第52話 ミルクと強の逃避行
強の大事なところを切り落とそうと、くのいちの魔の手が迫る。ここは知恵と勇気を振り絞って窮地を脱するのだ!
くのいちの独白は続く。
「切り落とした局部は真ん中に切れ込みを入れて充分に水洗いをした後、3.4%食塩水に一時間浸す。それを一日天日で乾燥させてスモークチップで燻製にしてやる! 中身を取り出したらインドカレーのナンで巻いて秘伝のお酢のタレをつけて食ってやる!」
「人の道を一番踏み外しているのはあんただろう!」
とようやくナレーターがツッコミを入れる。
強はくのいちの存在に気づいてはおらず、ミルクをいたわりながら歩いている。
ミルクがシリアスモードのきびきびした口調で強に言う。
「強君、ここを右に曲がって細い路地に入って」
「えっ、構わねえけどどうして……」
強とミルク、右折して路地に入る。
「緊急事態です。追っ手がいます。捕まったら子供を作れない体にされるかも」
「ミルクちゃんがか?」
「いえ、強君がです」
強、少しサディスティックな表情で舌舐めずりをする。
「ケンカ十段のこの俺を? そいつは是非、お手合わせ願いたいものだな」
「ダメ、戦わないで。あなたに戦って欲しくない相手なの」
「一体どこのどいつだよ」
「今は言えません。敵はたった一人。うまく撒いて下さい」
「お姫様の仰せのままに」
強はミルクの手を取り、小走りで進む。
くのいちも足音を殺した忍び流の早歩きで二人を追いかける。
くのいちの独白。
「すぐには捕まえない。ゆっくり追い詰めて狩られる者の恐怖を味合わせてやる」
強はミルクの指示のまま、細い路地をくねくねと進む。くのいちが紳士服店の前を通りかかり、店内を見渡す。二人が居ないのを確認して通り過ぎる。
店内の試着室では半分閉じたカーテンの後ろで、手に靴を持った強とミルクが向かい合ったまま、身をピタリと寄せて隠れている。
「ミルク、なんか柔らかい物が当たっているんだけど」
「強君も何か硬い物が当たってな〜い?」
「行ったか?」
「追手は向こうに行ったみたいだけど〜強君はイッちゃってないよね〜?」
「この状況で胴上げ級のボケをかませるとは」
「まだ油断はできないわ〜。少し時間を置いてから出ましょ〜」
よくぞ持ちこたえた、強。




