第49話 あぶれ者同士、マッタへ
放課後、「とっとと帰れ」とくのいちに言われた強はミルクからマッタに誘われる。そこでミルクは大事な打ち明け話を強にする。
場面変わって下駄箱の前。強は部室を出て下校しようとしているミルクを見かける。
「ようミルク。これから帰るとこか?」
「あ、強君〜。バレエカッコ良かったよ〜。私もちょうど帰るとこ〜。……良かったら〜一緒に帰ろっか〜?」
「俺は構わないけど琢磨は?」
「『用事があるから先に帰って』ってさっき連絡が入ったの〜」
「俺もくのいちに『とっとと帰れ』って言われたところさ。お前も見てたよな?」
「じゃあ私達〜、あぶれ者同士だね〜。折角だから〜マタドナルドにでも寄ってく〜?」
「マッタか。一駅離れた隠れ家みたいなとこにある店なら制服で行っても大丈夫だよな。お前、転校したての頃、よく行ってたろ?」
「アハ、バレてたんだ〜」
「お前、目立つもんな、嫌でも目に入るさ」
「マタドナルドは思い出の店なの〜。琢磨さんと初めて一緒に行ったお店なんだよ〜」
「なんかそんな話していると、腹が空いてくるな。でも俺はバーガーはちょっと苦手なんだよ」
「マッタナゲットでも頼みなよ〜。マッタタツタはバーガーが苦手な人にも評判いいよ〜。今日は私のお手製のお菓子もあるから〜お店の人に隠れて食べよ〜」
二人は学校の近くの駅から電車に乗り、一駅で降りて商店街を歩く。目的のバーガー屋にたどり着く。
店の前。『又怒鳴るド!』と書かれている看板。入り口の横の人相の悪いピエロの人形を眺める強とミルク。
ピエロの悪い人相に関してはストーリーには直結しないので簡潔に述べたいが、取り敢えずモヒカンヘアーである。悪人キャラには欠かせない。その上から赤いピエロの帽子。首には駐車禁止のステンレスの鎖をジャラジャラと巻いている。これで善人だったら笑える。手にはサバイバルナイフを持ち、それを長い舌で美味しそうに舐めている。マッタナイフというメニューであろうか。ピエロなので白塗りの顔に、真っ赤な唇。明らかに校則違反。お団子状の真っ赤なお鼻はクリスマスの時だけはピカピカと光る様になっている。名はルドルフ。人形の脇の張り紙には、
『悪い子のみんな、お店の中で待ってるよ♡』と書かれている。
「こういう手合いに強い奴はいない」
と人形相手に無意味な品定めをする強。
「今日は私がおごるよ〜」
ミルクが強の手を引く。二人、店に入る。店員がナイフとフォークを振り回しながら二人に怒鳴る。
「貴様らよく来やがったな! ここで会ったが100年目でいっ! 生きて帰れると思うなよ! 何を頼むつもりだ! 返答次第じゃただじゃ置かねえぞ!」
ミルク、負けじと大声で応戦。
「店内飲食で〜マッタシェイクと〜ビッグマッタを〜頼もうか〜!」
「おう! いつもの嬢ちゃん! マッタシェイクとビッグマッタだな、べらんめい!」
「ほら、強君も何か頼んで〜」
「お、おう。じゃあ俺は牛丼に生卵、豚汁もつけてくれ」
「てやんでい! こちとらバーガー屋でい! どうしても欲しけりゃこの俺っちを倒してからにしやがれってんだ!」
「え、いいのか?」
強は店員の右腕を両手で掴み投げようとする。
「強君、ストップストップ〜!」
「あ、すまん。 えーと、投げっとを一つ。あとハッピーセットも頼む」
「ハ、ハッピセットだな、べらんめい!」
仕事とはいえ、店員さんも一日中このテンションを保つのは結構大変そうではある。
強とミルク、店内のテーブルに腰掛ける。強は何故かねじりはちまきにハッピ姿。これがハッピセットらしい。ナゲットを一つ口に運ぶ強。
「強君、ハッピセット似合うよ〜」
「このハッピ、本当に良い子に人気なのか?」
「コマーシャルでよく耳にするよね〜」
「そうだな」
「テレビコマーシャルの〜「『Happy Set!』って言う子供達の声が〜、私には『I’ve been sick! (私は病気だ!)』って聞こえちゃうの〜。変でしょ、私の耳〜」
ミルクはクスクス笑うが強はポカンとした表情。
「英語ペラペラのお前の冗談は難しい。小学生の俺にもわかる話題にしてくれ。……そういえばここは思い出の店、とか言ってたよな?」
「転校してきたばかりの時〜琢磨さんとどうしてもお友達になりたくて〜くのちゃんに相談した事があったの〜」
「相談する相手を間違えてないか?」
以下ミルクの回想シーン。転校したてのミルクがくのいちと話をしている。
「上手に告る方法を教えてくれだって?」
「くのちゃんならいいアドバイスしてくれると思って〜」
「あたしに恋愛の相談なんて、バーガー屋で牛丼を注文する様なもんだよ」
「あはは。そんな馬鹿な注文する人〜、居るわけないよ〜」
これがもし漫画だったら、『いる』という文字に矢印が付いてハッピ姿の男の方に向けられているところだが、ミルクのくのいちとの回想シーンなので彼は居ない。
「お相手は切磋琢磨でいいんだよね」
「うん」
「あんた、自分のカラダはもっと大事にした方がいいよ」
「琢磨さんはそんな人じゃないよ〜。イケメンだし〜」
脳みそがピクニックに行っているミルクは説得力がある。
「あたしもよく分かんないけど、いきなり告るのは避けた方がいいんじゃないかな?」
「なんで〜?」
「告って失敗したら、お互い気まずいだろう。その後もずっと学校で顔を合わせなきゃならないし」
「じゃあどうすれば〜」
「卒業式の日に告るとか? 転校する日に告るとか?」
「私、転校してきたばっかだよ〜」
「うーん……だったらマッタに誘え。あんた好きだろ?」
「マタドナルドに〜?」
「マッタはあんたのホームグラウンドだろう? 落ち着いて話ができるよ。それにこれは告白じゃないんだ。ただバーガー屋に行くだけ。断られたとしても振られたんじゃない。バーガー屋に行かないだけ。気まずくないでしょ? でもマッタにさえ付き合ってくれない男だったら脈無しかも」
「分かったわくのちゃ〜ん。ありがと〜。それでどんな事を話したらいいのかな〜?」
「あいつは変わり者だから、ちょっと違うアプローチがいいかもね。インパクトは大事だと思うよ」
くのいちの話を熱心に聞き入るミルク。




