第4話 鉄研部長VSくのいち
「話し合いなど時間の無駄」とは離婚経験のある者ならば、誰しも味わう経験であろう(涙)。そんな作者のボヤキはともかく、くのいちは一体どうするのか?
その時部室のドアがバタンと蹴倒される。キックのポーズをとったくのいちが入って来る。強がそれに続く。
「治安維持の会、くのいちこと久野一恵だ。大人しくお縄に着け!」
「同じく剛力強です。こ、こんにちは」
「こんにちはじゃないでしょ、強。ここはカッコよくいかないと!」
「ごめん。登場の練習してこなかったんで緊張しちまった」
くのいちが室内をぐるりと見回す。
「えーと、この優先席に文句無く座れそうなのが鉄研の部長さんね」
「そうじゃが」
「そしてこの、線路に侵入して電車の写真を撮っちゃいそうなのが部員さんね」
「僕は乗り鉄だからマナーは守るよ」
くのいちは沢山くう子に目が行く。
「あなたは?」
「あたしは鉄研部員です。さっき入部しました」
「そうなんだ。すると消去法でいくと……」
くのいちは兼尾貢の胸ぐらをつかむ。
「リア充っぽいお前が悪者ね、兼尾貢!」
「あいたたた、ちょっと待った。俺は被害者だよ、くのいち」
強はくのいちの肩を優しくつかんで、なだめる。そして胸ぐらをつかまれている兼尾に言う。
「すまねえな。こいつは悪の組織の陰謀で、見た目はJKだが中身は幼児になっちまってるんだ」
「悪の組織って遺伝子の事ですか……って誰も聞いちゃいないか」
と部員が呟く。幸いくのいちはこれに気付かずにスルー。気付いていたら部員はタダでは済まなかったであろう。
「カラダはオトナ! 頭はようちえん!……って強に言われたくないわよ!」
とくのいちはボケをかます。
「生まれた時は体重が3500kgあった」と本人談
するとファミコンの安っぽいファンファーレが
『パラリパッパッパッパー』
と鳴る。
「くのいちのノリツッコミポイントが一つ上がった!」
のアナウンス。
兼尾貢はくのいちに胸ぐらをつかまれている。くう子は彼に近寄り、傷をさすってあげながらこう言う。
「あたしが鉄道研究会に入部したから、兼尾君が三万円得したんだって」
「くう子、言い方、言い方!」
「兼尾、貴様自分のカノジョをカネで売ったのか! 女の敵!」
くのいちはふと部長と視線が合う。兼尾をポイっと投げ捨て部長に詰め寄る。
「いくらよ?」
「何がじゃ?」
「あたしならいくらかって訊いているの!」
少しあっけに取られて強が言う。
「そこが問題なのか、くのいち?」
「女の子にとっては結構大事な問題よね」
とくう子。
「九百一円じゃな」
と部長が答える。くのいちだから九百一円とシャレを言ったつもりらしいが彼女にはその冗談は通じなかった。くのいちは部長を睨みつけながら言う。
「この子が三万円であたしは九百一円? う〜、天は人の上に人を作るのね。ねえ強、悪者はこいつって事でいいよね」
その時強の携帯にLINEの着信音が鳴る。強が内容を確認する。
「今、チョコから連絡が入った。やっぱり部長が兼尾貢君から三万円カツアゲしようとしてたらしいぞ」
「そうなんだよ。部長が北海道に電車旅行に行きたいから三万円よこせって俺を脅したんだ」
と兼尾貢。
「それでJR北海道のるもい本線な訳ね」
とくのいちもやっと状況を理解する。
「部長、罰金は被害の倍返しなのは知ってるよね。六万円のお支払いで〜す。毎度あり〜。ほら、さっさとIDカード出して」
部長はくのいちの差し出した手を払いのける。
「鉄拳部長と恐れられているワシのIDカードを奪えるものなら奪ってみよ!」
部長がファイティングポーズをとる。それを見て強が心配そうに声をかける。
「部長、あんた本気でくのいちと闘うのか? 治安維持の会のリーダーだぞ。自分がこの部屋にいる奴の中で何番目に強いのか分かってるのか? ほら、一緒に謝ろうぜ。俺も付き合ってやるから」
強は部長の頭を下に押さえながら自分も頭を下げる。
「すまんくのいち、悪かった。今月の家賃の支払いはもう少し待ってくれ」
「どさくさに紛れて何お願いしてんのよ!」
部長は強の手を払いのける。
「ふざけるでない! 女如きに後れをとるワシではないわ! あたたたたあっ!」
部長はくのいちに拳の連打を放つ。くのいちはノーガードでそれを全てかわし、楽しそうに微笑む。
「つ、強い」
兼尾貢はあっけに取られている。
「部長はこの部屋では四番目だろう」
と強は呟く。
その時くのいちが左ハイキックを放ち部長の右こめかみに突き刺さる。部長がぐらっとする。
「もうちょっと持ちこたえてね」
くのいちは髪飾りの手裏剣を外す。真ん中辺りを指で押すとカチリと音がする。それを部長の前でさささっと振りかざすと部長の服がはらりと落ちてパンツ一枚になる。パンツの柄はお約束の新幹線。ズボンは足元に絡み付いている。
「これでお前の足の自由は奪われた。(可愛らしくポーズを取り) 忍法、殴る蹴るの暴行っ!」
そう言って部長にパンチ、キックの連打をあびせボコボコにするくのいち。ナレーターが解説を入れる。
「完全に無抵抗な相手に容赦ないパンチやキックを加える。これがくのいちの必殺技『忍法、殴る蹴るの暴行』なのであった」
部長は倒れる。くのいちは彼のIDカードを抜き取り、ポケットから小型のカードリーダーを取り出す。カードをかざすとピッと音がする。すまし顔でくのいちは言う。
「さてと、兼尾貢君だっけ?」
「そうだけど」
「今日の出来事をあなたは生徒指導室に報告する義務があるの。分かるわよね?」
うなづく兼尾貢。
くのいちは自分の携帯を覗き込む。携帯のAIが女性の声で、
『梅干しらっきょうクリームパン』
と呟く。部室でくのいちが居眠りしていた時、チョコの声マネをして起こそうとしていたのもこのイタズラ好きなAIである。ちなみに名前はおsiriちゃんという。
「梅干しらっきょうクリームパン、学食でゲットして生徒指導室に持って行って」
「梅干しらっきょう……クリームパン? 持ってけばいいんだな。とにかくありがとう、くのいち」
兼尾貢はゆっくりとカノジョの沢山くう子に歩み寄り、声をかける。
「さあくう子、この部室とは早い内におさらばしようぜ」
「あたしまだちょっと用事があるから、兼尾君先に行ってて」
「大丈夫かよくう子?」
「あたしはもう鉄研部員だから! コスプレ同好会と兼部だけど」




