第57話 強、たまには働け
剛力強は毎月の家賃をくのいちに上納する為に、働かなくてはならぬのだ! さもないと切磋琢磨からの甘美なお仕置きが待ちかまえているぞ。
「拙者の『グルグル回転蹴りキック』のどこに問題があると?」
「『グルグル』と『回転』、『蹴り』と『キック』は意味が同じだ。『グルグル蹴り』だけでいい」
「『グルグル蹴り』では余りにわびしい。せめて『回転キック』にさせてもらえないでござるか?」
「じゃあカッコよく『竜巻扇風機』なんてどうだ?」
「余りカッコよくないし某格闘ゲームからクレームが来そうなネーミングなので勘弁していただきたい」
「それから、君の回転は顔切りが出来ていない。
ピルエット(バレエの回転)で目が回らない様にするには『顔を切る』技術が不可欠だ。回転の際、なるべく一点を見る様に首を動かしていってそのあと素早く……」
「なんかバレエアニメみたくなってきたので、ここから先の解説はDVD特典に収録していいでござるか?」
「DVD特典はもうちょっとエッチなものにしないと売り上げが伸びずにアニメ放映は打ち切りになってしまうぞ」
「強のレオタード姿ならイケるかもよ」
とチョコ。
「それはそうと仕事して、強」
強は比企を攻撃していた男子生徒四人を睨む。
「いじめの証拠は携帯アーミーが撮影しているからな。多分一人あたり二万円の罰金だな。大人しく全員IDカードを出してくれ」
男子生徒達は意外にもひるまない。
「こいつガーディアンデビルズの剛力強だよな?」
「俺、こいつがケンカするところ見たことねえんだよ」
「携帯アーミーの携帯を奪っちまおうか。証拠を消しちまえばバックれちまえる」
チョコが落ち着いた様子で彼らに言う。
「あたしの写した画像はリアルタイムで学校側に転送されて消去はできない。チェックメイトよ。でもあなた達にチャンスをあげるわ」
チョコは携帯を男子生徒達に向ける。
「今回はあなた達の悪事をたまたまオフラインで撮影したの。まだ転送されていないわ」
チョコの意図を読み取りちょっとサディスティックな表情を浮かべる強。
「こりゃあ面白い。ナイスだチョコ」
強は男子生徒達を睨みつける。
「お前ら四人で俺にかかって来い。俺の頭や胴体に指一本でも触れられたらお前らの勝ちでいい。画像は転送しないしIDカードも渡さなくていい。審判は……チョコ、お前が撮影してくれるな?」
「オフラインで良ければ」
周りには数人の携帯アーミーが成り行きを撮影していたが、チョコは『もういいよ』と合図する。
「こっちは四人だ。一人くらい奴の頭や胴体に触れられるだろう」
「よし、行くぞ」
やる気満々の男子生徒達に対し、強は急に弱気な声で言う。
「な、なあヒッキー。援護してくれないか? 頼む。こいつらが背中を向けている間に後ろから攻撃してくれ」
「えっ……しょ、承知した。喰らえ、波動神拳!」
ヒッキーはカッコよくポーズをとるが、当然手からは波動は出ない。
しかし四人が一瞬ヒッキーに目をやった瞬間、強は四人に素早くダッシュしてハイキックや張り手、肘打ち、正拳突きを喰らわす。彼らは強の頭や胴体どころか腕にも触れられずに倒れる。
チョコは『ヒュー』と口笛を鳴らす。
「流石はあたしの強」




