第5話 鉄研部長VSくう子
鉄研の部室に残ったのは部長と気の弱い部員、そして新入部員となったくう子の3人。くう子は部長を老人と思い込んでいた。
「報酬はゲットしたし、あたし達もおいとましようよ、強。……くう子ちゃんも何かあったらすぐに連絡して」
「ありがとう、くのいちさん。でもこの部長さんをボコボコにして良かったの? あたし『お年寄りは大切にしろ』ってよくおじいちゃんに言われるんだけど」
それを聞いて気の弱そうな部員がつぶやく。
「おじいちゃんが『お年寄りは大切にしろ』って言うのは、僕が『鉄研部員には乳くらい揉ませてやれ』って言うのと似ているな……って誰も聞いちゃいないか」
くのいちは部員のつぶやきをスルーしてくう子に言う。
「部長はお年寄りに見えるけど、あたし達と同じ高校二年生。IDカードで確認した」
「そうなんだ。いい事聞いちゃった」
「くう子ちゃんは問題無さそうだ。部室に戻ろうぜ、くのいち」
強はくのいちの肩を軽く叩いて苦笑いをする。二人は少しふらついている兼尾貢を支えながら鉄研の部室を後にする。
残ったのは鉄研の部長と部員と沢山くう子の三人。
くのいちにボコボコにされ床に横たわっている部長にくう子が言う。
「ねぇ部長、あたし駅弁が食べたい! これから毎日三個ずつ用意してね」
「くう子ちゃんと部長と僕で三個ですか?」
「あたしが三個食べるの! あたしは人の三倍は食べないと生きていけないそれはそれはかわいそうな少女なの」
部員が恐る恐る尋ねる。
「それってお代は……」
「そこに倒れている部長が払うに決まってるでしょ♡」
部長はよろよろとしながら立ち上がる。
「貴様、ふざけるでないわ!」
「部長ってお年寄りじゃないんだよね? だったら大切にしなくてもいいんだよね?」
くう子は確認する様にそう言うと、部長の胸ぐらをつかみ首の高さに持ち上げる。
「空腹に苦しむ少女を助けないなんて、コスプレイヤーとして許せない! 必殺、斬ぱーんち!」
「グハァッ!」
部長は強烈なアッパーカットをくらい吹っ飛ぶ。そしてゴミ箱の上に落下する。
部員はただ呆然と見つめるのみ。
「何故コスプレーヤーとして許せないんだ?……って誰も聞いちゃいないか」
動きが止まった部長を尻目にくう子はおもむろに携帯を取り出し、何やら検索をしながら独り言。
「お腹すいたよー」
携帯の待受画面はちょっとセクシーな女海賊キャラのコスプレ画像。モデルはくう子自身か?
ちなみにくう子がこの後コスプレでちょっと有名になっていくのはまだしばらく先のお話である。
「取り敢えず牡蠣めし弁当、イカめし弁当、石狩シャケめし弁当よろしくね」
と携帯の検索結果の画面を見て言うくう子。己の食欲の為には部員の金銭的負担などどうでもいいらしい。
「くう子ちゃんって山手線の駅名は調べようともしないくせに、北海道の人気駅弁ベスト3はチェックするんだ……って誰も聞いちゃいないか」
と部員がつぶやく。
「ろ、六万円の罰金の上に毎日三個の駅弁代か……」
吹っ飛ばされた部長に部員が駆け寄る。
「部長、僕もバイトして何とかしますから。せっかくの女子部員ですし」
くう子がつぶやく。
「兼尾君はそろそろお金が終点みたいだし、この辺が乗り換え時かも」
「えっ、くう子ちゃん何か言った?」
「何でもないわ。これからもよろしくね」
くう子がにっこりと微笑む。




