を作り、『♫ランララランランラン〜』とか歌いながら回り出す。
チョコが作製したビデオはここまで。
「なんか撮影が馬鹿らしくなってここで辞めちゃった」
とチョコ。
「税所千代子君はビデオ作製の才能もある様だな。全く素晴らしい」
「あたしの特技はビデオ制作だけじゃないよ。校長のうなじ吐息攻撃にも反撃できるんだよ」
「このビデオが何故か若者にウケてユーキューブの再生回数が五十万回を超えたのだ。しかも先月、我が校の天文部の部長や部員四名がそろって退部届を提出した。彼らもeスポーツ部の設立に向けて動き出す様だ」
「再生回数五十万回の内、四十万回はくう子の女船員の衣装のお陰じゃないのか?」
うなづく琢磨。くのいちとチョコは敢えてこのコメントをスルー。
「そうなると形だけでもeスポーツ部の設立を認めた方が……」
と琢磨。
「そうだろうな。だが更に困った問題が起きた」
「もしかしてアレですか〜?」
とミルク。
「そうだ。先日、比企君が倒れて魚池病院に担ぎこまれた。ハンガーストライキによる栄養失調らしい」
ミルクはヒッキーが倒れた現場に居合わせ、他の生徒達と彼を近くの魚池附属病院まで運んであげていたのだ。
「先日、私がヒッキーのお見舞いに行ったら〜、『入院の様子をユーキューブで配信したい』なんて言っていたよ〜」
「チャンネル登録者数を増やす格好のネタになりますね。体を壊してまでeスポーツ部の設立を訴えた悲劇のヒーロー、って事ですかね」
と琢磨。
「そういう事だ。剛力君、何とかならんかね?」
「俺がですか?」
「比企君が創るダイブの世界で彼をコテンパンにやっつけて欲しい。そして彼のeスポーツ部設立の野望を諦めさせたい」
「ヒッキーがダイブの世界で俺に負けても、野望は諦めないんじゃないっすか?」
「『ダイブの世界で剛力強と久野一恵の二人に勝ったらeスポーツ部の設立を許可する』と話したら、比企君は俄然やる気になったみたいだ。その代わり負けたら潔く身を引くと」




