第55話 第2部プロローグ、これにて終了
第45話より続いた第二部のプロローグはこれにて終了
「シンデレラの鐘が鳴っちゃったのかしら?」
「さっきはちゃんと跳べたろう? お前も見てたよな?」
「忘れちゃったわ」
「ミルクちゃん、からかわないでくれよ。俺は頭が悪いんだから」
「強君は本当に超人的な体力で私と塀を跳び越えたのかしら? それとも強君が跳ぼうとした瞬間、私が浮遊の術で一緒に塀の上まで運んであげたとか? どちらにしてもまるで夢物語ね。明日目覚めたら今日の事は忘れちゃってるかも」
当惑気味に強はミルクを睨みつける。
「どうしてもこれは夢だと言いたいんだな?」
「そんな怖い顔する強君、初めてだよ」
「ご、ごめんミルクちゃん。なんか混乱しちまって」
「今日は強君に少しでも私の事を知ってもらおうと思って誘ったんだ。鬼ごっこ楽しかったね。ちょっと怖かったけど。……それと、一つ約束して欲しいんだけど」
ミルクはお姫様抱っこされたまま、両手を強の首に回す。そして顔を起こし、唇を強の耳にかすかに触れさせながら囁く。
「今日の事は内緒にしてね」
不思議な笑みを浮かべるミルク。強が彼女を強引にお姫様抱っこをしたのであるが、
「そろそろ〜降ろしてくれないかな〜」
などと言う事もなく、強の腕に体を預けている。
「私の胸に本当にシリコンやゴールドが埋め込まれていると思ってるの〜? 試着室で感触があったでしょ〜?」
とちょっと挑発的なミルク。
さっきまでの逃走劇で二人の間には戦友とも呼べる奇妙な連帯感が生じている。強の腕にはミルクの背中、肩、腕、脚の感触が伝わる。クッションの様に柔らかく、暖かみがあり弾力がある。
二人の顔の距離は十五センチ。そのすぐそばに形の良い豊かなバスト。彼女の鼓動さえも伝わってきそうな近さである。
強はこのままミルクの唇を奪いたい衝動に駆られる。そのまま流れに任せて豊かな胸へも……二人の秘密を共有する証としてこの流れは自然なのではないか?
そんな事を考えながらミルクを見つめると、彼女はまるでそれを見透かしたような表情を見せる。
「(強君に任せるよ。どっちでもいい)」
彼女の目は確かにそう語っていた……いや違う。今の言葉が音を介さずに直接強の頭の中に飛び込んできたのだ。
「(魔女……)」
と強は心の中で呟く。彼女をそう形容するのは万引き少女節陶子に次いで二人目となった。
くのいちはミルクと強に遺恨を残したまま、第2部本編へと突き進む。




