第33話 悪い子は鍛えて直す!
ガーディアンデビルズ癒し担当の森野ミルクが、節陶子の精神世界へのダイブを買って出る。万引き少女陶子を直せるのか? やっぱムリか?
校長が話を続ける。
「節陶子君を放校処分にするのは簡単だ。でもそうする前に、SF研が開発したダイブシステムを利用できないかと思うのだが。……陶子君には被験者になる同意はすでに取り付けてある」
「じゃあ私に行かせて下さい。あの子の曲がった精神をまっすぐにしてあげたいの。彼の国ではブートキャンプってのがあって、悪い子は鍛えて直してるの。あんな風にやればいいと思うわ」
珍しく意欲満々のミルク。
「ブートキャンプ? 昔、通販の深夜番組で見た記憶が……ビリーズブートキャンプだっけ?」
と言うチョコ。
くのいちと強は目配せをする。二人は立ち上がり前方に出て来て横に並ぶ。
くのいちの隣に立つ強がMCを始める。
「皆さんこんにちは。ご機嫌はいかがですか? 朝のオートミールは美味かったかい? さぁ、今日も楽しくエクササイズを始めよう!」
くのいちがビリーのモノマネをしている強に応える。
「ビリー、オートミールは飽きちゃったわ。今朝あたしはバーガーキングでワッパー(特大バーガー)をペロリよ」
「ワァオ、なんてこった、ジェシー! それじゃあワッパーの分は汗をかいてもらうよ」
「まかせて、ビリー」
くのいちはいじめっ子の歌を口ずさみ始める。
「♫あ〜たしはくのいち〜い〜じめ〜っ子〜」
二人は歌に合わせてスクワットを始める。膝の屈伸に合わせて両腕を前に伸ばしたり引っ込めたり、というエクササイズも加える。
二人の動きはぴったりと合っている。
「ワンツー、ワンツー、初心者はムリしなくていいぞ。筋肉に血液を送れ! ナァウ、カムオン!」
ビリーのモノマネをしている強にくのいちが応える。
「オーケーよビリー。この訓練で、闘う体を手に入れられそうだわ」
テレビショッピングの再現の様な強とくのいちのパフォーマンスを笑いながら見ている琢磨。
「懐かしいなぁ、ビリーズブートキャンプ。でもミルクちゃんがこれをやるの? これで節陶子さんの精神を鍛え直せるの?」
琢磨にうなづきながらくのいちも言う。
「ミルクって体を鍛えさせて精神を直すタイプだっけ? ねぇ校長、あたしが節陶子と一緒にダイブした方がいいんじゃない?」
「くのいちさんと一緒に僕もお供しますよ」
と琢磨。
「うおっほん。優秀な志願者が多くて私は誇りに思う。しかし、ダイブの世界で節陶子を倒すことが目的ではないのだ。手始めに彼女の心の中を探りたい。ミルク君、やってくれるかね?」
「その言葉を待っていました。まずは私一人でやってみます」
数日後の昼休み。2年生の教室。ミルクが手作りの弁当を食べている。
「3年の節陶子だ。邪魔するよ」
そう言って陶子が教室に入って来る。
教室に残っていた教師に彼女が目配せをすると、教師は出て行く。陶子はアンタッチャブルな存在なのか。
彼女は弁当を食べているミルクの席の隣にドカッと座る。
「随分美味そうな物、食ってんじゃねぇか」
「おすそ分けしようか〜」
凄んだ表情の陶子に笑顔で答えるミルク。陶子が本当に食べたそうなのを言外に感じ取っている。
教室には携帯アーミーのメンバーが何人かいる。
「お前にパクられたおかげで学校からまた呼び出された。親から散々絞られた」
「それって〜誰のせいなの〜」
「おまけにダイブシステムとかいう装置の実験台にされるみてえだ」
「悪い子を直す装置だよね〜。陶子ちゃんがんばって〜」
まるで他人事の様なミルクの言葉にカッとなる陶子。
「お前のそのスカした態度見てるとムカつくんだよ!」
拳を振り上げてミルクを威嚇する陶子。
一方のミルクは……楽しそうに微笑んでいる。まるで檻に入れられた猛獣を興味本位で眺めてでもいるかの様だ。
「陶子ちゃん大丈夫か?」
教室の入り口から声がして、強が入って来る。
陶子はミルクに振り上げた拳を下ろす。
「お姫様には守ってくれるホワイトナイト(白馬の騎士)がいるってか。はいはい」
陶子に近づき、じっと見つめる強。
「節陶子……先輩。あなた自分がこの教室で何番目に強いか分かっていますか?」
出し抜けな質問にちょっと戸惑う彩子。
「男子はともかく、周りにいるのは全員2年坊だろ? あたしに盾突くやつなんていねえだろ」
「残念ながらあんたは女子でも3番以下だ」
強の言葉に思わず言葉を荒げる陶子。
「何言ってんだこの野郎。意味わかんねえ!」
陶子は強を睨みつける。しかし強は優しい笑顔で陶子を見つめ返す。
それを見て陶子は何故かうつむいてピッグテールの髪をいじる。
「あれ、誰かと思ったら節陶子じゃん」
くのいちが教室に入って来る。携帯アーミーに手を振っている。笑顔で答える携帯アーミーのメンバー達。強やくのいちがこのタイミングでミルクの教室に来たのは偶然ではないのだ。
くのいちは先輩にも『さん』付けはしない。割井校長にも『あんた』呼ばわりするくらいだ。陶子を物品でも眺める様にして、強に言う。
「あたし、あれから色々調べたんだけど、ブートキャンプって結構儲かるんだね。6万ドルくらいって聞いた」
「最近はインフレで〜もうちょっと高いかもよ〜」
とミルク。
「こいつん家って結構お金あるんだっけ? 魚池の訴訟を任されているのよね。いくらだっけ?」
「200億円だよね〜」
それを聞いてくのいちはいきなり、長い腕で陶子の首を背後から巻いて絞める。
「この子、誘拐しちゃおうよ。身代金たんまりもらえそうじゃん」
いきなり首を絞められ驚く陶子
「くっ……放せくのいち」
「ねぇ強、あんたも協力してよ。あたしが300万、あんたが100万、万が一の体の処理でミルクに100万、これでどう?」
陶子は必死にもがくが、くのいちの腕はしっかり首に絡みつき、びくともしない。
強は仕方なく、くのいちの背後からスカートをまくり上げる。
「水色と白のストライプか。ボカロ仕様だな」
「キャーッ!」
思わず陶子から腕を放すくのいち。
「母親の顔を立てるために、明日のダイブシステムには協力する。でも必ず私とミルクの2人で来てよね!」
そう捨てゼリフを吐いて逃げる様に教室から出て行く陶子。
くのいちは強の頭をコツンと叩く。強はあえて防御はせず。
「いてっ」
「くのちゃんのお陰で〜明日のダイブはやり易くなったかも〜。ありがとね〜」
「けど陶子ちゃん、『母親の顔を立てるため』とか言っていたよな」
くのいちが答える。
「母親の弁護士先生には、とっくに見放されてんだけどね」
「その事は陶子ちゃんには言うなよ、くのいち」
「あんたって案外大人なんだね」




