第43話 陶子の反撃
琢磨の圧倒的な強さで戦いは終わる。しかしここから陶子の思わぬ攻撃が始まる。
「さあ、道具屋に戻りましょう」
と言う琢磨。すると陶子は再び琢磨の腕を抱く。
「陶子さん、何を……」
「お母さんの命令だから」
陶子、ニッコリと笑う。しかしその後うつむいて少し寂しそうな表情になる。
「お母さんは何とかあなたを幸せにしたい、と必死だったんですね。……でも無理はしない方がいいですよ」
陶子、琢磨の腕から離れる。
「あたし、馬鹿なの? 目の前にこんなイイ男がいて、あたしのために一生懸命やってくれて、それでも……ときめかないなんて!」
「あれれ、振られちゃいましたか」
「琢磨君って頭いいよね。あたしをいきなり押し倒したり、お母さんにわざと怒らせる様な事を言ったりしたのも全部計算なんだよね」
「バレてましたか。お母さんの反応を伺って、どうすれば勝てるかを探っていました。それで、一つ分かった事があります」
「何?」
「陶子さんはお母さんにそっくりだって事ですよ」
「あたしが? 違う違う! 全然似てないよ!」
「そうですか? 僕にはあなたがお母さんの人生を後追いしている様に見えるのですが」
「………あたしは母親みたく優秀じゃないけど、男選びがダメな点は同じかも」
「今日の戦闘にあたって選ぶ下着までご一緒かと」
「あーっ! やっぱさっきあたしの下着見たんだ! 琢磨君ってムッツリスケベだよね」
「それは相手にもよります」
陶子、少し照れる。
「母親があたしに『医者か弁護士になれ』と言う気持ちはよく分かったよ。どうせあたしはロクな男と結婚できないから、一人で強く生きられる様になれって事でしょ。でもなんか押しつけられるとムカつくんだよね」
「教員の資格を取れば、素敵な出会いがありますよ」
琢磨の心の中で英語の若い女性教諭が舌足らずな口調で、
『無い!絶対無い!』
『人生なめんな、ゴルァ!』
『赤点つけて補習れすかね!』
とシュプレヒコールをあげる。琢磨はそれを華麗にスルー。
(補習という漢字に補修して〜)
「あたしの母親の弱点は『安定したパートナー』だったんだね。あたしにもそんな人ができれば母親なんか敵じゃないかも」
「未成年の僕には分からないけど、恋人と結婚相手は違う、とか言うじゃないですか。家庭の幸せは将来の課題、という事で」
琢磨は先程の攻撃に使った『家庭の幸せ』と書かれたボールペンを一本陶子に渡す。
「琢磨君ってイケメンだし、頭はキレるし、戦闘でもガーディアンデビルズ最強、なんていう噂もあるし、私の悩みも簡単に分かっちゃうんだね」
「最強は言い過ぎでしょう。素手ではあの二人にはとてもかないません」
琢磨の頭の中でくのいちと強が睨みを利かせる。
チョコも琢磨の方を睨んでバットを手に、
『こいつならやれるかも』
と言っている。チョコのは歯は怪獣の様にギザギザになっている。
「ご謙遜がお上手だこと」
「僕の小さい頃父親が家を出て、しばらくして母親が再婚しました。ちょっと似てますよね。僕達の境遇。それと、今の僕は魔法にかけられたシンデレラボーイなんです。本当の僕はそんなに強くもないし聡明でもない」
「シンデレラボーイなんだ。君に魔法をかけてくれた魔女がいるのね」
「はい。緑色の髪と赤色の目をした妖精です」
「好きな女がいると強くなれるってか」
陶子と琢磨、道具屋に戻る。すると突然大きなスクリーンが室内に出現し、森野ミルクが映る。
「琢磨さ〜ん! どうだった〜?」
緑の髪、赤い瞳、美しいバストラインの彼女を陶子はじっと見つめる。
「何もかも計算通りです。今すぐ戻りますから」
ミルクは目の前にチーズケーキを差し出す。
「チーズケーキと一緒に待ってるよ〜」
スクリーンがオフになる。
「さあ、元の世界に戻りましょう。手を繋いで、一緒に『戻りたい』と念じれば帰れます」
「そうね」
二人、手を繋ぎ目を閉じる。しかし暫く経っても何も起こらない。
「あれ、おかしいですね。もう一度やりましょう」
やはり何も起こらない。
「陶子さん、戻りたくないんですか?」
「琢磨君、ちょっと付き合って。忘れ物思い出した」
「元の世界に持って帰る物なんてありましたっけ?」
「いいから来て」
そう言って陶子は心の中で独白。
「(道具屋の中は多分モニターされちゃってるよね)」
陶子は琢磨の手を引っ張って外に出る。そのまま芝生の広場を抜けて森の中に入る。
「ここ、空気が綺麗で気持ちいいね」
陶子は大きく伸びをしてベストを脱ぐ。
「すがすがしいですよね」
と琢磨。
陶子はピッグテールを撫でながらブラウスの第二ボタンを外す。胸の谷間からハートのネックレスが見える。
「琢磨とのデート、楽しかったよ。スイーツショップめぐり。元彼とはあんなデートできなかったから」
「僕も楽しかったです。近所にあんなに美味しい店があったなんて……」
「さっきのお返しだーっ!」
陶子、そう叫んで琢磨に突進し、抱きつき押し倒す。
「うわっ!」
「ねぇ琢磨、キスしようよ」
琢磨、動揺する
「さ、さっきは僕にはときめかないって……」
「琢磨はそうやって何でも理路整然と言葉で説明しようとするよね。でも人の気持ちなんて言葉にできない物が沢山あるんだよ!」
陶子、あおむけの琢磨に乗っかった体勢から彼の唇を無理矢理奪う。二人しばし唇を重ねる。
「抵抗しないんだ。ガーディアンデビルズ最強のくせに。嫌なら払いのければいいじゃん!」
琢磨、心の中で独白。
「(訳がわからない! 彼女を拒んでいいのか? 受け入れるべきなのか? マニュアルが無い! ここで対応を誤ると今までの事が全部水の泡なんて事も……)」
琢磨は動揺したまま、上に乗っている陶子を見つめる。学年は一つだけ上だがそれ以上に大人びて見える。ダイブカプセルに入る直前にお化粧でもしたのか、ほのかに薄紅色のリップ、胸元から漂うキンモクセイの香り、ティファニーのハート型のネックレス。左右に束ねられたピッグテールの髪。
柔らかくも弾力のある体は、
『琢磨、食べてごらんよ』
と誘う極上のスイーツ。
同学年の女子とは違う魅力を備えたこのスイーツハンターを前に琢磨は陥落。
「陶子さん、僕も男だから……」
陶子、ニヤリと笑う。
『人の物だと分かると無闇に欲しくなる』
節陶子の窃盗癖は一朝一夕には完治はしないのであろうか。
二人は強く抱き合ったままもう一度キスをする。舌を絡め、しばし時間が経過する。
「クールな琢磨も可愛いとこあるんだね」
陶子は自分の胸の辺りを両手で寄せて持ち上げる。
「オッパイもさぁ、誰かさんみたく大き過ぎるとタレてくるよ。あたしくらいがちょうどいいの!」
陶子、胸を琢磨の顔に押し付ける。
「窒息させてあげる」
琢磨は赤面しながら両手を彼女の胸に伸ばし、そっとつかむ。陶子から喘ぎ声が漏れる。
「なんか熱くなってきちゃった」
陶子の声に応える様に琢磨の右手が陶子のブラウスのボタンを外し始める。陶子の右の胸を掴んでいる琢磨の左手の『V Alarm 』と刻まれた指輪が赤く輝く。
校内。SF研出張所。精神が現実世界に戻り覚醒して、カプセルから出て来る琢磨。一足先に現実世界に戻っていて、それを見届ける陶子。陶子はちょっと怒った表情。
「陶子さん、ごめんなさい」
「何が?」
「その……最後まで……いけなくて」
「初めてだったんでしょ? 仕方ないよ……って違うでしょ! これも全てあなたの計算だった訳?」
「計算外過ぎて驚いています」
隣室のロビーに居た森野ミルクが入って来る。
「琢磨さ〜ん、おかえりなさ〜い」
「おおっと、魔女の登場だ。琢磨、続きはリアルの世界で。それと……色々ありがとね」
陶子、立ち去る。
「琢磨さ〜ん、陶子ちゃんは先に現実世界に戻って来たよね〜。あの子に何かあったの〜?」
「わがままなあの子を成敗していました」
「そっか〜。だから琢磨さんは後から一人戻ったんだね〜」
琢磨、心の中で独白。
「(ミルクちゃんに僕の浄化モードの事を話すべきか? ……いや、ダメだ。黙っておこう。色々マズい)」




