第36話 陶子の秘密兵器
母親の節操に歯が立たない節陶子。彼女は奥の手を出す。
ミルクの頭の中でユニホーム姿のチョコがツッコミを入れる。
「あの王貞治さんだって『ホームランは狙って打てるものではない』って言ってたよ」
チョコのツッコミをスルーしてほんわかモードのミルクが続ける。
「耳をかっぽじったら〜耳に穴が開いちゃうよ〜。それはそうと〜どうやら私はマジで戦うしかないやうですね〜」
ミルクは電気スタンドを構える。
「陶子ちゃんのお母さ〜ん、あなたには何の恨みも無いけれど〜、私のお弁当を巨大な万年筆で粉々にした代償は払ってもらいますよ〜」
「あら、私がカッコ良く登場した時にそんな事をしちゃったのかい? それは済まなかったね」
節操、一旦槍を元の万年筆に戻す。懐から小切手帳を取り出し、サラサラとサインする。
「これで足りなければ、後で費用明細を私の事務所に送ってくれ」
節操、ミルクに小切手を渡す。そこには『金弍万円也』と書かれている。それをちょっと不思議そうに眺めて、ミルクは陶子に尋ねる。
「陶子ちゃ〜ん、『きんしきまんえんほか』ってどういう意味〜?」
「ナイスヒット、ミルク。ヒットの延長線上にホームランがある事を忘れないで。ちなみにそれは『きん にまんえん なり』と読むの。その紙を銀行に持っていくと二万円もらえるんだよ」
「あの紙に金額を書くだけでお金になるの〜? 凄い、凄過ぎる〜! あなたのお母さんは神様〜? 日銀総裁〜? サンタクロース〜?」
ミルク『ははあっ』と節操にひれ伏す。
「お母さんはそうやって何でもお金で解決するよね。でも世の中にはお金じゃ買えない物だってあるんだから!」
「それは済まなかったね。じゃあ真心で払えばいいのかい?」
ミルクはひたすら土下座しながら答える。
「真心、要りませ〜ん。お金があれば十分です〜。真心では家賃は払えませ〜ん。真心ではお腹もすきま〜す」
『ミルクはこれ以上役には立たない』と見限ったのか、陶子が声をあげる。
「お母さん、私と勝負して!」
「私と勝負? お前はまだ半人前だ。世間の事も何も分かっちゃいない。一人で生きていく力もない。判断力も甘っちょろい」
「うるさいなー、そんな事分かってるよ!」
「手加減はしなくていいんだね」
操は万年筆を再び槍に変型させ構える。
「たあーっ!」
と雄叫びをあげて陶子は剣で母親の操に斬ってかかる。操は万年筆型の槍でそれを軽く受ける。
陶子は矢継ぎ早に剣を繰り出すが全て軽く受け流される。操が槍を横に強く振るうと、陶子の剣は弾け飛ぶ。
「ペンは剣よりも強し、ってことわざを知らないのかい? お前にはもう一度お仕置きが必要な様だねぇ」
ミルクは思わず身構える。
「全体攻撃の二回攻撃が来る〜!」
「ちっくしょー!」
陶子は懐からストレートパーマ機能付きの大きなヘアブラシを取り出す。
「そのブラシは〜!」
「実はあの店でギったのは二回目なんだ。ごめんミルク、隠してて」
陶子はブラシを高く掲げ、バトンの様にクルクルと回す。するとブラシは巨大な剣に変型する。
「体に……全身に力が湧いてくる!」
「うおーりゃ!」
陶子が巨大な剣を振りかざし、操に斬りかかる。さっきと違い、剣のスピードも力も段違いに強くなり、操は防戦一方になる。
「お母さんは……いつだって……いつだって……自分の事ばっかり!」
そう叫んで何度も執拗に剣を浴びせる陶子。遂に一撃が操を捉えてビジネススーツを裂く。
「ぐわっ!」
操は胸の辺りを押さえてかがみ込む。
「やった〜! 陶子ちゃん凄〜い!」
ミルクが歓声をあげたその瞬間、陶子の叫び声が聞こえる。
「ギャアーッ!!」
攻撃を受けていないはずの陶子のブラウスが裂け、胸の辺りからおびただしい量の出血をして彼女は倒れる。
それを見てミルクと操はほぼ同時に声をあげる。
「え、どうして?」
かすれる声で陶子が言う。
「……これしか方法が無かったんだけど、やっぱダメだよね」
「陶子ちゃん、しっかりして!」
そう言って何故か自分の両手で乳房をつかむミルク。
「ミルク……ごめんね」
陶子は全身の力を失う。
自分の乳房をつかんだままのミルクが陶子の体に触れる前に、陶子は霧の様に消失する。




