第59話 ハンストで倒れるヒッキー
eスポーツ同好会設立に向けて活動するヒッキー。急に多忙になった彼はとうとうドクターストップ。
男子生徒達に緊張が走る。
チョコは『ここは皆んなをビビらせた方が、学園の治安にいいわよね』と考える。
「勿論本当よ。彼女は切り取った局部をどう美味しく料理するかまで研究しているわ。よかったら後でレシピをLINEするわよ。局部を燻製にした後、中身を取り出してインドカレーのナンで包んで特製のお酢ダレをつけてね……」
(脅しでも作話でもないリアリティー 詠み人知らず)
ヒッキーは以前、引きこもりからのリハビリでミルクから特訓を受けた際、ダイブの仮想現実でくのいちと戦った。その時は危うくくのいちに地獄のリサイタルに連行されそうになった。
(敵わなぬながらも精一杯戦うヒッキー)
因みに今回の仕置きの生徒指導室への符牒は泣く子も黙る『ドリアンカレーパン』であった。ヒッキーによりガーディアンデビルズの部室に持ち込まれたその物体は、最後にはバキュームカーの出動により事なきを得た。
数日後、校舎の廊下。ヒッキーと五、六人の生徒が固まって歩いている。中にはヒッキーを数日前に攻撃して強に仕置きされた四人の男子生徒達も含まれている。強が彼らと鉢合わせる。ヒッキーは強に駆け寄って来る。
「剛力氏!」
「おう、ヒッキーか。その後変わりは無いか?」
「お陰でeスポーツ同好会設立に賛同してくれる仲間が増えたでござるよ」
強はヒッキーの脇にいる男子生徒達に目が行く。その一人の肩を掌で軽く掴む。
「お前ら、また悪さしていないよなぁ?」
「め、滅相もない。あれから俺達はヒッキーと一緒に同好会設立を目指して動く事にしたんだ」
「そうなのでござるよ、剛力氏」
「もうイジメはしてねえんだな? もっとも、またちょっとイジメでもしてくれた方が俺の報酬が増えて助かるんだが」
強は男子生徒の頭をやや強く掴んで睨む。
「勘弁して下さいよ、剛力さん。……それでその事については逆にヒッキーに世話になっちまって……」
「世話? どういう事だ?」
ヒッキーはその会話を遮る様に話す。
「剛力氏! 拙者も剛力氏に言われて、グルグル回転蹴りキックの精度向上に着手したでござるよ。ピ、ピルエットって言うんでござるか?」
「バレエのピルエットの修得には時間がかかるぞ」
「見て欲しいでござる。たあっ!」
ヒッキーはぎこちないピルエットを回り始める。
「おう、やれば出来るじゃねえか。ヒッキー、もっともっと!」
強の声援に応え、ヒッキーは何回か両足を地面に着きながらも何度もぎこちない回転を行う。
「これが……グルグル……回転蹴り……」
ヒッキーの顔から次第に血の気が引いていく。彼は天井を見つめたまま、気を失って倒れる。
駆け寄る男子生徒達。
「おいヒッキー、大丈夫か?」
体を揺すられてもヒッキーは意識を失ったままである。
強がオロオロとしているとどこからともなくミルクが現れる。
「ヒッキー、この頃頑張り過ぎたよね〜」
彼女はヒッキーの額に手を当て、手首で脈を取り、耳を彼の顔に近づけて呼吸を確認する。
「熱は無さそうだよ〜。心臓と呼吸も今のところ大丈夫っぽいけど〜、一応保健室に連れて行こう〜。割井イシヨ先生にも連絡するね〜」
割井イシヨ先生は魚池学園のすぐそばの魚池付属病院の医師である。恐妻家の割井校長の奥さんである。




