第60話 e スポーツ部、同好会は認めんぞ。ただし……
割井校長は策士である。闇雲に物事を禁止したりはしない。まずは生徒の力量を試すのだ。
日にち変わってガーディアンデビルズの部室。割井校長がメンバーの前で説明をしている。髪の毛の量は増え、頭頂部もかなりフサフサになっている。強、くのいち、琢磨、ミルク、チョコが出席している。
「時代の流れのせいか我ら魚池グループでもeスポーツ愛好家が増えてきた。高額の賞金に惹かれて、それで食べていこうなどと夢見る者も少なからず居る様だ。我が校でもeスポーツ部の設立を要望する生徒が増えてきたが、ゲームに熱中する余り学業を疎かになるのでは、という危惧のためゼーレでは設立を認めずにきた」
「先生」
「何だね、琢磨君」
「ゼーレってもしかして学校の理事会の事ですか?」
「そうとも言う。Zoomでの会議は映像代がかかるので、sound only でショボく会議を開いておる」
校長と琢磨の話を上の空で聞いている強。
「(校長先生は最近すっかりフサフサになったなあ。この前見かけた奥さんの割井イシヨ先生もなんか綺麗になった、というか若返った感じだし……そういえば琢磨も最近包帯の使い方がめっきり上達して俺も油断できねえ。あいつ、試験の成績も去年は殆ど噂になってなかったのに変わったよな。ミルクは校長先生夫婦の家に居候してるんだっけ?……って事はミルクの作ったクッキーを食べている? 琢磨もそうだよな。この前の出来事が夢の筈ないよな)」
強は先日の出来事が脳裏に蘇る。
くのいちに追われている強とミルク。
三人は狭い路地を走っている。
「強君、こっち!」
「逃がすか!」
と追うくのいち。強ははちまきにハッピ姿。ミルクは制服。二人が路地を左に曲がるとそこは運悪く袋小路。
「このままじゃ捕まるわ。強君、私をお姫様抱っこして塀を飛び越えて!」
「『飛び越えて』って、いくら俺でも……」
「状況がタフな(厳しい)時こそタフな男の出番なのよ!」
「ええい、どうにでもなれ!」
強はミルクをお姫様抱っこしてジャンプする。驚異的なジャンプ力が生じ二人は2.5メートルはあろうかと言う塀を飛び越える。塀の向こう側に二人が着地した瞬間にくのいちが路地を左折して袋小路に姿を現す。二人は身をかがめて息を殺してやり過ごす。強の回想シーンここまで。
ガーディアンデビルズの部室内では校長と琢磨との軽い雑談が続いている。強は室内にいるくのいちとふと目が合う。無理矢理笑顔を作ってくのいちに軽く手を振るが、彼女はプイと横を向く。まだ先日の出来事を根に持っている様である。
強、心の中で独白。
「(俺はあの日、『とっとと帰れ』と言われたから帰った。ミルクに誘われたからマッタに寄ったが、それはあいつが俺に秘密を打ち明けるための大切な用事だった。俺に落ち度はねえ筈だ。……ったく女って本当にめんどくせーな)」
強は今度はミルクに目をやる。彼女は強の視線に気付くと笑みを浮かべてからちょっとおどけて唇を軽く尖らせる。そして左手で自慢の胸を少し持ち上げるお得意のポーズをする。
『強君に任せるよ、どっちでもいい』
強の脳裏に先日のミルクの言葉がよみがえる。
「(どっちでもいいって、キスをする身体の部位を言っていたのか?……いや、やめとこう)」
琢磨と校長の雑談が続いた後、校長が話を進める。
「ここでひとつ困った問題が起きた。学校にeスポーツ部の設立を求める学生が制作した動画が、ユーキューブで人気化してしまい世間の注目を集め始めているのだ。動画を撮影したのは税所千代子君だ」
チョコは『やっぱバレてたか』という顔をするが、得意のハッタリで澄まして言う。
「あたしはヒッキーに頼まれたからお遊びで撮影しただけ。こんな大事になるとは思わなかったよ」




