第40話 強、陶子の元彼を撃退!
ダメ男を彼氏にしてしまう陶子。復縁を迫る元彼を強が撃退する!
そこに陶子の元彼がやって来る。ワイルドで少し意地が悪そうな感じである。
「陶子、ちょっと話があるんだけど」
彼の顔を見た途端に陶子の表情が曇る。
「何よ。あんたとはもう関係ないでしょ」
心の中で強は呟く。
「(陶子ちゃんの元彼か? 趣味悪いな。腕っぷしも……見掛け倒しだな)」
ミルクも心の中で呟く。
「(確か『元彼とは体の関係ばかり要求してくるから別れた』って言ってたよね〜。私も要求されてみたいよ〜。うじうじ)」
陶子の元彼は続ける。
「そんな冷たい事言うなよ。お前だって一人じゃ寂しいだろ。ほら、もうすぐお前の誕生日だろ。かみね公園のそばの民宿で一泊しねえか? 入湯税分くらいはおごるぜ」
元彼は陶子の肩に腕を回す。それを払いのける様にして陶子は言う。
「あたしはもう一人じゃないわ。素敵な彼氏ができたんだから!」
「そいつは初耳だ。一体どこのどいつだ。俺がぶっ飛ばしてやろうか」
陶子は強の腕を抱きしめる。
「彼よ。ケンカ十段、剛力強」
「えっ!」
「えっ!」
と元彼と強が同時に声をあげる。陶子は強の腕をつかんだまま元彼を睨みつけている。
「マジで?」
「マジで?」
とまたも元彼と強が同時に声をあげる。
陶子は今度は強に顔を寄せ睨みつけながら、心の中で念波を送る。
『ここは話を合わせろ』
『訴えられたいのか、貴様』
『礼なら弾む』
などの思念が強を襲う。
強の顔には
『空気嫁無くて住まん』
という文字が浮かぶ。
強は右手の拳を左の広げた手に打ちつけながら陶子の元彼を睨みつける。
「誰をぶっ飛ばすって?」
陶子の元彼、蒼ざめる。
「お、お前、切り裂きくのいちと付き合ってるんじゃないのか?」
ミルクは心の中で呟く。
「(やっぱ男相手だと〜強君って迫力あるね〜)」
強は陶子の元彼に答える。
「貴様は黒の燕尾服を着せられ三十キロの荷物を持たされ、アウトレットを五時間行軍させられた経験はあるか?」
「な、何の話……ですか?」
「それくらいならまだいい。その上『お姫様抱っこ』と称する、着衣込み推定六十キロ超の物体をも抱え、クレープ屋、バーゲンの行列、タピオカミルクティーの店などへの二百メートルダッシュを計二十回だ。合計九十キロの荷物を持ってだぞ。さすがの俺も翌日は筋肉痛に喘いだ」
「だからそれは一体……」
「これらが『付き合う』という行為に含まれるのなら、俺は断固付き合いを拒否する」
「何かわからんが、悪かった。疑ったりして」
陶子の元彼、逃げる様に立ち去る。
「強君、サンキュー。助かった」
「俺は構わねえけど、陶子ちゃんの元彼って……」
「アハハ、男見る目ないでしょ、私」
「でもちょっと〜強君に似てな〜い?」
「そんな事ないよ! 強君は女の子に優しいでしょ。あいつは何かあるとすぐひっぱたいたり……あたしの気持ちを無視してあんな事や……」
「あれあれ〜もしかして陶子ちゃ〜ん……」
陶子は赤面して手をバタバタさせる。
「違う違う! 第一、強君に迷惑だし」
そう言いながら陶子はピッグテールを撫でる。鈍感な強は陶子のこのリアクションをスルー。
「強君は甲斐性無いからね〜。将来苦労するよ〜」
「甲斐性って経済力って事だよな? この前琢磨から教わった、借金帳消しの呪文でどうにかならないのか?」
と冗談っぽく尋ねる強。
「呪文よりアウトレットデートを成功させる方が大事だったんだけどダメだったね〜」
ミルクは強とくのいちがくっつく事を願っていたが、今のところ強にはその気はない様子。取っておきの戦法で強とのバトルに勝ってデートにまで持っていったくのいちが不憫に思えてきたミルク。
それはそうと、陶子が母親の操をぎゃふんと言わせる為の作戦を考えなくてはならない。バーチャルリアリティの世界で武力で勝つだけでは意味がない。陶子が何か精神的優位に立てるお膳立てが望ましい。はて、どうしたものか。自慢のバストに民族大移動していたミルクの脳味噌が頭の中に戻りたがっていた。




