第46話 メガネっ子のハードな恋愛相談
「このメガネっ子はあたしの手には負えないかもしれない」くのいちの予感は的中した。ミルクを呼んで正解だったのだ。
くのいち、心の中で本筋とは関係のない事を延々と独白。
「(これがもし山岡さんのグルメ漫画だったら『あんたが食わしてくれたのは偽物のフランクフルトだ。俺が本物を教えてやる』とか言って、ルフトハンザ航空に乗ってドイツのフランクフルト国際空港までひとっ飛びして、空港の検疫で試験管を渡されて、唾液をたっぷんたっぷんに取らされて、三時間待たされた挙げ句に陽性反応が出て、ホテルに二週間缶詰めになって、WHOのテトリス事務局長に太い注射を射たれる、なんていう地球規模のストーリーが展開しそうだけど、これは北関東ローカルな学園ラブコメだからそれはないわね)」
くのいちと女生徒、部室に向かって歩き出す。
くのいち、本題に戻り心の中で独白。
「(そうそう。恋愛相談の話だっけ? あたしのいちばん苦手なジャンルだー。しかもこの子、一筋縄じゃいかない感じだし)」
くのいち、携帯電話を取り出しミルクにコールする。
「ハイ、ミルクだよ〜」
「ミルク、ガーディアンデビルズの部室まで至急いらっしゃい!」
「今、強君のバレエを〜見せてもらっているところなんだけど〜」
『強君のバレエを』というセリフを聞いたせいか、くのいちは不機嫌になる。
「いいからすぐ来い! 来ないと……」
「来ないと〜?」
「来ないとお前の乳房を切り取る!」
「また〜。くのちゃんったら冗談キツい〜」
「切り取った乳房は皮を剥いで十分に血抜きをした後、特製の麹を塗って摂氏二度で一ヶ月間チルド保存をして熟成させる。常温に戻してから塩胡椒で味を整え、炭をくべて七輪で焼いて食ってやる!」
「じゃあ一ヶ月後は焼き肉パーティーだね〜。あ、今強君の踊りがいいところだからまた連絡するね〜」
ミルク、電話を切る。
くのいち、舌舐めずりしながら独白。
「命が惜しくないみたいね」
バレエを見学中のミルクも独白。
「スミをクベテ〜? シチリン〜? なんかわかんない日本語を言っていたけど大丈夫だよね〜」
強は金髪ポニーテールの同級生とペアで踊っている。ミルクが拍手を送る。
ガーディアンデビルズの部室。くのいちと携帯アーミーのメガネっ子女生徒。
「私、付き合って半年の彼氏がいるんです」
「あんたカレシがいるの? さっきあたしにキスしたじゃない! それにオッパイだって……」
「私、強くて凛々しい人に惹かれちゃうんですよ」
「(まあ、あたしは中学の時からそういうキャラだけどね)」
となかば悟りの境地のくのいち。
「彼とは上手くいっているんです。……けど最近彼が、あの、その……」
「手を繋ぎたがっているとか?」
「手を繋いで歩いたりはしているんです」
「もしかしてキスを迫られた、とか?」
「それも無事に済ませました。キスをしている時、繋いだ手が、その、変な方向に行く事も……」
くのいち赤面する。うつむいて心の中で独白。
「(何よ! それじゃああたしに相談することなんて無いじゃないの! これはノロケ? それともあたしの守備範囲外のもっと難しい相談なの?……この子にとってキスをしたり乳を揉んだり揉まれたりは日常のあいさつ程度の事なの? 畜生、神様って不公平だ。化けて出てやる!)」
「あんたまだピンピンしてるだろ」
とナレーターがツッコミを入れる。
「先輩、私どうしたらいいんでしょうか?」
「どうしたらって言われても……(あたし経験無いし……)」
そこにミルクが突然現れ、会話に割って入る。
「ホームランの下準備の悩みかな〜?」
「ミルク! いいところに来たわね」
「仲間が困っている時はお互い様だよ〜」
「くのいちは後のダイブの世界でこの言葉の重さを嫌でも味わう事になるのであった」
とのナレーションが流れる。
「彼が私の体を求めている、それは嬉しい事でもあるんです。でも彼は、その……」
「その?」
「その〜?」
女生徒は意を決した様に、顔を赤らめながら大声で言う。
「『避妊はめんどくさい』、なんて言うんですーっ!!!」




