第42話 弱点は「家庭の幸せ」
陶子の母親節操とのやりとりで、操の弱点を見抜く琢磨。琢磨の攻撃が始まる!
「昔の男の事は忘れて、勝負よ、お母さん」
「昔の事はとっくに忘れてたよ。今ちょっと思い出しちゃったけど」
節親子、剣と槍を振りかざし戦う。琢磨から貰ったシャーペンの剣の威力もあり、今回は互角の勝負である。
「それで琢磨君は将来はどんな仕事をしたいんだい?」
陶子と闘いながら操は琢磨に訊ねる。
「私ですか? 食べ物屋さんに憧れます」
「食べ物屋さん?」
「パンやケーキを売るお店がいいですね。小学生女子のなりたい職業ナンバーワンです」
操の鋭い槍の連打が『ガシッ、ガシッ』と陶子を襲う。
「ああっ! お母さんの攻撃が急に強くなった!」
琢磨が続ける。
「先日、陶子さんと逢引きした際に……」
「逢引きって言うとエロく聞こえるからデートと言ってくれ」
「陶子さんとおデートした際に、繁華街を歩きながら、陶子さんのお気に入りのベーカリーやパティスリーを回ったんです。私の知らない店ばかりだったのですが、どれも美味しいお店ばかりで」
「私はスイーツハンターだからね」
と陶子。
「そういえばお前は小さい頃、『ケーキ屋さんになりたい』って言ってたよね。まだそんな夢を見ているのかい?」
「琢磨さんとデートして、ちょっと昔の夢を思い出したわ」
「ケーキ屋さん! ケーキ屋さんでケーキが食っていけるのか!」
と声をあげて娘の陶子に鋭い攻撃を加える操。
「ケーキが食べられるからケーキ屋さんじゃないの!」
陶子は操の槍をよろめきながらも剣で受けとめる。
「しかしながら、僕はあまり料理のセンスは無いみたいです。ですから、定年退職後にちょっと趣味で小さなお店でも出せたら、と思うのですが。もちろん貯金のごく一部を使ってです」
「お母さんの攻撃が弱くなった! これならいけるかも!」
「老後の食べ物屋さんは置いといて、若い頃はどんな仕事をしたいんだい?」
「ユーチューバーになりたいです」
琢磨のこの言葉に、操の表情が険しくなる。
「貴様……もう一度言ってみろ!」
「小学生男子のなりたい職業ナンバーワンのユーチューバーでーっす。イエィ! チャンネル登録よろしくぅ!」
「親が子になって欲しくない職業ナンバーワンのユーチューバーかーっ!」
操の怒りに満ちた一撃が陶子を襲う。陶子の剣は砕け、体は宙に高く吹っ飛ぶ。
「うぎゃーっ!」
空から落ちてきた陶子を琢磨がお姫様抱っこでぽすんと受け止める。
「これ、あたしの戦いだよね?」
陶子の左腕は擦りむけて少し出血している。それに気づいて琢磨。
「陶子ちゃん、怪我しているよ。手当てしなくちゃ」
琢磨は草原にゴザを敷いて陶子を座らせ、傷口に消毒スプレーを吹きかけ、ガーゼを当て、包帯を巻く。
「ありがとう、琢磨君」
「切磋琢磨が正しい包帯の使い方をしたのを初めて見たのであった」
とのナレーションが流れる。
「別れたダンナは暴力ばっかで、あんな優しい事なんてしてくれなかった! 畜生! 琢磨君、君も剣を抜きなさい。世の中の厳しさを私が教えてあげるわ!」
「仕方ありませんね。どうなっても知りませんよ」
琢磨は懐からボールペンを取り出し、頭の上でクルクルっと回す。それは二メートルくらいの大きな剣に変化する。剣を鞘から抜くと刃には『最優秀賞』と刻まれている。
「ユーチューバーはもちろん仕事の合間でやります。実は僕の進路はずっと前から決めてあるんです」
「今度ふざけた事を言うと切って捨てるよ!」
「お手紙や保険、貯金を扱うあの役所で働きます」
「あ、ああ。あそこね。ところでその剣は何だい?」
「私が琢磨さんに持ってくる様に頼んだの。魚池系列三校統一テストの一位の賞品のボールペンよ」
「人に見せびらかす物でもないので、僕は気が引けたのですが」
「魚池のトップ! 陶子、琢磨君の腕をつかんで!」
陶子は琢磨の腕を抱く。
「え、でも何で?」
「死ぬまで離すな!」
陶子、苦笑い。
「琢磨君、お医者さんには興味ないの?」
「祖父があの役所の田舎の局長をしているんです。そこで働きます。医者って忙しい印象があるし、僕は仕事よりも家庭の幸せを優先したいんです」
琢磨は大きな剣を宙高く掲げ静止した後、勢いよく振りおろす。剣から『家庭の幸せ』と書かれた無数のボールペンが飛び出し操を襲う。
「か、家庭の幸せ……うわーっ!」
操の槍は砕け、ビジネススーツもボロボロになる。ちょっとセクシーな下着の上下があらわになる。
「うわ、あたしと同じ下着だ」
と陶子は呟く。
「さあ陶子ちゃん、決着だ」
琢磨はそう言って、剣を二人で握る。陶子は『えい!』と可愛らしくそれを操に振り下ろす。
「完敗だ。か、家庭の幸せ……」
操は霧の様に消失する。
「陶子ちゃん! 勝ったよ!」
「あたし、勝った、んだよね?」
琢磨は剣を頭上でクルクルと回し元のボールペンに戻す。




