第32話 節陶子 万引き前科四犯
万引きで四回も捕まっているのに停学にすらならない節陶子。彼女はVIP様の特別待遇なのだ。彼女への処遇に納得のいかないミルクは校長に喰ってかかる。
ガーディアンデビルズの部室。黒板の前にプロジェクターのスクリーンが掛かっている。その前で話をする校長。頭の禿げはほとんど見られない。
話を聞いているのは強、くのいち、琢磨、ミルク、チョコ。
「今回の任務は少々特殊だ。いじめ、暴力沙汰などではない。また、校内の問題でもない」
校長、スクリーンに節陶子の顔写真を映す。制服姿で両サイドの髪を束ねたツインテールの髪型。束ねた髪が肩にギリギリ届いていないのでピッグテールというのであろうか。高校生にしては大人びて見える。写真で改めて見てもなかなかの美人であるが少し怒った様な表情が気になる。
「節陶子。三年。先日魚池ドラッグズ&コスメで万引きしている所をミルク君が捕まえた。彼女は他の店での前歴があり、わかっているだけでこれで四回目だ」
「ふーん、VIP様って訳ね」
「ビップって何だ?」
と強。くのいちが答える。
「あんたが赤点を繰り返したら留年か退学だけど、この子は万引きで四回も捕まっても、まだ学校に居られるって事よ。Very Important Person (とても重要な人物)」
「そんな! 俺は重要じゃないって事か?」
「大丈夫。強は重要な玩具だから」
とチョコが言う。琢磨が大きくうなづいている。
校長、スクリーンに節陶子の母親である節操の顔写真を映す。高級そうなスーツとネックレス、髪は後ろに束ね、ピシッとした印象の知的美人。
「節陶子の母親、弁護士の節操先生だ。魚池大学法学部の伝説のOGだ。我らが魚池グループから二百億円を騙し取った外資系のハゲタカ証券を相手取り、返還訴訟の弁護団を組織したのが彼女だ。弁護報酬も成功金額の僅か十五パーセントという破格の安値で請け負ってくれた。我らがグループは彼女にすがるしかないのだ」
琢磨が口を挟む。
「それでその弁護士先生から娘を宜しく、と頼まれた」
「琢磨君、それは違う。節陶子君を退学にしないのは私の個人的裁量だ。母親は半ば彼女を諦めている様子で、『退学にでも何でもしてくれ』と何度も私に言ってきている。因みに節親子は母子家庭だ。この事は内密にな。私としては、我が校のためにあそこまで尽くしてくれる弁護士先生に何か報いる事ができないかと思案しているだけなのだ」
いつもはおっとり口調のミルクが今回の騒動に関してはシリアスモードで話す。
「陶子を甘やかす事が母親の操先生へのお礼なんですか? それっておかしいですよ! 悪い事をしたら罰を受けさせる事が教育でしょう?」
ミルクの思わぬ攻撃に少したじろぐ校長。
「確かにこれは不平等かもしれない。だが学園の貢献度に応じて待遇が変わるのは必要なシステムだと私は考えている。例えばミルク、君は特別推薦留学生という待遇だ。学費はもちろん、生活費まで補助が下りている。君はその代わりに学園のrole model (模範) でいるという宿命を背負っているんだよ」
「それは分かっています。だけど……この学園を創った人は『人間は神様の前ではみんな平等』って言っていたけど、実際は違う。お金や力のある人はいい扱いを受ける。彼の国だって『誰にでも成功のチャンスがある』なんて言いながら実際には『ガラスの天井』なんていうフレーズもある。何も持っていない人は上に昇ろうとしても、見えないガラスにブロックされてそれでおしまい」
熱くなっているミルクに強が火消しに回る。
「能力のあるお前はいい扱いを受けているんだ。それぐらいにしておけ、ミルク」
ミルクはちょっと恨めしそうに強を睨む。




