第51話 ラブコメの王道「誤解」
現実社会では誤解などは生じない。全て各自が心の奥底の願望を「誤解」と言っているだけだ。しかしこの作品はラブコメ。生死に関わる誤解が起こる。
ミルクはカバンの中から十センチ角くらいの小さな木箱を取り出す。箱にはチューリップを縦に伸ばしたような花がデザインされている。
中からクッキーを手にして、店員の目に付かない様に強の食べているナゲットの容器に忍ばせる。
「このクッキー、食べてくれる〜?」
「この前、俺がくのいちとバトルした時も、『時間を稼いでくれたお礼』とか言って、クッキーくれたよなあ」
「今日のクッキーは有効成分が当社比でアップしているから、効果抜群だよ〜」
「この前食べた時は元気が出た気がした。派手なメイクをして校長にぶん殴られても何とも無かった。今日のやつは……」
「どうする〜元気になりすぎたら〜?」
不思議な笑みを浮かべるミルク。
強も冗談っぽく笑いながら答える。
「そうなったら責任をとってくれよ」
強、ミルクのクッキーを口に運ぶ。
そして心の中で独白。
「(あ、美味い。さすがミルクの手作り。それにこれはミルクちゃんの香りがする。なんかいいなぁ、料理の得意な女子って。……でも待てよ、もう一つの香りも混じっている。何だ、これは、えーっと……えっ、血の匂い? クッキーから?)」
強が少し驚いた表情になるが、それにミルクは気づかない。
「どう〜、お味は〜?」
強は努めて平静を装って答える。
「すごいよ、ミルクちゃん。いつもこんなクッキーが食べられる琢磨は幸せ者だ」
「ありがと〜。強君って女の子の扱いが上手だね〜」
強が『そんな事言ってくれるのはお前だけ……』と言いかけた途中でミルクは『あいたたた』と言って頭を抱える。
「ミルク、大丈夫か?」
「うん。私、頭痛持ちだから時々こうなるけど〜少し休んでいれば治るから〜」
そう言ってミルクはテーブルに両腕を乗せて顔を伏せる。そして暫く深呼吸を繰り返す。
「水、もらって来ようか?」
「はあっ、はあっ……ありがとう強く〜ん。大丈夫だから〜。でも私、ガーディアンデビルズのヒーリング担当なのに〜これじゃあダメだね〜」
「『ヒーリング担当は自分のヒーリングはできない』ってのはお約束の設定だろ? 落ち込むなよ。頭の痛みが収まったら家まで送るから」
「お姫様抱っこで〜?」
「PTAのお許しが出たら考えよう」
と強。
「ガーディアンデビルズは色恋沙汰は管轄外だよね〜」
と、ぐったりしながらも思わせ振りな事を言うミルク。頭痛のためか汗ばんでいる彼女にはいつもにも増して不思議な色気がある。
場面変わって帰宅途中のくのいち。小声で独白。
「あーあ。今日は散々な一日だったなぁ。強は援護に来ないし、携帯アーミーのあの子からは変な相談持ちかけられるし。……なぜ私が口にゴムを咥えて手を使わないでフランクフルトに被せなきゃならないの? フランクフルトが喉の奥に当たって変な感じだったなぁ。オエッとしそうだった」
「いつかその練習が役に立つ時が来るかもしれないのであった」
とナレーションが入る。
くのいちはそれに応える。
「それってテストもないのに勉強するみたいで虚しいのよね。あーイライラする。何かに当たり散らして発散したいわ」
くのいち、帰路の駅から自宅に向かう途中の道で商店街の奥の方に目をやる。すると遠くに見えるマタドナルドの店の前から出てくる強とミルクを目にする。くのいちはとっさに身を隠す。物陰から覗くと、強はミルクの肩を抱いて顔を寄せている。
「大丈夫か?」
「本当に辛くなったらお姫様抱っこ頼むね〜」
くのいち、最初は驚くが、表情が見る見る内に憎しみに変わる。そして小声で独白。
「あの野郎〜、あたしがゴムくさいフランクフルトを食べてる時に、それはそれは美味しいマタドナルドのバーガーを食べやがって! しかもミルクと一緒? 肩も抱いている?
……あいつハッピ姿にねじりはちまきなんかして、男らしさを強調しているのね! あんなに顔も近づけて……キ、キスでもするつもりなの? ゆ る さ な い!」
強のハッピにねじりはちまきは、他の男から見ればただのギャグなのだが、くのいちは変なツボを刺激されてしまったらしい。
秘孔を突かれたくのいちは手裏剣の髪飾りを外しカチッとスイッチを入れる。刃物モードだ。
「いや待て。落ち着け、あたし。あたしは学園の治安を守るガーディアンデビルズのリーダー。メンバーがたとえ人の道を踏み外す様な行為があっても、それを教育的指導によりいさめるのがあたしの務め。奴等には道徳的、人道的処置を施さなくてはならないわ」
「さすがガーディアンデビルズのリーダーなのであった」
とナレーションが入る。
「……ここはやはり……局部を切り落とす!」
ナレーターは唖然として声も出ない。
遠くにいるミルクがはっ、とした表情になる。
「(えっ、今度は下半身?)」




