第63話 真の天文マニアなどこの世に居るのか?
「天体観測」も「君の知らない物語」も歌詞をよく読んでみると、星を見るのを口実に好きな異性と夜一緒にいたいだけではないか! お星様をダシに使うな!……という作者の痛切な魂の咆哮が夜空にこだまする。
「プロレスラーが夜中の二時にこんな所に通りすがるなんて不自然だろう、あんた!」
兼尾が奇怪な左腕をカチカチいわせながら、ジャイアントニオ比企を睨みつける。
「これからが俺達二人のいいところじゃないか。邪魔をするとただじゃおかねえぞ」
「貴様らは天体観測をするためにこんな夜更けに外出しているのでござろう」
「今日は自分着座流星群を観察できる、滅多にないチャンスなのよ!」
とくう子。
「……済まぬ。拙者、高齢のせいかよく聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」
「じぶんぎ座流星群よ。あなたそんな事も知らないの?」
「ここでそなたに問題を出したいのでござるが」
「何でも訊いて!」
と自信たっぷりのくう子。
「くう子って天文マニアだったのか」
と兼尾。フラグが立ったところでジャイアントニオ比企が問う。
「今日、天文部のお主達は流星を観察しに来たのでござるな?」
「そうよ」
「では三大流星群を言ってみよ」
くう子、『うーん』とうなりながら必死に考える。そして出した答えは、
「横浜流星君」
「馬鹿者! アポーッ!」
ジャイアントニオ怒りの水平チョップ。くう子、吹っ飛ぶ。
「それは貴様の好きなタレントでござろう!」
「くう子、大丈夫か!」
「彼女が知らないようだから、お主が教えてあげては如何か、兼尾殿?」
「……そ、それよりくう子にもう一度だけチャンスを与えてやってくれ」
「もう一度チャンスをもらって上手くいった悪者って聞いたことがありません、部長」
とくう子はけろっとして答える。くう子は悪者であったのか。
「お前の本気度を見せるのだ、沢山部員!」
「からすみ、このわた、うに」
「それは日本三大珍味じゃ! 喰らえ、背骨蹴り! ダァーッ!」
ジャイアントニオの背骨蹴りにくう子再び吹っ飛ぶ。
「四分儀座流星群、双子座流星群、ペルセウス座流星群じゃ。貴様らそれでも天文ファンなのか! アポッ、アポッ!」
「ふっふっふっ。バレたとあっちゃあ仕方あるめえ。いかにも俺様はニセ天体マニアだ!」
と開き直る兼尾貢。
「お前達の正体は拙者はとっくに見破っていたでござる。真の天体マニアならば四分儀座流星群の観測ができなくなったらとっとと帰宅するのが道理でござろう! だのに貴様らは星が見えなくなってからもずう〜っとイチャイチャしていたではないか! 皆さん、お元気ですかあーっ!」
ヒッキーは有名なプロレスラーのモノマネをしているらしい。全く似ていないが。
「ところで、どうして急に星が見えなくなっちゃったの?」
背骨蹴りにもめげずにけろっとして尋ねるくう子。
「ふっふっふっ。知りたいか? それは拙者が発煙筒を沢山焚いて、空を煙で染め上げたからでござる!」
兼尾とくう子が辺りを見回すと、四方八方から発煙筒の明かりが見える。
「お前、そうまでして俺達の天体観測を邪魔したかったのか! 脱炭素社会が叫ばれる昨今なのに、なんて事をしてくれるんだ!」
「鬼! 悪魔! 地球の敵! 自家発電でもして地球にお詫びしろ!」
「自家発電?」
ビデオを観ていたミルクがこの言葉にやけに反応する。最近のミルクはちょっとおかしい……いや、前からか。
話をビデオに戻す。
「拙者は決して人の恋路を邪魔したくて発煙筒を焚いたのではない。お主達が心から天体観測を愛しているのか試したかっただけなのでござる」
「しつもーん」
「はい、そこの銀河艦隊船員のくう子ちゃん、なんでござるか?」
「心から天体観測を愛している人なんて、この地球上にいるんですか? あたし、時々ちゅくば市のプラネタリウムの前を通りかかるんだけど、お客さんはカップルか親子連れしか見ないよ」
「丸ビルのプラネタリウムの入り口も、男の二人連れとか女の二人連れとかって見ないよな」




